2014年12月26日金曜日

早朝雪掻き隊員、急ぎ馳せ参じる






「ママ、日本に行ってきたら。」

息子バッタの言葉が胸を貫く。
突然一人になってしまったボルドーのパピーを今年のノエルにはパリに呼ぶことになっていた。パパのパリのアパートは手狭なので、我が家にも呼ぶことにはなっていたが、二週間の滞在中、そのタイミングは後日相談しようとバッタ達の父親とはすでに話をしていた。

ノエル。
家族が一堂に会して一年のことを振り返り、新たな一年に向けて思いを一つにする行事。お互いにすべてを許し、愛を確かめ合う行事。

二週間のバカンスの一週間はパパと過ごす取り決めになった初めての年、日本人にとって重要な時期はお正月なので、とノエルの週をパパのもとにバッタ達を送り込んだ。そして、友人たちと遊びに出かけたものの、周囲はノエル一色。今ではどこで過ごしたかさえ定かではないが、とにかく、街を歩く家族連れを見ては涙し、夕陽を見ては涙にくれた。もちろん、最初の年であったことも大いに影響していようが、決してノエルをバッタ達なしに過ごすことはしまい、と思ったのは確か。彼には新たな家族がいるのだから、その新たな家族と過ごせばいいではないか。これからノエルはバッタ達と過ごすことにするわ。そう宣言すると、彼はあっさりと納得してくれた。

そうして、次の年はノエルに大奮発をして臺灣の妹一家のところにバッタ達と遊びに行くことにした。亜熱帯の彼の地では、冬でも暖かで過ごしやすく、アジアの熱気の虜になり、毎年恒例の様に遊びに行っていた。

今年は仕事も休めまいし、時にはフランスに残るのも悪くはあるまい。長女バッタにとっても進学準備を続けねばならない重要な時期でもある。そう思っていた矢先のことだった。

息子バッタは続ける。
「パパはママには言えないだろうけど、今年はパピーを呼んで、皆でノエルを祝おうと思っているんだよ。だから、ママ、日本に行けばいいよ。」

ママが一人になってしまうことを気にしての発言なのだろうが、息子に現実を突きつけられ動揺してしまう。ママの居場所はないってことか。

じゃあ、今年は一人で臺灣に行こうか。旧正月を祝うことから普通の日々である臺灣で、姪や甥に手料理を振舞うのも悪くあるまい。妹との他愛ないおしゃべりも大いに楽しみだ。

と、日本の母から電話が入る。かくかくしかじか、そういうわけで、今年は臺灣にちょっと行ってくることにしようかと思っている、と告げる。

すると、そりゃあ臺灣は暖かいから、いいわよね。そりゃ楽しいわよ。わざわざ寒い日本に冬を過ごしにくる必要はないわ、との思わぬ答えが返ってくる。胸がざわつく。

「あ、雪掻きしに、日本に行こうかな。」
そう言うと、雪掻きしにくるなら、ぜひいらっしゃい、大歓迎よ、と弾んだ声が返ってくる。

今年は既に何度も大雪が降り、早朝から雪掻きをしていると聞いていた。お正月まではいられないけど、ちょっとだけ行ってこようか。

母の大好きなチーズを末娘バッタと選び、息子バッタが生ハムを選ぶ。臺灣のいとこたちにとお菓子を選び、慌てて郵送。

そして、母の待つ日本に。
こんなノエルも悪くない。早朝雪掻き隊員、急ぎ馳せ参じる。





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2014年12月20日土曜日

扉までの5歩



思いがけずにランチの誘い。
どうしても抜けられない会議中。
30分後なら、と慌ててSMS返信。

会議は三時間にも及んでおり、そろそろ終わる筈だった。それでも、決してそんな素振りは見せられない。平静を装い、丁寧に最後までゆっくりと余裕を持って対応する。相手先を顧客と辞して、エレベーターで階下まで降り、門を出たところで丁寧に挨拶をし、雨の中をダッシュする。

連絡があってから小一時間。祈るような思いで電話をする。待ち合わせの場となる最寄りの地下鉄の駅に駆けつけるが、果たして構内なのか、改札なのか、それとも地上なのか。と、横断歩道の向こう側に傘をさしている姿が目に入る。当然、地下鉄の入り口にいるこちら側に来るものと思い待つが相手は動かない。横断歩道を渡り、傘の中に入る。

ひんやりとした頬。

向かいのパン屋がパリではちょっとした有名店であると伝えると、じゃあパン屋に入ろうか、と笑う。

小一時間待たせた相手に、今どれだけの時間が残っているのかさえ分からない。
ただ、自分がこれから何をしなければならないのか、今何時になっているのか、そんなことは一切考えられなくなっていた。

通されたテーブルは真四角。小さいようで大きくて、真向いに座りながらも、手が届きそうで届かず、話だけは後から後から溢れ出て、ふと気が付くと、あれだけ混み合っていた店内に残っている客はまばら。

