2018年2月10日土曜日

大ちゃん






ここ数年、一年に撮影した中でのベストショットを使って賀状を作成し、お世話になった方々、随分ご無沙汰してしまっている方々にご挨拶を送っている。

ベストショットは一年間の最高の一瞬と必ずしも一致しない。それでも一つに決める時には、何やら厳かな気持ちになる。

近況報告と一緒に家族の写真を送ってくれる方が多いが、とても楽しみにしている。その中で、前の会社の上司が送ってくれた数枚の写真の中の一つ、今の会社の仲間達との写真に釘付けになった。

もともと日本人は若く見られるというが、彼も本当にいつでも変わらず若く、パリのオフィスに出張に来た時には、皆で大歓迎し、変わらぬ彼を称賛したものだった。秘かに彼を慕うスタッフも何人かいた。突然の会社売却という驚きの終わり方になった際、転身するにも精神的についていくことがやっとだった。彼は同業でも外資から日系に移り、しかも担当市場が変わり、機関投資家向けからリテールにと大きな転身をやってのけた。しかし随分つらい時期があったのだと想像するに難くない。今回、初めて、今の会社の仲間達とのショットで、爽やかな笑顔に久しぶりに接することができた。新たな人生を自分のものとして、自信に満ちて歩いている様子を垣間見、胸が熱くなった。

いや、実は釘付けになったのは、彼の笑顔にだけではない。彼の横に座っている男性の顔に見覚えがあったのだ。大学の時の同級生。忘れもしない「大ちゃん」ではないか!

オレンジ色の彼のジャケットを鮮やかに思い出すことはできても、大ちゃんのフルネームは出てこない。駒場から渋谷駅まで一緒に歩いて帰った日々が懐かしく思い出される。学園祭でクラスで劇を出すことになり、ガキん子役の私にちょっかいを出す役だった彼は、確か、実際女性にどうアプローチすべきなのか分からないから、何もしないので一度一緒にホテルに行ってくれないか、と真面目な顔で言って来たっけ。人の話に裏があるなんて思いもよらない青かった当時の私は、真面目に彼の話を受け、役作りのためなら、ホテルにだって、どこにだって行く心づもりであることを伝えたように覚えているが、実際のところ、どうだったか。結局はそんな時間を持たずに、本番を迎えたことだけは覚えている。確か上野か日暮里だったのか山手線の駅を利用していて、池袋で降りる私と一緒になる機会が多かった。

その大ちゃんが、実はクラスでも大人し目の、しっとり美人に思いを寄せていたとか、実はゲイだったとか、色んな噂を後で耳にし、なんだかはぐらかされた思いがし、それでも、まあ、そんなものかと思ったように覚えている。入学した年のクラスは一緒でも、進学した学部が違ってしまったため、大学の後半の2年間は全く会う機会もなかった。卒業後彼が大学院に進んだのか、或いは就職したのかも、定かではない。実際のところ、進学した学部さえも覚えていない。

その大ちゃんが、写真で、眩しそうに静かに笑っていた。

上司にすぐに返事を書き、相変わらず若々しく元気な様子を讃え、同時に、写真の中の「大ちゃん」について触れた。名前を失念してしまったが、学生時代の仲間に違いない、と。

すると、上司からすぐに返事がきた。

「隣にすわっているのは、さすがに20代の若者だから大ちゃんではなさそう(笑)。彼がニューヨーク赴任になって記念撮影したんだ。」

なんと!

私の記憶の「大ちゃん」は、20歳で時間が止まっていたことに漸く気がつく。そりゃあそうか。写真の大ちゃんは、さすがに50歳のおっさんの顔はしていなかった。

大ちゃん、元気にしているかしら。通りですれ違うことがあったとしても、ひょっとしたらお互いに分からないかもしれない。私の記憶の「大ちゃん」が20歳であるように、彼の記憶の私は20歳なのだから。






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