2017年1月31日火曜日

本当の原因









朝から歯茎がしくしくしていた。夕方には噛むことも一苦労になり、スープでさえ呑み込めない状態に。夜はずきんずきんと痛みが激しくなり、眠れなかった。

翌朝、痛む範囲が広がり、しゃべることも億劫になりながらも出社。取り敢えず、どうしてもやるべき事を片付け、漸く開店した薬局に飛び込む。痛み止めをもらい、近所のお薦めの歯科医を教えてもらう。

しかし、何度電話をしても応答なし。医者だけは適当に選んではなるまいと思うが、背に腹は代えられない。最近はネットで予約可能な医者のポータルサイトがある。予約可能な時間帯が明示され、住所をクリックすれば、地図が現れる。医者の顔写真入り。歯医者は技術革新が目覚ましい分野であろう。なるべく若そうな、優秀な技術者の面影も備えた人物を選びたいところだが、経験も必要であろう。それより、今、すぐに診てもらえることが最優先事項か。

そうやって選んだ歯科医に12時半に飛んで行く。これまで、歯医者の待合室と言えばクラシック音楽が流れている広大なサロンが多かったが、ドアを開けるといきなり、小さな空間が現れ、そこに三つほど、簡素な椅子が置いてあった。ランチの時間だったのだろうか。香辛料の強い匂いが漂っている。一瞬、迷った。が、とにかく痛いので、椅子に腰を下ろした。

アラブ系のすらっとした50代の女性が入ってくる。さあ、どうぞ、と通された治療室には若い黒人女性のアシスタントがマスクをかけて待っていた。椅子に座り、歯を開けるや、二人が早口でまくしたて始めた。

「これは酷いわね。」「ちょっと、見てよ。」「もうだめね。」「麻酔は?」「必要ないわよ。」「とにかく下の歯からいくわよ。」

おおっ!待って!痛い、痛い、痛い!!!

真っ青になったり、真っ赤になったり、手を挙げて痛みを表明したり、大騒ぎ。

すると、「このままだったら、歯が全部抜け落ちちゃいますよ。一体、いつもどんな風に歯を磨いているのですか。」

若いアシスタントがマスクで眼鏡しか見えないような顔で、「厳しいことを言いますが、この奥歯、これはもうだめ。それから、こちらの上全部、もうだめです。一年も待たずに、抜けますよ。」

慌てて、歯科医が「なんとかなるかもしれないわよ。」と受ける。

一瞬、どのみち全部抜け落ちるなら、こんなに痛い治療など受けずに放置します、と言おうかとも思ったが、そんなことでも言おうものなら、本当に彼女たちに軽蔑され、椅子から蹴落とされ、もう来なくていいですよ、と外に放り投げだされてしまうだろうと思われた。それぐらい気迫のこもった対応であった。

分かりました。歯を失いたくないです。頑張ります。

できるだけ声を出さず、テーブルを掴んで痛みを我慢。

子供三人産んだので、彼等に全部栄養を持っていかれたから、仕方がないのか、と思っていたが、これは全くの誤認であることが分かった。歯ぎしりの癖や歯を噛みしめる癖がいけないのかと思ったこともある。幼い頃に、強い歯で紐をちぎったりしたことがいけなかったのだろうと思ったこともある。

現在の自分のあり様が原因だとは思ってもみなかった。
なんと!

抗生物質、カルシウム強化剤、消毒薬を処方してもらう。先程薬局で買った薬を出すと、「あなたには、全く必要のないものね。」と一蹴。「まあ、抗生物質は売れないしで、こういった薬でお茶を濁すしかないのよね。」とも。

溺れる者は藁をもつかむ状態だったので、薬局には感謝しています、と言うと、漸く歯科医に笑みが浮かぶ。

スーパーで歯磨きセットを購入。これからは、朝、昼、晩ときっちりとブラッシングしよう。次のアポまでに、少しは歯茎を磨かないと。

鏡で見ると確かに血色がよくなっているのか、綺麗なピンク色。いつもこんな色だった気もするが、歯や歯茎なんて、ちっとも鏡でチェックしていなかったことに気が付かされる。

自分を甘やかした結果なのかと思うと、この厳しい歯科医の言う通りにしようと強く思う。諦めずに。

出会いに感謝し、歯ブラシを当てる。







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2017年1月29日日曜日

冬の森









冬の森

溢れ出るあらゆる想いが空に吸い込まれて

残るのは

冬枯れの木立





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2017年1月25日水曜日

留学している娘に








厳しい選択を迫られ、辛い思いをしていると思います。
試験の点数が思っていたよりとれていなかったということは、自分の考えがいかに甘かったか、と深く反省してください。

中国に留学したことは、とても良い経験になったと信じています。一人でどんな思いで頑張ったのか!偉い。中国の時は、あの環境で中国語を学ぶ、つまり、生活していること自体が学びでした。

