2015年10月31日土曜日

確かな予感







半ば眠りの中でメールを確認し、返事を書き、暫しまどろみ、車の揺れで駅に着く頃と身体が反応し、席を立つ準備をする。ぼんやりとバスを降りて、視界に広がる燃え立つ空に立ち止まってしまう。

空が燃えている。

慌ててシャッターを切り、そんな酔狂な通勤者が自分一人だけであることに、驚きを覚える。

後ろ髪を引かれる思いで走り去り、階段を転がるように駆け下り、プラットフォームに滑り込むと、丁度電車が動き始めたところ。

いつもなら、呆れるか、自分の馬鹿さ加減にイラつくかするのに、電車に乗り遅れる程の価値があったと開き直る思いの方が大きく勝る。そして、もう一度あの燃える空を見に行こうかとさえ考えてしまう。

確かな予感を覚える。
そこはかとない幸せ感が胸を満たし、そっと瞼を閉じる。






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2015年10月24日土曜日

思索の森






静謐さの中に時の流れを思う。


日増しに色調が濃くなり炎のような色に染まっていく蔦の葉。

薄明るい朝の光の中で、
輝かしい日中の日差しの中で、
日が傾いて全体が優しく色が落ちていく中で、

或いは、

吐く息も白い冷たさの中で、
暖かな太陽の日差しに汗ばむほどの中で、
しっとりとした夕闇の中で、

その色を変えていく。


時は留まることを知らず、
人は時に永遠を願う。


変わらないものは一つもなく、
暮れない日はなく、明けない夜もない。
確かなことは、その絶え間なく移ろいゆく時の流れ。
確かにこの手にあったぬくもりは、いつかは消え去るもの。



秋は人を思索の森に誘い込む。






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2015年10月21日水曜日

一日の始まり



時刻を確かめると、いつもよりほんの少しだけ早い。
メールを見始めると遅れてしまうかもしれない。
なら、ちょっとだけ早く出ようか。


ドアの鍵を開け、また丁寧に閉め、外を振り向けば満天の星空。
日はこんなにも短くなっていたのか。
蔦の葉の色だけでなく、頬を過ぎる朝の空気だけでなく、早朝の星空に、しっかりと秋の深まりを感じる。


バカンスで閑散とした通りに、シルバーペンギンが所在無げに佇んでいる。フロントガラスは結露しているが、まだ霜が降りたり、氷が張っているわけではない。


オレンジ色の街路灯がまぶしい程に、バス停までの坂道を照らしてくれている。


時間が十分あるのに、つい、いつもの通りに駆け足になってしまう。
ベッドの中に置いてきた温もりを振り切るかのように。


そうして、星空のことも、真っ白なフロントガラスも、まばゆい街路灯の光も、頭から消えてしまい、確かな重みで駆け上がってくるバスの中に吸い込まれていく。


一日の始まり。




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2015年10月20日火曜日

上弦の月




何度読んでも、幾つものシナリオが浮かんでしまって、
本当のところ、伝えたいメッセージを確実に把握しているのか分からない。
いつものように、自分勝手に読みたいように解釈してしまっているのだろうか。



深みのある文章は幾つもの意味合いを持っている。
と言うのも、読み手次第で解釈も変わるものだから。



つまるところ、色んな角度で立体的に解釈したいと思う読み手の存在こそ大きい、といったところか。



L'acte est vierge, même répété.



乗客もまばらな夜の闇を走るバスに揺られながら、心の芯の熱さを持て余す。
見上げた夜空に、上弦の月。







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2015年10月19日月曜日

彼女の人生






ちょっと飲まない、ってことになって、
気が付いたら女友達4人。皆好き勝手な話をして大騒ぎ。

と、一人がやけに絡んでくる。
「いいよねぇ。自由なんだもん。ねえ、彼氏は? もったいないよ。早くいい人見つけなよ。」
そして、だれそれは恋人ができて幸せに過ごしているとか、つまらないことを言い始める。

別にさぁ。私が淋しそうにしているって? もの欲しそうにしているって?
そう言いたくなる気持ちを抑え、酔っ払いの話ということで、聞き流していた。
それでも、しつこく、彼氏の存在を探ってくる。

