2015年6月27日土曜日

30度の茹だる暑さの車内で






「あのぉ。間違っています。読んだわけじゃないんですけど、ぱっと目に入って。すっごく迷ったんですけど、仕事関係のメールだったら困るんじゃないかと思って。ごめんなさい。」

30度以上の茹だる暑さの中、夜の電車に揺られながら、一件大切なメールを送っていないことに気が付き、慌てて書き認め、さあ送ろうとしようとしていた時だった。隣から声が掛かる。暑さと、一日の疲れで頭は朦朧としており、それでも必死で文章を書いていた最中、突然の一言に驚き、かつ、不快指数が一気に上昇する。

「えっ?それって、この文章を読んだってことかしら。」
思わず尖った声になる。

「いえ、違います。ぱっと間違いだけが目に入ったんです。」

隣の若者は顔を真っ赤にして、今にも消え入りそうな様子。「ごめんなさい、ごめんなさい。」を繰り返している。

人事関係の内容だったので、人に読んでもらいたい内容ではなかった。ただ、自分の世界に没頭していた自分がいけないのであろう。それにしても、隣から読まれているとはちっとも気が付かなかった。それよりも、間違いを他人に指摘されたことが不快感を一層引き上げていた。が、相手は非常に恐縮している。

「で、どこが間違っているのかしら。」

「あのぉ、«e» がいらないんです。」

「ん?どこ?」
この際、画面を彼女に見せる。

「ここです。」

おっ、最初の一文にある «une erreure» ではないか。確かに随分迷った。 «une erreur» と書いて、 «une » なら、最後に «e» がつくのではないかと思い、« erreure » と書き、やっぱり変かなと «  erreur » と書いては消し、書いては消し。その繰り返しを何度かし、取り敢えずは « erreure » として放って置いたところ。

そうか。ありがとう。微笑むと、消え入りそうに身を小さくしていた彼女もにっこりとする。「お仕事の関係のメールだったら、お困りになると思ったんです。文章は読んでいないですから。」

あ~あ。エラー、間違い。それこそ、エラーをしてしまったか。お節介な彼女の素直さに感謝し、やれやれと思いつつ、メールを改めて読み直し、送信する。

電車内の熱気は一向に下がらないが、なんだか爽やかな思いに包まれる。






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2015年6月21日日曜日

庭の香りのブーケ








「今日はいつ迎えに行けばいいかな。16時?16時半?」

息子バッタの血液検査に付き合っていると携帯にメッセージが届く。父親から。先週末がパリだったから、今週末はこちらだと思っていたのに、と驚く。先月出張で、バッタ達がパパと過ごす週末が少なかったからだろうか。それならそうと、早目に相談してもらわないと、と溜息がでる。土曜の夕方には近所のチョコレート屋さんでコンサート。その後はバイオリンの先生宅でバーベキューの予定。夜は日が暮れてから、隣村で提灯行列をしてキャンプファイヤーを囲んで花火を見ることになっていた。

今週末はこちらにいるものと思っていたけど。

そう送ると、すぐに返事がくる。

「えっ?だって、この週末は父の日じゃないか。」

そう言われてしまうと返事ができない。息子バッタに伝えると、あまり反応がない。家に帰って末娘バッタに伝えると、「何それ?母の日にあたし達にパリに行かせたのは、誰よ?あたし、パパに電話する。」と剣幕。そう言えば、母の日の日曜、あちらの息子の洗礼式とかで、パリにバッタ達を送迎したんだっけ。しかも、試験日直前の長女バッタの為に、二時間も車で待たされ、彼女だけ先に帰れるようにしたんだっけ。

すぐに末娘バッタの足音が聞こえる。どうだったのか聞いてみると、父親はあっさりと、それならいいと言ったらしい。

急に彼の立場に身を置いてしまう。父の日を楽しみにしていたのに、子供からは別の行事が既に入っているからと言われてしまう。

ねえ、日曜のランチにパリに行ったらどうかしら。そう、パパに言ってみてよ。ママが車で送ってあげるから。

かくして、庭の香りを集めたブーケを手渡し、日曜の朝にバッタ達を送り届ける。






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2015年6月16日火曜日

真っ白な飛行機雲








丈高くローズレッド色の野薔薇が咲き乱れる様を仰ぎ見れば、
真っ白な飛行機雲が透明な空にしゅっと走っている。

丁度あの日のメッセージのように。

どうしても話がしたくて、SMSを送り、後から電話を掛けてみたが、つながらない。忙しいことは分かっている。それでも、緊急を要することは分かってもらえているだろうのに。必死の思いが伝わっていないのか。優先順位という言葉が頭を過ぎる。