今の環境は、ちょっと違うのです。一人で生活することに加えて、一人で勉強もしなければなりません。数学、経済、統計学、会計学、色々あります。

ママも留学したことがあるので分かります。とても大変なことです。

海外に一人で住んでいることだけで、本当に大変なことなのです。それに加えて、母国語ではない言語で学ばねばならないのです。これまで以上の努力が必要なのです。フランス語なら、1時間で解ることを二時間かけなければならないのかもしれません。そのことを蔑ろに考えてはいけません。

本当は自分の得意科目なので、簡単にできるはずなのに、と思うこともあると思います。自分ができない、と卑下する必要はありませんが、これまで以上に頑張る必死の努力をすることを忘れてはなりません。

自分をコントロールするのは、自分です。

そして、すべては自分に帰ってくるのです。結果の責任を取るのは、自分だけです。オーストラリアのアボリジニーのブーメランと一緒。

一体、どんな思いで、一人でこの寒い風の吹く彼の地に来ているのか。初心を思い出してください。どんな自分になりたいのか。

ママは学科を変えること自体、問題とは思っていません。でも、学科を変えたから、それで、簡単になるとは思っていません。これまで通りの勉強の仕方では、落第してしまいます。留年は認められないので、新たに別の大学に入学する必要が出てきます。落第することで、人間の厚みがでるかもしれません。でも、そんなことが出来る程、図太い神経の持ち主でもないと思います。落第することは、辛い。できたら、次のステップに明るく上を向いて飛び出していける方がいい。そのためには、努力しかありません。

これまでと同じ勉強のペースでは、学科を変えてもダメであること、しっかりと自覚してください。ちゃんと毎週のスケジュールをたてること。今日やることを、朝のうちにリストアップすること。それが出来ていないうちは、一日が終わらないと思わないと。

自分に甘くすると、どこまでも甘くなります。でも、一人だから、誰もアドバイスをしてくれません。

一人であることは、自由だけれど、管理されている環境にある以上にストイックに自分を管理する必要があるのです。そのことに、もう気が付いていることでしょう。

自分が自分に負けるなんて、それ程悔しいことはないと思います。

人間は安きに流れる。そう、楽な方、楽な方に、行ってしまいがちです。その時には、目標を思い出してください。今の大学を卒業し、大学院に行く夢でもいいです。国連に行く夢でもいいです。仕事をするでもいい。夢を持ってください。次に何をしたいか。そのための、今は準備段階です。

こういった話をクリスマスの休暇にできると良かったのですが、お互い時間がありませんでしたね。ママは貴女を信じています。親はいつだって子供を一番に応援しています。

さあ、やる時はやれ!
必要な時は言ってくれれば、すぐに飛んで会いに行くから。




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2017年1月22日日曜日

踊る影法師






寒くて小さく凍えている日曜の午後、
思い切って外に出て見る。

思いの外、太陽の日差しは暖かく、冬でも太陽は燃えていて、太陽は太陽であることに感じ入る。

勉強をしなきゃと張り切っていた末娘バッタに声を掛けると、これまた思いの外簡単に一緒に外に出てくる。

誰にも会わないよね、と、部屋着に軽いダウンを羽織った格好。

道端で啄んでいるチビ介ピーに挨拶をすると、ママ、やめてよ、と。どうやら周りを気にするらしいが、人っ子一人いやしない。誰が見ているか分からないのよ、とは彼女の弁。自分の格好はどうなのよ、と言って二人大笑い。

真っ青な冬空に真っ白な飛行機雲が一直線に描かれていく様子を見て、これ、この雲、大好きと大騒ぎ。

凍てついた空間に、枝をピンと張る裸木を見て、この木の下で写真を撮ってよ、とまた一騒ぎ。

気が付くと、影法師も踊っている。







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2017年1月21日土曜日

緑の芋虫君







モバイルオペレーターからのセールスコールが煩わしい。
一体、いつライバル社に携帯番号が伝わったのか。着信拒否としても、いつの間にか別の番号を使って掛けてくる。次第に、登録していない番号からの電話は機械的に取らなくなっている。

それでも、呼び出し音は鳴るので、仕事中はボリュームを消していることが多い。
後からメッセージが入っていることに気が付き慌てることもあるが、大して支障はない。

そんな状態で見つけたLINEメッセージ。
送られてきた画像には、バイオリンケースの中にバイオリン、もとい、緑の芋虫君のぬいぐるみが収まっている。

おいおい。
中学生の息子のバイオリンケースに、そんな悪戯をするなんて。
だから声変わりしても、彼はいつまでたってもママっ子なんじゃないか。そろそろ、そんなママの行為を嫌がっても良さそうなのだが、本人も嬉しがっているに違いない。まったく、こんな画像を送ってくるなんて、どういう料簡なのか。

中学時代、書道教室で筆をとろうとカバンを開けたら縫いぐるみが出てきて慌てて隠したことを思い出す。学校でも、スポーツバックに入れられたっけ。あの頃とちっとも変っていない。