そのうち、皆、門限があったり、そろそろ帰らなきゃモードに。
絡んできていた彼女が、車なので酔いを醒まさなきゃ、と一人残る。
そして、ぽつり、ぽつり、と語りだす。

夫婦だからといって、全てを話し合うわけでもなく、金銭面で支え合っているわけでもないらしい。

聞いていて、ああ、彼女は自分が自由になりたいんだな、と思う。ひょっとしたら心惹かれる相手との出会いがあったのかもしれない。

そうね。
皆、色々あるよね。それが人生、なのかな。
まあ、今手にしている人生を大いに楽しもうよ。ね。
さあ、元気を出して。
応援しているよ。







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2015年10月18日日曜日

鶏胸肉と人参のビーフン







二週間の旅行に出る息子バッタ。
シャイな彼には珍しく、自分からスピーチコンテストに出場し、入賞。その副賞がなんと二週間の中国旅行。うまいことに長女バッタの留学先にも立ち寄る旅程となっていた。

出発は土曜の午後。その当日の朝から一緒に買い物。前の週末はパパのところなので、旅行の準備もできなかったと言えばそうなのだが、パパと一緒に買い物に行って、準備してもよさそうなもの。まあ、うるさいことは言うまい。

旅先で必要な歯ブラシ、歯磨き粉、デオドラント、シャンプー、整髪剤、下着、ビスケット。お世話になるご家庭へのプレゼント。リストは尽きない。

ところが、スーパーの入り口でパパから彼に電話。まあ、旅に出る息子に一言なのか、と思っていたが、どうやら学校の話をしているらしい。これが長電話。こちらは、一緒にいながら、リストの商品を探し、声を出さずに、電話の相手を気遣っている。バカバカしくなってくる。さっさと必要なものをカートに入れる。

パパとの電話が終わるころ、リストの品物も全てカートに入る。

と、ソシソンを買わなきゃ、と息子バッタ。
長女バッタから、フランスから持ってきて欲しいと、言われたらしい。なるべく細いものをご所望とか。笑ってしまう。そう言えば、彼女が北京に発つ前の日の壮行会の夕食は、カレーを所望された。


我が家に帰ってきて、せっかくだからと、あれもこれもと長女バッタ用に袋に入れて息子バッタに渡すと、溜息が返ってくる。

つい大声を出してしまう。

そもそも、スーツケース二つOKなのである。一つは遠くに一人でいる長女バッタの為に持って行くぐらいの優しい気持ちはないのか。末娘バッタがいそいそと長女バッタに言われた靴やら洋服を準備していると、そんなもの持っていけないと大騒ぎしていた息子バッタ。全く情けない。

だいたい、ママと買い物にいっている間中ずうっとパパと携帯で話をしているなんて、そんな失礼なことをする馬鹿とは、もう一緒に買い物もしたくない、空港にも連れて行かない、何もしてあげない、と啖呵を切る。


暫く、写真の整理をしていると、掃除機の音が聞こえてくる。息子バッタ。洗濯物を片付け、机の上を綺麗にし、掃除機をかけているらしい。

そう言えば、この間はビーフンを夕食に作ってくれていたっけ。綺麗にスライスされた人参と赤いトマト。ぶつぶつ切りの鶏の胸肉。今度は、そぎ切りを教えてあげなきゃ、と思う。彼のラーメン以外の最初の手作りの一品がビーフンであったことに、感慨を覚える。


さあ、もうお昼。彼の出発前に、何か作らないと。
深まる秋の日差しがゆるやかにキッチンに差し込み始める。







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2015年10月15日木曜日

返歌







えっ。
サイトで場所を確かめてドキリとする。高級ビストロではないか。美味しいワインが飲めるはずだから、と、そこを予約した理由がさりげなく書いてあったが、どうやら、ジーンズで気軽に行くようなところではなさそう。一体どうしたというのだろう。なんだか、覚悟して臨まねばと、緊張感が走る。


そもそも、先週、「パリの仕事を遠距離で続けることになったよ。だから、パリにも頻繁に行くことになりそうだ。その時には会おう。」とメールをもらっていた。何となく予感がして、すぐに返事を書いた。

その人の代わりがいない、なんてことは決してない、なんて言うけど、ほらね。やっぱり皆、あなたを自分の傍に置いておきたいのよ。パリに来た時には教えてね。Chateau Lagrezetteの2009年を取っておいてあるから。どう?魅力的でしょ?まだまだ書きたいことはあるけど、取り敢えずこのメールを送ります。早く「coucou(今日は)」を届けたいから。