カウンターで支払いを済ませ、歩き出すすぐ後を追う。
左のオーバーの袖から、後ろに手がのぞく。その手を慌てて握る。
扉までの5歩。手と手を繋ぎ走り込んで外に出る。

別れて正反対の方向に進みながら、笑みが体中を駆け巡る。




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2014年12月10日水曜日

最期の姿



あ、ボルドーのマミー。
バッタ達の父親が足腰立たないと心配して車椅子を買わなきゃ、なんて言っていたげど、お元気そう。

ふっと映像が消える。

夢だったのか。

我が家のキッチンに現れるなんて。「ママの言う通りに、使わないと筋肉が弱まって、歩けなくなっちゃうんだよね」そう心配していた末娘バッタやパパに教えてあげなきゃ。元気になるよって。夢に出てきたものって。
妹の手術も重なって、気が塞がっている彼に元気づけのSMSを送ろう。

そう思う間もなく、携帯が震える。
電話の相手は彼。
彼の母が早朝に亡くなったことを知らされる。

まさか
最期に会いに来てくれたのか。

涙が止まらない。


彼の母親、つまりバッタ達のマミーはここ一年半程、転移した膵臓癌の治療を続けており、夏休みにパピーの出身地である田舎の島でバッタ達と過ごして以来調子が右肩下がり。最近は入退院を繰り返していると聞いていた。バッタ達の訪問は歓迎されず、唯一、父親だけが週末に会いに通っていた。そして、今度は体調が悪いと病院に行った父親の妹が心臓に腫瘍が見つかったと緊急入院となり、摘出手術を受けたのは前日のこと。

パピーとマミーは職場結婚。以来、毎日のように一緒に出勤し、一緒にランチをとり、一緒に帰宅。週末のパンを買いに行く時さえも一緒。運転に至ってはひどい乱視のパピーに代わって、道路標識や信号さえマミーが教える二人三脚ぶり。引退すると、マミーの出身地であるボルドーに引越して、郊外の一軒家に住んでいた。近所には、娘一家も越してきていた。そして夏のヴァカンスはパピーの出身地の田舎の島に行き、三ヶ月はたっぷりと過ごしていた。

バッタ達もボルドーや田舎の島で何度もお世話になっている。かく言う私も、結婚式は田舎の島で挙げたし、ヴァカンスに何度もお世話になり、バッタ達の長いヴァカンス中、一月は彼らが1歳にならないうちから、お世話になっていた。離婚しても、バッタ達のパピーやマミーであることに変わらず、バッタ達はいつも夏は一月一緒に過ごしていたし、時々パリに遊びに来た時に、我が家に立ち寄ることも稀ではあったが、なくはなかった。

それでも、幼い子供達三人を残して出て行った息子を怒鳴るでもない彼らに、どうもわだかまりを感じ、いともあっさりと息子の新しい奥さんと彼らの子供を歓迎している様子を見て、とにかく全ての感情を殺していたことに気が付く。

感謝の念が沸々と湧き出て、とにかく涙は止まらない。



パピーに会いに行かないと。最期にマミーが会いに来てくれたことを伝えないと。そんな思いがこみ上げてくる。

もっと前に会いに行けばよかった、そう思うもマミーはもういない。









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2014年11月30日日曜日

気付けずにいる魅力




友人からメールが届く。
「滞在もこの先まだまだ続きそうだし、やっぱり好きにならなきゃダメね」


そうか。彼女は未だ魅入っていないのか。
旦那の仕事関係で家族そろっての移住。そして、旦那は一人アフリカの地に単身赴任。彼女は一人、異国の地で子供達と生活をしているのだから、大変なこともあろう。奮闘の毎日に違いない。


そうか。彼女は未だ知らないのか。

夜のパリにそびえたつ、べっこう飴のようなエッフェル塔。パリにいるなら、どこからも見えるし、どこにいても確かめたくなるし、いつだって我々を見つめてくれている存在。

夜中のパリのドライブ。時に真っ白なショートケーキのように思える凱旋門の堂々とした威厳ある建物。アンヴァリッドの煌めき。サクレクールの白亜の貴さ。

夕方パリの街を当てもなく歩きまわり、アパートの窓から別世界を垣間見る楽しさ。ふと立ち寄ったカフェの香り。

そして、何よりも、空港に降り立つ時、オレンジ色の輝きが出迎えてくれていることに心震え、優しい気持ちでいっぱいになる瞬間。


そうか。彼女は未だ気づいていないのか。
枯れ葉の落ちる姿を魅入る余裕がない日々なのだろう。

こんなに魅力で満ち溢れているのに。
こんなにも愛で満ち溢れているのに。




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2014年11月23日日曜日

今年のボージョレヌーヴォー




初物好きの日本人には大いに魅力となる、今年のワインのお初であるボージョレヌーヴォー。11月の第三週木曜に解禁。その日のフランスの新聞には何故に日本であれ程人気があるのか分からないと書かれてあった。四季折々に沿って、季節感豊かな日本ならではの粋なこと。

未だ青く、爽やかなジュースの様な味わい。そのものの価値なんて、人それぞれ。フランスでは2ユーロから始まって、せいぜい7ユーロの商品が、日本では50ユーロ辺りでもバカ売れするらしい。

日本人としてのDNAが疼くのか、実は、この初物に弱い。バッタ達が三匹とも11月生まれであることも手伝って、11月の印象は濃厚。赤ちゃんと密着生活からちょっと解放されて買い物に出た先でカートに積まれ賑々しくボージョレヌーヴォー解禁!なんて垂れ幕でもかかっていようものなら、有頂天で一本明るい楽しい絵柄のラベルのものを購入してしまうこと、三回。こうなると、毎年、恒例のように一本は味見をしていた。