やれやれ。
嫌味の一つでも書き送ろうかと思っていると、メッセージが届く。
「元気でた?」

モノトーンの世界から一瞬にして鮮やかなカラーの世界に。
優しい思いがゆっくりと身体中に伝わる。

ありがとう。
元気、でたよ。





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2017年1月16日月曜日

ふっとちょの鳩









ふっとちょの鳩が一人地面をついばんでいる。
仲間はどこへいったのか。

遊びに来る鳥たちは、時間割でもあるかのように、決まって集団行動。
コマドリやキツツキが時々、一人できままに遊びにくるぐらい。
スズメもカケスもカササギも、仲間で遊びにくる。鳩も例外ではない。

ところが、寒い中に珍しく太っちょ君は一人。

凍った地面にミミズでも見つけたのか、嬉しそうにぷるぷる震えながら、しきりについばんでいる。

くーと鳴くでもなく、一心不乱のその姿は愛嬌さえ感じられる。


鳩への特別の思いなんて、今まで感じたことがないのに、突然の温かな感情に自分でも戸惑ってしまう。


冬の斜めから差し込む太陽の光を浴びて、ぬくぬくと一人地面を歩き回る姿に見とれてしまう。


その図太さ、気に入ったぞ!





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2017年1月15日日曜日

ある冬の土曜の午後







「ねえ、雪が降ってきたよ。」

水気をたっぷり含んだ大きな一片がぽとりぽとりと舞い降りている。

「積もるかな。」
土曜の午後、一人で家に残っていた息子バッタが応じる。

地面にたどり着く前に溶けてしまいそうな雪片。
あめゆじゅ。

そのうち、雪が降っても、伝える相手がいなくなるのか。

ひっそりと静まり返った庭に、あめゆじゅだけがぽとりぽとりと舞い降り、
地面にたどり着く前に、
溶けて、消えてゆく





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2017年1月13日金曜日

新年のメッセージ







新年早々にメッセージが届く。

そうね。
近いうちに会えると本当に嬉しいけれど。


年を重ねると、時間の流れが速いと感じると同時に、若い頃のように、この瞬間に、すぐ!といった焦燥感が薄れてくる。我慢強くなるというか、気長になるというのか、人生のなんたるものかを分かり始めてきたというのか。

本当は、今、この瞬間に会いたい。
それでも、そう思う気持ちをゆっくりと楽しむ余裕も出てきてしまっている。

そっとしておこう。
大切に。






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2017年1月11日水曜日

プルースト効果









このマドレーヌには、レモンが入っているのですか?

鱸を捌こうと、出刃包丁を丁寧に研いでいると、こんなに熱心に長い間包丁を研いでいる姿を見たことがない、と面白そうに感心していた青年が、今度は先程食べたマドレーヌの話をする。

そうよ。分かった?

そう言うと、嬉しそうに頷く。

正確に言えばライム。丁度レモンを切らしてしまったので、濃厚な緑色のライムの皮を削り入れた。爽やかな香りと、思いがけない彩を生地に添えていた。青年の嬉しそうな表情に、ライムだったわ、とも言えずに、まあ同じ柑橘類だから、いいか、とする。これが息子バッタなら、ベルガモットでさえも、レモンと一括りにしてしまうと煩いところ。

出刃包丁なんて、普通のフランスのご家庭ではお目見えしないのだろう。ましてや、それを研ぐなんて、滅多に見られまい。

フランスに留学で来てすぐに、マルシェで買い求めたものが研ぎ石。フランスの全く切れない包丁に呆れていた時、目にし、すぐに手に入れた。

久々の長女バッタがいる食卓に、お刺身をと張り切ってしまう。きっとバッタ達も親となれば、いつか子供たちのために包丁を研ぎ、お刺身を造るのだろう。

くだんの青年は、いつかまたライムの香りが豊かなマドレーヌを口にする時がくれば、包丁を真剣に研ぐ姿を思い出すだろうか。

どうやらプルースト効果は、作り手にも現れるようである。





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2017年1月9日月曜日

凍てついた日には






凍てついた冬の庭で、何かが白く光っている。
慌てて外に出て見ると、蜘蛛の巣。すっかりと凍ってしまっている。

長女バッタが幼い時、雨が降る前に慌てて蜘蛛は巣を張るんだよ、と言うと、「あ、蜘蛛さん、間違っちゃったかな」と、あどけない表情で空を見上げたっけ。

彼女の見上げた向こうには、雨なんかの気配はちっともなく、真っ青な空が広がっていた。


凍った蜘蛛の巣の主はどこへ行ったんだろう。
風が吹いてしまえば、ぱりぱりと音を立てて壊れてしまいそう。

いや、蜘蛛の巣が奏でる音楽って、ちょっと悪くない。
秘密のメッセージが込められていそうな気さえしてくるから不思議。

そう。
凍てついた日には蜘蛛の巣でメッセージを送ろう。
相手に届く頃には丁度よく溶け始め、しゃらしゃらと音楽を奏で始めるだろう。

メッセージは一度だけ。
どうぞ心して聞いてください。








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