実は、長々と月と太陽についての思いを書いたのだが、なんだかおかしいので全部消してしまっていた。


すると、翌日返事が来る。
「やあ、今晩は。
そうだね。Chateau Lagrezetteの2009年にはとっても興味があるよ。でも、それよりも何よりも君と一緒に、今ある世界の状況を語り合えるってことに魅かれるよ。
ビズ。またね。」


おっと!そう来たか。
でも待ってよ。これって、、、。
そもそも、先日のメールからして気になっていた。海外に転職し、新天地から無事に着いたとのメールをもらい、その後、漸く落ち着いた旨のメールをもらった時に、これまでのアカウントは仕事関係に使うので新しいアカウントを作った、これからはこちらを利用するようにと書かれていた。そして、近況をぜひ教えて欲しい、君からのメッセージはいつだって嬉しいよ、と。


勝手に思い込んで突っ走ることは、自分でもよく知っている。だから、今回は慎重にしようと思いつつも、ついつい自然と自分の都合の良いように頭の中で思いが駆け巡る。


ただ、どう勝手に想像したところで、相手あっての話。そう思っていたところ、予感が的中し、今週月曜になって「到着」のメールが届く。厳密には日曜の夜に送信されたもの。

今夜パリに着いた。今週どこかで会えないかな。夕食が一緒にできれば嬉しいけれど。


そこで、金曜以外は大丈夫と書き送れば、それは良かった。火曜の夜にしよう、と返事がくる。火曜は都合の良いことに、パリ市内で夕方に打ち合わせ。終わったら、さっくりと帰宅しようと思っていたので丁度良い。すると、レストランでいいかな。何が食べたい?どこか行きたいところはある?と質問が入る。ただ、月曜はかなり遅くに帰宅し、頭は飽和状態。とにかく、何も考えられなかったので、そう伝え、時間と場所を指定してもらえれば、そこに行くのでお任せします、と書いたところ、予約したと伝えてきた場所をみて、驚いてしまったというのが、この文章の冒頭部分。



果たして。
当日、予定の打ち合わせが早く終わったので、一旦オフィスに戻り仕事をしていると、夕方6時半過ぎにSMSが入る。「今パリのホテルに戻ったところ。7時過ぎに現地で落ち合うことでいいかな。」
了解、そう思って現地に向かう途中、電話が鳴る。「大丈夫?問題ない?さっきSMSしたけれど、返事がないから心配していたんだけど。」おっとっと。ごめんごめん。今向かっているところ。国外の携帯番号なので連絡をしなかった自分のケチさを反省。レストランの丁度手前の道から歩いてくる彼とばったり出くわす。大きく手を振って合図をしている。円満の笑み。


うっかりと身勝手な思い込みをしないよう、緊張する。自分で自分の罠にはまってはなるまい。


渡されたメニューを見て、一瞬固まる。「さあ、せっかくだから二人で楽しもうよ。ここは僕に招待させてね。」引っ越し先の国の様子を聞くと、「とっても上手くいっているよ。それを今日は一緒にお祝いしたいと思って!」とくる。まあ、あまり深く考えてもしょうがない。それでも、一品ごとに新しいグラスワインが運ばれ、その度に乾杯。


本来なら、相手の目を見て、微笑みながら乾杯するのだけど、どうも目を合わせることができない。すると「なんだか緊張しているみたいだね。」と言われてしまう。仕事のせいにしてしまう。そうしているうちに、いつも通り話が弾み、色々な話題にお互い笑い合う。好き勝手に自論を展開し、それを批判し合ったり、称賛し合ったり。


グラスを何回合せたろう。すると、ふっと頬をなでられる。「緊張が抜けたようだね。良かった。」と。


フィニッシュの珈琲を飲みながらも、話が尽きない。二人とも随分飲んでしまっていた。毎回、彼のグラスには新たに黄金や濃厚な赤が注がれていたので、私の二倍は飲んでいるだろう。ごちそうさま、とお礼を言って外に出る。冷たい空気が頬に心地良い。