そして今年もちょっと遅れて土曜にいそいそと手にしていた。

夜は、ちょっとした意見の食い違いでパパのところには行かずに残った末娘バッタと一緒。手羽の塩焼きを肴に、真っ赤でフルーティーなボージョレを頂く。日本人が初物を好きな話から始まり、、、色んな話をしたはずなのだが、実はあまり覚えていない。気が付いた時には、彼女が「ママ、もう一本飲んじゃったの?」と聞いていた。それから、多分、ちゃんと洗い物をして、お風呂に入って、、、。末娘バッタとどうやら一緒にベッドでヴィデオを観て、そのうちに寝てしまったらしい。

早朝からサッカーの練習があるので、会場に連れて行って欲しいというので起こされるが、さすがに爽やかな目覚めとはならない。お腹は未だカポカポしている気がする。せっかくの粋なお初物も、度が過ぎると興醒めか。いとわろし。

いえいえ、今年のボージョレヌーヴォーは、なかなかのお味。気が付いたら一本空けちゃうぐらいに!




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2014年11月17日月曜日

あと4年



ママは僕が学校で何をしているか全く関心がないんだよね。僕なら、2ndeの子供の学校の説明会には、たとえ10回目でも行くよ。

思いもかけない息子バッタの言葉に、一言もない。
来年4月に中国語クラスで二週間中国に行く学習旅行の説明会が来週水曜にあると聞かされ、すかさず、行けないわ、と答えた後だった。二年前に長女バッタが参加しているし、詳細は書類で知らされる筈だった。長女バッタが、自分がママの代わりに行ってあげると言っても、息子バッタの剣幕は収まらなかった。

高校の入学式にも来ていない、クラスの説明会にも来ていない、何にも来ていないじゃないか。

いや、だから、入学式は諸々の事情があって行かなかったけど、説明会は毎年恒例。各教科担当教員のオンパレードは楽しいけれど、正直、どうしても行かなければならないとは思っていなかった。勿論、これまで毎年参加していたからこその判断。それよりも、来月ある、各教科担当教員とのマンツーマンの面談は、何があっても行こうと思っていた。勿論、父親が行くなら、彼に譲るけれど。

でも、これまでほぼ親が呼ばれる学校行事には参加してきたのに、どうしたのだろう。確かに今年は、学校に足さえ踏み入れていないことは確か。新しい仕事に慣れるためも大きな理由だが、あんまり足を向けたくないことも事実だった。しかも、バッタ達はもう大きいではないか。そうそう親が顔を出すと、煙たがるだろう。

そう思っていただけに、彼の言葉は胸に応えた。

先日、友人が、最近息子と旦那の親子関係が難しいと言っていたことを受け、息子バッタは、父親の帰りが遅いからだよ、と指摘していた。ママのようにね、と付け加えることも忘れずに。

そうか。バッタ達は成長したと思い、こちらは思いっ切りガンガンに飛ばして仕事をしてきたが、やはりその影響はあるか。自己満足の世界をしてしまったのか。頭をガツンとやられた思い。

長女バッタがポツンと言う。
ママ、あと4年でみんな卒業しちゃうから、あと4年間だけだよ。

夕方6時に学校に行くには、会社を5時前には出ないとなるまい。
それでは、そうしようか。いや、そうせねばなるまい。

息子バッタが作ったというクスクスを口に運びながら、心に決める。




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2014年11月16日日曜日

夜道



終電には未だ早いと思われる時間。大勢の人々がそれぞれのストーリーを背負って地下の駅から駆け上がってくる。運行している路線バスはなく、唯一の頼りのタクシーも見当たらない。駅前にびっちりと停車していた車の列は、申し合わせたかのように次々に人を乗せ、一瞬のうちに消え去ってしまっている。

静寂に取り残される。

夕食をとるタイミングを逸してしまっており、空腹を痛い程感じる。さて、歩くしかないか。申し訳ないぐらい、ブーツのヒールの音が響き渡る。

冷たい空気が頬に迫るが、そのうちに身体中のエネルギーが体内を駆け巡り、心は爽快感で満たされ始める。何だか、高尚なことをしているような気持にさえなってくる。

この瞬間を独り占めした優越感に酔いしれ、我が家の門をくぐる。




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2014年11月9日日曜日

砂糖とミルクと卵




砂糖とミルクと卵、この三つが優しく融和してオーブンから香ばしい湯気が立ちあげている。バッタ達の嬉しそうな顔を思い浮かべる。

今年は未だ、ゆっくりと誕生日を祝ってあげられていない。息子バッタは目玉焼きが欲しいと言ったので、当日はご飯に目玉焼き。忙しいママに気を遣ってのことだと思うと、心痛い。それでも、丁寧に薄っすらと膜が張ったぷっくらとした目玉焼きに本人はご満悦。

長女バッタの誕生日の日には、電話で末娘バッタにオーブンでポークをローストしてもらったが、我が家に遅くたどり着くと、皆待っていて、つい声を荒げてしまう。夜9時以降の夕食何てありえない。先に食べていてくれないと。長女バッタが涙目で訴える。ママのこと待っていたんだよ。楽しみにしていたのに。