8500kmも離れた距離にいる別の相手にスカイプ。時差もあるし、夜更けの時間だろうのに、すぐに応答してくれる。必要以上に感傷的なやり取りとなり、電車の中で人目も憚らず涙ぐんでしまう。

今度は50km離れたところにいる別の相手にメール。電話をしようかと思うが、メールにしてしまう。彼の返事はいつだって示唆に富んでいるし、含蓄があって読みごたえがある。彼の言葉が欲しかった。期待通りに、長い返事がくる。涙が溢れてちゃんと読めない。何度も何度も繰り返し読む。

翌朝には目の前の相手に話をしてしまう。ばしっと悟らされ、素直に頷く。

段々と気持ちが収まり、落としどころが定まった頃にSMSが届く。「今日の午後会おう。」いつだって唐突。こちらの状況なんてお構いなし。でも、それが本当にびっちりとしたスケジュールの中で、突然ぽっかりと空いた空間であることも承知している。だから、相手の都合など気にする前に、兎に角、宣言してしまうらしいことも、分かってきている。

午後って、こっちも忙しく仕事をしているのに、どうやって抜け出せと言うのか。それとも、夕方のことなのか。ただ、その気持ちが嬉しくて笑ってしまう。昔、大好きな俳優そっくりの医師が近所に住んでいて、風邪を引いて具合が悪くて診察を受けに行くと、医師の顔を見ただけで、風邪などいっぺんに治ってしまう思いがしたもの。その時と同じように、何かに悩んでいたことが嘘のように思われる。

こうやって親身になって相談できる仲間達がいることに感謝。
真っ白な飛行機雲に大きく手を振る。










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2015年6月12日金曜日

決断







「それで、最終的に何を望んでいるの?」


えっ?
それは、それは息子バッタの幸せ。
そう、彼の幸せ。



既に答えは出ている。
感傷的になってしまっていただけ。
ここは毅然とした態度をとらねば。



ママは、あなたがこの家を出て行ってしまうことは辛いし、悲しいけれど、けれど応援するよ。だから、しっかりと初志貫徹してくれ。泣き言は言うな。感謝の気持ちを忘れずに、愛し、愛されて欲しい。








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2015年6月7日日曜日

緑の風








そろそろ手をつけないと、
そう思って芝刈り機を庭に運ぶ。
膝頭まで伸び切った雑草。朝顔だろうが昼顔だろうが情緒あふれる蔦だろうが、ペスト。そう、雑草。ヒメジョオンもタンポポもペスト。あの固いヘーゼルナッツから、どうやって、と思いながらも、あちこちに枝を伸ばしているヘーゼルナッツの木もペスト。

昔、オーストラリアでジョンが憎々しげに「ペスト!」と叫んでいたことを思い出す。庭の手入れをしている者の心の底からの声。今なら分かる。あの当時は、ジョンのストレートな物言いに面食らったものだった。

藤はどうだろう。紫と白のうっとりとする花房で楽しませてくれる。そして、あの甘く高貴な馥郁たる香り。ところが、枝の強さ、どこにでも這い上がり、全てを絡み取り、我が世を築く強かさといったら、どうだろう。正直なところ、我が家の二ヵ所に藤が枝を張っているが、どうしようかと悩んでしまっている。ちゃんと枝を伐り、手入れをしないと、藤に食われてしまう。

杉の木の下で芝刈り機を使うと、爽やかな香りが舞う。緑の芝を刈ると青い刈りたての香りが舞い立つ。ヒメジョオンとタンポポを刈りとり、ようやく玄関前の庭は小ざっぱりとする。後ろの庭が控えているが、日曜のお昼は皆BBQやら外で食事をするだろうし、芝刈り機は使えまい。のこぎりで、気が付かないうちにあちこちで3m以上の大木になりつつある木々を根元から切る。

汗にぐっしょりとなりながら、木陰で一休み。緑の風がやわらかに吹き過ぎる。緑の風にぼんやりと我を忘れる。




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2015年6月3日水曜日

星屑の花








星屑の花が咲く頃になると
思い出すことが星屑の数程ある

今は思い出に耽る余裕もない筈なのに
眩しさに目を瞑る




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