次のメトロまで歩いて酔いを醒ますかと思っていたが、どうやら二人とも同じ駅。歩きはじめると携帯が鳴る。鳴りやまないところを見ると電話。こんな時間に、と画面を見ると息子バッタ。「ママ、どこ?」えっ?今夜、夕食をしてくるって言っていたじゃない。パリよ。と言えば、「えっ!なんだって?僕、今日は学校で演劇を見るから、夜は迎えに来てってお願いしていたじゃない。寒いよぉ。」情けない声が聞こえる。しょうがないな。友達にお願いするか、タクシーか、或いは歩いて帰ってきてよ。そう言いながら、プラットフォームに入ってきた電車に二人で乗る。まったく子供ってね、と話をしているうちに、次の駅についてしまう。ここで降りなきゃ。慌てて挨拶のキス。ありがとう。またね。
電車を出たところで、ぐっと腕を掴まれる。瞳が何かをいいたそうにしている。


乗り継いだ電車の中で酔いが快く回ってくる中SMSを書く。
「素晴らしい夕べをありがとう。まだ楽しんでいる。とても良く選ばれた最高のワインと優しい笑顔に。」


我が家に着いた頃に返事が入る。
「今夜、喜んでもらえていると嬉しいけど。君と一緒で最高に楽しかった。ビズ。」


翌日、夜にメールが入る。
「昨夜は会えて本当に嬉しかった。
なんだか最初、君は緊張していたけど。
楽しい時だったね。
君は僕の心の奥深くにいる大切なひと。
メトロでの別れは余りに短か過ぎた。
本当はしっかりとこの腕に抱きたかった。
君の友であることは、またとない幸せだよ。
ビズ。」




いつか、与謝野晶子の歌でも送ろうか。
柔肌の 熱き血潮に 触れもみで 寂しからずや 道を説く君


いやいや、せっかくの楽しい関係。ここ暫くは、ラテンっぽく楽しもうか。

それよりも、何よりも、逆にその気になられたら、どう対応すべきかと困ってしまっていたからの、レストランでの緊張ではなかったか。
まったく、いい加減で呑気なものである。苦笑が漏れる。


何はともあれ、ボンボヤージュ。元気で。そして、また近いうちに。







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2015年10月11日日曜日

エールを送る






真っ赤になった目元にはっとなる。
懸命に上を向いている大きな瞳。必死で涙をこらえているのだろう。

電車の中。
ドアの人だまりを挟んで斜め横に座っている。
他人をじろじろ観察しちゃいけないとの道徳観が働き、目を逸らす。

数ヶ月前の我が身を思う。あの時は、欲しかった労りの言葉にほろりとしてしまった。
数年前は運転の途中で、これは誰もいないことをいいことに、運転に支障が出るのではないかと思える程大声で泣いた。その後、同じように号泣している女性ドライバーを目撃し、憐憫さよりも危険を感じ、以後、そんな乱れた運転はしていない。

暫し、昔に思いを遊ばせていたが、また、斜め横に座っている彼女に目がいってしまう。
ぎっしりと目元を片手で押さえている。
二十代か。真っ白な肌が痛々しい程に真っ赤に染まっている。感情が高ぶっているのだろう。それでも、人前で崩れまいと懸命に堪えている姿。ここにきて急に寒くなり、私などウインドブレーカーにマフラーをぐるぐる巻きにして、漸く寒さから逃れているが、彼女は興奮しているのか、トレーナーのまくった袖からは、やはり赤く染まった真っ白な腕がにょっきりと出ている。

カフェで喧嘩でもして、そのままダウンも着ずに電車に乗ってしまったのだろうか。

何度目かの停車で、車両に人も随分と少なくなる。漸く目を押さえていた手を外し、放心状態で宙を見つめている。

喧嘩、じゃない。
別れ、か。

手離すことにより、新たな出会いがある。
そんなことは分かっている。でも、今、この手にある出会いを大切にしたいと思ってしまうのも人間。

人間が人間たる理由。


そろそろ目的地に着くのか、心が落ち着いてきたのか、肌は次第に元の白さを取り戻し、気が付いたようにトレーナーの袖を下ろす。おもむろに立ち上がり、ダウンを羽織りファスナーを締める。新たな戦いに向かう戦士のごとく、鋭気を養ったのか表情に力が戻り、目元はきりりと引き締まっている。