そして、今日は末娘バッタの誕生日。ママと一緒じゃない誕生日なんて嫌、と半泣きだったが、パパだって皆と一緒に誕生日をお祝いしたいのよ、と送り出したのが昨日。今夜は彼女の大好きなちらし寿司にしようかと思っていたが、昨夜遅くまで電話やメールをしてしまったので、どうも身体が重い。寿司飯だけで勘弁してもらおうか。とても魚屋さんに行くエネルギーは湧いてこないし、日曜は午前中で閉まってしまう。

そこで、デザートをと思い立つ。でも、何にしよう。ゼリーには寒すぎるし、小麦粉を使わないとなると、かなり制限されそう。

このところ、息子バッタがアレルギーなのか湿疹が絶えない。小麦粉やシリアルを止めてみようか。しかし、そうなるとパン、ビスケット、コーンフレークがダメとなり、正にそれを主食としている彼にとっては、何を食べてよいのか分からな状態。本当は牛乳がダメなのかもしれない。ナッツが原因かもしれない。卵なのかもしれない。わからないけど、彼が一番食べるものを止めてみるのも、悪くないかも知れない。そんな思いで提案してみると、あっさりと受け入れてくれる。

それならと、卵、ミルク、砂糖でプリンを焼くことにしよう。
もうすぐパリから帰ってくるバッタ達。そして、思い切って暖房もつけよう。
暖かな家で待っていよう。


外は暗闇が静かに迫っている。



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2014年11月8日土曜日

茶色の手袋




雨が降った後の濡れた小道を小走りに進みながら、冷気の中の緑の香ばしさに思わず微笑む。慣れっこになった暗闇の朝。ポケットに手をいれるが、いつもある筈の手袋が見つからない。しかも悪いことに、片方だけがない。

両方ないなら、どこかに置いてきたのだろうと思える。片方あるということは、いつものようにポケットに忍ばせていた筈なのに、一つだけない、ということになる。そして、恐らく、一つだけ入れ忘れたのではなく、一つだけ何かの弾みでポケットから落ちてしまった、ということになる。

前日の夜を思い出す。バスの後部座席に座り、携帯を見ていた。携帯でメッセージを書くときは、必ず右手の手袋を外す。そうか、あの時は手袋を使っていなかったのか。やけにバスが暑かったことを思い出す。ひょっとしたら、バスの中で手袋を脱いだのだろうか。

バス停からの帰りはどうだろう。夜遅く、バスの中とは違い、寒かったに違いない。手袋をしていた筈。でも、走って帰ったから、手袋はしなかったかもしれない。

記憶はなんて曖昧なのだろう。

昨日走った小道を逆にたどっていることになるが、どこにも手袋は落ちていない。

バスの通路に落ちた片手の手袋が目に浮かぶ。きっと、ポケットから携帯を取る時に、一緒に手袋も外に出て、落ちてしまったのだろう。前日にメトロのプラットフォームに落ちていた毛糸の黒い片手の手袋が思い出される。ひどく気の毒に思ったが、あれは何かの予兆だったのか。

自分の手にぴったりとはまる茶色の手袋は、もう体の一部のように感じていたし、なくすことなんてありえないし、受け入れることなんて、とてもできない。


仕事をしている間は、手袋をしないので、思考を過ぎることもなかったが、夜、外に出て、冷たい風に吹かれ、手袋のことを思い出す。メトロのプラットフォームで我が家に電話を入れる。長女バッタが出てくれるが、とても聞こえにくく、辛うじて、ママの手袋は見なかった、との返事をもらう。


そんなに失いたくないなら、いつでも手につけていればいいのだろうが、そうもいくまい。

失いたくないもの。
それは腕に抱えていても、いつかはすっと消えてしまうものなのだろうか。


我が家に走り帰り、外套を掛けておくハンガーの下をのぞく。
バッタ達のたくさんの外套の下はスポーツの鞄やサックが積まれていて、その中に、ひっそりと片方の手袋を見つける。

思わず大声をあげ、バッタ達に報告。
何の変哲もない茶色の手袋。それに対する思いは誰も知るまい。




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2014年10月30日木曜日

はりねずみ



青白い蛍光灯の最終バスから吐き出され暗闇を歩き始めると、すぐ先を何かが動く。ねずみにしては大きいと、ぼんやり思っていると、すぐ足元まで動いてくる。手のひらに乗りそうな小さなはりねずみ。

はりねずみさん。
どうかすれば、泣き崩れそうな不安定な心に、柔らかな思いがじんわりと広がる。
そうか。元気づけに来てくれたのね。

ありがとう。
『仕事で批判された時には、決して自分の性格を批判されたなんて思っちゃいけないよ。君はとっても素晴らしい性格を持っているんだ。君は素敵な人なんだよ。それを忘れちゃいけない。』

ありがとう。
何とか頑張るよ。

10月の末にしては暖かな夜。

暗闇のどん底から少しだけ這い出せたように思われ、足取りも軽く家路につく。





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2014年10月26日日曜日

夜汽車



なんだろうなと考えてみる

朝の暗闇を星明かり頼りに出社し、
最終バスも出てしまい、タクシーさえもない夜道を歩いて帰ることも少なくなく、
週末も片付けられなかった仕事を手にする。

実は報酬はこれまでが特殊な世界だったのか、今が厳しいのか、これまでの半分。

それでも、何故にそう仕事をするのか。


多分、満足感を得るためなのだと思う。
中途半端なままでは自分が納得しない。

更に言えば、幸せを感じ取るため、か。

見合った報酬は欲しいが、だからと手を抜くことはしたくない。


矜持。

そう、自分が手掛けている仕事として誇りを持って臨みたい。

そうじゃなかったら、生きてきた意味がない。

生きている価値がない。



こんな風に思えることって、ひょっとしたら幸せなことなのだろうと思う。だから、今に感謝している。


お目出度い人間、
それが、私。



夜汽車に揺られながら、ふっと頬を緩ませる。








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2014年10月25日土曜日

香ばしさに包まれた秋の夜



ママのこと待っていたよぉ。
香ばしさが家中を包んでいる。こんなに遅くまで待っていないで、さっさと食べて、との思いも一篇に掻き消えてしまう。オーヴンには鶏の腿が黄金に色付いている。

レンズマメ、ズッキーニと人参と長ネギのソテー。なかなかどうして立派なもの。鶏の味付けを聞くと「ヴァニラ味」、「キャラメル味」、「チョコレート味」とバッタ達が口々に勝手なことを言う。なんだか最近妙に大人になって、変なママの真似をするから手に負えない。当たり前のことを聞いてくれるな、といった時には、大抵とんでもない答えをしていたツケか。

と、テーブルの中央に、これまたこんがりと色付いた、若干沈没しているケーキが鎮座している。ほぉ、中にカスタードクリームでも入れるの?と、言えば、末娘バッタが必死の面持ちでベーキングパウダーが多過ぎたの、と主張。いや、そのぉ。ベーキングパウダーなるものの働きをちゃんと教えてあげなきゃなるまい。「違うのよ。最後まで待たなかったからだよ。オーヴンの中ではふっくらとしていたもん。」とは、長女バッタ。いや、時間通りだったと末娘バッタ。

にやにやとしながら会話を聞いている。料理上手になるには、経験が大きな決め手となろう。レシピ通りではなく、その日の天気、気温、オーヴンの調子、材料の質、などたくさんの要素によって結果が変わることの妙を肌で感じ取り、応用していかないと。

それにしても、何味なのか。

「えっとねぇ、『R』から始まる、かな?」と、長女バッタ。

Rねぇ。。。
一口食べてみる。歯が痛くなるほどの甘さが押し寄せるが、とても良い風味。「はちみつケーキ?」

「Rhachimitsuねぇ。まあ、言えなくはないけど、違うよ。」ニタニタしている。

二口目で、ああ、これはレモンの香りだ、と思う。
末娘バッタが、今度は泣きそうな顔で、レモンの半分が皮が変になっていて使えなかったこと、だから分量通りに入っていないこと、を告げる。
大丈夫、十分美味しいよ。それより、お砂糖、どれぐらい入っているの?

聞いてみると、小麦粉120gに対して砂糖230g。
おおっ!これはちょっと甘すぎたねぇ。それでも美味しいよ、ありがとう。

バッタ達が賑やかにフランス特有の『quatre-quarts』について好き勝手に話している。卵、バター、砂糖、小麦粉、この4つの材料が同じ量だから、4分の1が4つ、といったネーミング。末娘バッタのケーキは、砂糖が小麦粉の二倍だから、これは甘すぎと言えよう。カップ一杯づつの間違いだったのかな、とちょっと思う。が、まあいいか。

えっ?で、なんで『R』から始まるの?レモンでしょ?

「今頃気が付いている!」長女バッタと末娘バッタが顔を真っ赤にして大笑い。

ん?ん?ん?
あっ!そうか!「Remon」なわけね。日本人が『R』と『L』の発音を区別しないこと(聞き取れないこと、発音できないこと!)を笑いものにしたわけね。

やれやれ。君たち、ママをそう馬鹿にしちゃあいかんよ。
そう思いながらも、こちらもつられて笑ってしまう。だって、本当に『R』と『L』って区別できない。しょうがないよ。笑うしかない!

こうして秋の夜が更けていく。







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2014年10月20日月曜日

流れ星




小さな掲示版が白く光を放っている他は、星明かりが頼りの夜のバスターミナル。


一人で待つことは、ちょっとした勇気が必要。いつもは最終バスに乗り遅れまいと、人々が走ってきたり、疲れて泣きべそをかく子供の声が耳障りだったりするのに、その日は誰も現れない。


なんだか、世の動きに取り残されてしまったかのよう。


歩った方がいいのだろうか。そう思っていると、漸くヘッドホンをつけた若者がやってくる。大声で、最終バスはもう出たのかと言う。運行表によれば、取り敢えず5分後にはバスが来ることになっていると告げると、ギョッとした様子で見つめてくる。その間も話は途切れない。


変な若者は、すっとどこかに消えてしまう。


おかしな夜。


ほとほと歩こうかと思っていると、先程の若者が、女友達を連れてやってくる。


ああ、そういったことだったのか。ヘッドホンで音楽でも聞いているのかと思ったが、電話をしていて、通話相手への質問に、私が答えてしまったのか。


突然現れたかのように、バスが目の前に停まる。


一日の疲れを抱きしめて、明るい蛍光灯の中に吸い込まれ、
流れ星よろしく暗闇に消える。





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2014年10月19日日曜日

期限厳守




ここ数日、寝ている間も作業の夢を見、
残る一日となる今日、髪振り乱し、朝からインスタントコーヒー三杯で繋ぎ、
今、漸く、完成。

完璧ではない。
完璧なものなど、この世にはないことは、既に悟っている。
決して開き直りではない。

守るべきもの。
それが期限である場合もある。

とにかく、やり終えた。

信じられない。

ああ、漸く掃除ができる。

飯より、掃除とは!