電車が次に停まると、夜の闇に吸い込まれていく。


エールを送る。





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2015年10月10日土曜日

宵のエトワール






急いでいる時に限って障害が同時発生してしまう。


金曜の夜はバッタ達をモールの森までヴァイオリンのレッスンに連れて行く日なのに、どうしても早く切り上げることが出来ない。
それでも、「ごめんなさいっ!中途半端なこと分かっています。でも、もう行かないと。」と、慌ててPCをオフにして、オフィスを後にする。
どれだけ勇気がいることか。


走ってメトロに乗り込み、RERのプラットフォームまで駆けつけて唖然とする。
どうもいつもと様子が違う。
金曜の夜の6時半の喧騒とはまた違い、騒然としている。
皆が時刻表パネルを見上げ、溜息をつき、電話を掛けている。
どうやら、途中の駅で火災発生。復旧は明日朝。


こうなったら行ける場所まで電車で行って、その後タクシーに乗ろう。
タクシー乗り場まで這う這うの体でたどり着いてから、そんな考えを持った人間は自分一人ではないことに漸く気が付く。果てしない列。まさか、この人たち皆がタクシーを待っているのだろうか。一人に声を掛けると、そうなんだよ、と返事が返ってくる。すぐに同じ場所に行こうとしていることが分かり、では相乗りを、となるが、そんなことをしても、いや、たとえ全員が相乗りをしてくれたとしても、この列を捌くだけのタクシーは、そう簡単に来てくれそうにない。現に、今も一台のタクシーがやってきて、オルリー空港に行くと言う一人を乗せて走り去ったばかり。その後、車一台走ってこない。


電話を掛けてみる。ひょっとしたら、と。
驚いたことに、相手が出る。事情を話すと笑い声が聞こえる。どうやら車でパリの中心にいるらしい。それならば、どこかで拾ってもらえまいか。
エトワールでなら拾えるという。30分後に。
エトワール。後戻りとなってしまう。しかも、30分後か。

長蛇の列と車一台通らない道をもう一度確認する。乗せていってもらおう。
同じ不運な環境下にあるという連帯感が皆を饒舌にさせており、仲間意識が芽生え始めていた。親しい仲間に別れを告げるように挨拶をし、その場を離れ、来た道を戻る。

混雑しているだろうRERは避け、メトロでのんびりエトワールまで出る。


エトワール。凱旋門を中心に放射線状に12もの大通りが走っている様が、まるで星のようだと名付けられた場所。


階段を駆け上がり、外に出る。


どうしてもレッスンに間に合わないと、と逸っていた気持ちが消え、自分の不運に舌打ちしたくなる気持ちもすっかりなくなる。

今は、この時を楽しもうか。
延々と続く赤いテールランプの流れ。
いつになるか分からないピックアップを待ちつつ、濃さを増していく群青の空を仰ぐ。






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2015年10月6日火曜日

雨上がりの夜道



小雨が上がった後の夜道を歩くのは悪くない。
自分の足跡だけがひとひととついてくる。

おぼろげな街路灯の柔らかな光で、
辺り一面の小さな水の粒子が弾けている。
しっとりとした草いきれがひっそりと立ち込めている。

と、道の真ん中に小さな影。
どうやら先客。

君も今のご帰還なの?
ちょっとお先に失礼するね。
我が家ではバッタ達が待っているんだよ。

ひょいっと飛び越える。

幼い頃、イニシャルをくっつけると丁度カタツムリの形をしているので、
トレードマークとして使っていたことを思い出す。
どうもご縁があるらしい。

ひっそりとした夜の輝きを後にする。




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2015年10月4日日曜日

秋の夜長に






タイムの枝が添えられたラグビーボール型の手のひらサイズのヤギのチーズ
これまた手のひらサイズの真っ白で柔らかな羊のチーズ
まろやかな中にピリッとした、個性をしっかりと主張するロックフォー
舌の上でとろそうな、極々薄くスライスされたジャンボンクリュ
ジャンボンペルシェ
そしてライ麦粉の香ばしさが高揚感をかきたてるパンドカンパーニュ

Chateau Lagrezetteのボトルを手にし、コルクを開けると2009の数字が濃厚な赤でしっかりと染め上がっている。


太陽の灼熱の輝きを一身に浴びて
煌々たる月


太陽と月で杯を交わす




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