そして、ゆっくりとお風呂に入って、「ごしょらく(後生楽)、ごしょらく(後生楽)」と唱えよう。

ああ、久々の達成感。





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2014年10月17日金曜日

似て非なるもの





雨が降るたびに秋は深まる。

森では、ばらばらと栗が落ちてきて、イガの中から艶やかな茶色の実を幾つものぞかせている。胡桃の実も、ぽとんぽとんと落ちてくる。子供たちのポケットがリスの頬の様に、ぷっくらと膨らむ時期。真っ赤に染まった掌の大きさの葉、濃い黄色の葉。どんぐり。



故郷の秋に思いを馳せる。山はすっかりと趣を変え、道は赤や黄色の絨毯に彩られる。

当たり前のように享受していた日本の秋をバッタたちに見せてあげたいと思う。



マルシェにも秋の香りが満ちている。

大きなオレンジ色のカボチャ、飾っておきたい程の様々な形と色をしたカボチャ。バッタたちに、日本のホックリとして甘い栗南瓜を食べさせてあげたいと思う。

茸コーナーでは、種類がいつになく豊富。

セップに目がいく。トリュフ程ではないが、フランスでは高級な茸として分類されようか。それでも、セップのオムレツなど代表料理は庶民的。いつの頃からか、このセップを日本の松茸の様に思い始めていた。多分、人々がセップについて話す時の思い入れが、日本人が松茸について語る時の様子に似ていたからだろう。値段だって、普通に手に入るシャンピニオンとは比べられまい。



柚子の香りと松茸。土瓶蒸し。
子供ながらに、贅沢だと思っていた。一人ひとりに小さな土瓶。蓋の上にちょこんと載っている、これまた小さな受皿に、土瓶から香り豊かな松茸のお吸物を注ぐ。そのお味ときたら、豊潤な秋を凝縮している。

紛いなりにも、このお吸物をバッタ達に味あわせてあげよう。

おもむろにセップを手にする。これまで、マルシェで買ったことがなかったが、贅沢への抵抗感がなかったとは言えまい。しかし、バッタ達に贅沢を経験させるのも、親の務めではあるまいか。

そうして、丁寧に出汁をとり、薄っすらとセップを切り、お吸物を作る。セップの笠がどうもしゃんわりしていることが気になるが、さてさて。

バッタ達はママがまた何か新しいことをしていると期待に満ちた面持ちで揃っている。

湯気には幸せ感をもたらす何かがあるのだろう。一口含んで、これはいけると思う。

美味しいっ!
声が挙がる。が、すぐにトーンが曖昧になる。具を口にしたバッタ達が、これは何だと訝しがっている。

ママ、何入れたの
えっ?セップぅ?
ニヤニヤしている。

ママ、今度はオムレツにしてね。これはオムレツ向きだよ。

長女バッタがつなぐ。

まさか。
慌てて口する。
とろりととろけんばかり。

おおっ。

セップと松茸は似ても似つかぬ別物。何だってこれまで一緒だと思い込んできたのだろう。西洋カボチャと栗カボチャの違いどころではない。

人間、謙虚でいなければ。これまでの知識なんて、思い込みの積み重ねに過ぎまい。ふやけた味のセップを口にして、しみじみ思う。

さて、次回はオムレツとするか。






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2014年10月12日日曜日

鍾乳洞の住人




ライムストーン。
やけに優しい響きではないか。
建築用石材で一番柔らかく、吸水性高く、柔らかな色調と暖かい質感が特徴。建造物に使われている。いわゆる、石灰岩。石灰岩の主成分である炭酸カルシウムは雨水に溶解するため、溶食によってドリーネや鍾乳洞を造り上げる。

ヨーロッパの水が硬質であることの要因にもなっている。濾過水を使用しても、いつの間にか鍋には白い線がついてしまう。カップに紅茶が残ってでもいようものなら、すぐに洗浄しないと、カップに色がついてしまう。洗濯機の調子が悪くなったり、洗濯しても綺麗にならなかったり、石灰が日常生活に及ぼす影響は計り知れない。

それが、ライムストーン。

この夏、我が家にキノコが生えてしまう事件が起きるが、実はこれもライムストーンが原因。配水管のジョイント部分に石灰が溜まり、水漏れが生じてしまっていた。特に気にしていなかったら、いつの間にかタイルの隙間から床下に漏れ、木のフローリングの一部を駄目にしてしまっていた。手ごわそうな水漏れと判断し、水道配管工に来てもらおうと思うも、足元を見られ、法外なる金額を請求された前回の失敗が忘れられず、困り果てていた。

こんな時は前の家のマダムに話してみるのが良い。案の定、彼女の家に知り合いの配管工が来ると言う。その際に我が家にも寄ってもらうことにした。生憎、週日の午後。学校が早く終わるという息子バッタに小切手を渡し、値段の交渉の時だけ電話をしてくるように指示しておいた。

さて、当日。夕方になっても連絡がないので、我が家に電話をすると、あまり要領の得ない返事が返ってくる。どうやら、何もしないでムッシューは帰って行ったらしい。原因は石灰であり、お酢を使って除去すれば、水漏れはなくなる、と。

そんものかと思ったり、呆れたり。一体、それで本当に何とかなるのか。
兎に角スーパーに飛んで行き、棚にある酢のボトルを買い占める。

それから二週間。いや、三週間か。それまでに何リットルのお酢を使ったか。我が家に酢の匂いが充満してしまった頃、問題の配水管を調べると、驚くことに動き始め、緩みを締めると、水漏れをしなくなったように思われる。

お酢のボトルを15本使ったとしても、せいぜい7ユーロ。これで水漏れが改善されたのなら、安い買い物ではないか。

すると今度は、温水器に問題があるらしい。最初はバッタ達の無駄遣いかと思っていたが、お湯がお風呂に十分な量がない。そして、温度も低く、これから寒い時期に差し掛かるにあたり、どうも心もとない。

恐らく、ライムストーンの仕業と思われる。タンクにびっちり石灰が溜まり、タンクの容量が少なくなったのではないかと睨んでいる。しかし、こればかりはお酢で処置するわけにもいくまい。いや、タンクにお酢を入れてみるか。。。

なんだか、我が家のフローリングもライムストーンに思えてくる。そうなると鍾乳洞に住んでいたということか。いやはや。






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2014年10月8日水曜日

外は雨




時に子供は親を奈落の底に突き落とす


あどけない、つぶらな瞳で末娘バッタが尋ねる。
「ママ、戦争の罪ってなあに?」

これは試練なのか。
母親への挑戦なのか。

言葉の問題なのか。
心の問題なのか。
精神的成長の問題なのか。

12歳の子供なら戦争とは何ぞや、社会的影響、個人への影響に一度ならずも思いを馳せてしかるべき。

その過程を踏んでこなかったのか。

それとも、末っ子にありがちな、何も知らない、分からない姿勢が抜け切れていないのか。
或いは、自分なりの答えがあって、後で褒められたがっているのか。
ひょっとすると、母親と思想の討論をしたいと願っているのか。
いや、やはり本当に分からないのか。

呆然とする間にも、言葉の嵐を降らせてしまう。
今度は、彼女が奈落の底に突き落とされる。

外は雨
皆既月食も拝めまい

マサーラチャイを作って
スパイシーな甘い香りに包まれて
彼女と戦争について語ろう
いや、平和について語ろう




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2014年10月5日日曜日

冷えたロゼ



気が付くと予定の時間をすっかり過ぎている。何かに熱中すると途中で終えることができない。それでも、今日は本当に終えないと。慌てて形を作ってメール送信。歩きながら送信文を確認し、漏れていた情報に気が付き、書き直して再送。相手にもその旨SMS。

それからどうやって電車を乗り継いだのかは定かではない。記憶は全体像よりも一部の思考のみを捉えて蓄積されるらしい。車の中で月がいつまでも見え続けたことは記憶にある。そう。車を運転するって、自分の空間を味わえ、十分に空や月を楽しめる解放感と充実感がたまらないとひとりごちたことは鮮明に覚えている。

約束の時間をちょっと過ぎて待ち合わせの場所の近くに来るも、駐車場は満杯。夜の9時半なんて、8時過ぎから食事をしている人たちが未だ重い腰を上げずに、すっかりと居座って楽しんでいる半端な時間帯なのだろう。こうなると、どこでもいい。とにかく駐車場が充実しているドライブインでいいのではないかと思ってしまう。

「どこにも駐車スペースがないの。」半ば泣きべそをかいて伝える。どこでもいいから、駐車場のあるところにしようと言ってみる。

「そうだね。それでもいいよ。」

それでもいいよ、という返事は、そうか、それは残念だね、に通じるものがある。どうやら相手も近くまで来ていて、駐車スペースを求めて街中まで入っているらしい。

「分かった。もうちょっと探してみる。」

先程通り過ぎた時に、目的地よりもちょっと前にスペースが一つあったように記憶していた。そこを試してみようか。大きくユータンし、暗く光るセーヌの川面に沿ってすべるように走る。と、携帯が鳴る。

「何しているんだい。こっちは見つかったよ。」

その勝ち誇った声に、カチンとくる。後ろの喧騒から、既にレストランにいるのだろうか。

「分かった。今すぐ行くから。」

そろそろ先程のスペースがある場所まで戻ったろうか。大きくユータンし、徐行。どうやら、一台分のスペースが残っている。駐車には瞬時の判断が鍵。機会を逸してしまうことが多いのは、どうしようと迷っている間にも、車は進むからだろう。これなら始めからここに停めれば良かったのに。後悔と共に、ちゃんと駐車できたことに安心する。さあ、走らないと。

レストランの前では女性が二人紫煙をくゆらせている。しっかりとした木製の扉についている金のノブを押して中に入ると、異空間が待っている。さっと目を走らせる。いない。店の奥まで足を入れるが、どこにも姿はない。

店員が先程の電話予約なら、誰も来ていないと告げる。

慌てて電話をする。
どうやら相手は私の分まで駐車スペースを見つけ、そこで待っていたらしい。それならそうと、最初から言えばいいのに。いや。すぐに電話を切った私がいけなかったのか。兎に角こちらはレストランにいる旨伝えると、すりガラスの向こうに歩いてくる姿が目に入る。

お互いに笑い合って隅の席に陣取る。
それからは会話に夢中になって、次の記憶は口当たりの良いクスクスと旨味たっぷりの野菜スープの味。そして、冷えたロゼ。外には大きな半月。





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2014年9月30日火曜日

のっぺりとした月




唯一の光を発するバスから吐き出され、
夜道を急ぐ。

林は暗闇をもたらすだけ。
太陽の下では、のびやかな小枝も
人を寄せ付けない凄みを持って迫ってくる。

ちらりと黄色い貼り絵のようなぺったりとした月が木々の間から垣間見える。
早足になればなる程、
月は姿を現したり、隠れたりする。

今夜は、
何を悩んでいるんだよ、と笑ってくれるのだろうか。
辛いことがあっても、思い詰めるなよ、と
呑気な調子で慰めてくれるのか。

丘に差し掛かるところで、立ち止まって見仰ぐ。
のっぺりとした月は、
笑うでもなく、小ばかにするでもなく、
つんと澄ますでもなく、
そこに在る。

そこに在ること自体に意義があるかのように。

誤魔化さずに、現実を直視しろ、といったところか。

もっと、もっと強くならねば。
そうして、もっと、もっと賢くならねば。
さあ、頑張らねば。

深呼吸をして、再び歩き出す。
深い暗闇の中を。





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2014年9月29日月曜日

不思議な夜道



オレンジ色の街路灯が光るペーブメント。
木々の間から爽やかな緑が香り立つ。
雨が降った後を歩くのは悪くない。
短い時間だったのか、気温もそんなに下がっておらず、むしろ汗ばむほど。
夕餉を囲むのか、どの家からも明るい光が漏れてくる。
街路灯の間隔が離れている場所では、暗闇が待っている。
それでも、歩きなれた道。
しっとりとした雨の感触を足裏に楽しみながら歩を進める。

と、かしゃり。

何かを踏みつける。

ガラス細工のような儚さを足裏に覚える。
まさか、ね。

そう思いながらも、オレンジ色の輝きに出てみると、どうやら歩いているのは私一人ではなさそう。あちこちにカタツムリが歩を進めている。

カタツムリ君たちの邪魔はしたくはない。
それでも、暗闇に入ると、本当に何も見えない。
そうして、丁度同じ道を歩もうとしているらしく、かしゃり、かしゃり、と小気味よい音を立ててしまう。

どうも申し訳ない。
ごめんよ、カタツムリ君。
そう呟いて、またかしゃり。

小雨が降ったぐらいで夜道を急ぐなんて。

我が家の灯を見つけると、慌てて走り出す。
と、またかしゃり、かしゃり。

ごめん、ごめん。
なんだか不思議な夜道。




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2014年9月27日土曜日

ありえない話




新学期が始まる。毎年のことながら、三人分の保護者会の知らせが押し寄せる。呆れたことに、一つは朝の10時から。仕事を休んで参加すべきなのだろうか。仕事をしている親は参加が難しいことを承知での時間設定なのか。或いは、仕事をしていない親が多いと思っているのか。

他の二人の保護者会も17時開催。となると、オフィスを16時前には出ないとまずいか。別途、他に三つの18時以降の保護者会も控えている。

まあ、今年は欠席しよう。已む無し。バッタ達にも説明し、自分たちでしっかりと授業を聞いておくよう伝える。学校側にも出席できない旨連絡する。

と、昨夜、末娘バッタが浮かない顔。テストがあることを知らず、準備ができていなくて、困ったと言う。そして、彼女を含め3人のみがテストの存在を知らずに臨んだが、他の生徒達は皆知っていたという。どうやら、保護者会で先生が親に伝えたとのこと。

怒りを通り越して呆れてしまう。

テスト実施を子供たちに伝えずに、親に伝える教師がこの世の中にはいるのか。

子供達への指導では不十分なこともあろうから、親もサポートすべきであるとして、親にも情報を伝えるとの姿勢こそがあるべき姿ではあるまいか。

一体、世の中、どうなっているのだろう。

学校に抗議に行こうかとの勢いの母親に、末娘バッタはそんな必要はない、という。テストは終わってしまったし、これからは、いつでもテストがあるとの覚悟で臨むから問題ない、と。

自分の仕事を優先したツケなのか。
こんな手厳しい仕打ちが待っていたのか。親として、子供の力になれないことこそ悲しいことはない。

すっかりと母親の背を超えた末娘バッタの背中には迷いが見られない。
明日は森で栗でも拾おうか。そして、栗ごはんにしよう。





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2014年9月20日土曜日

ジャック



夜中にメッセージ。
いや、厳密に言えば、夜中にメッセージをもらっていたことを翌朝確認する。
送り主はジャック。
ああ、ジャックリーヌか。
「随分久しぶり。ぜひ今度夕食を一緒にどうかしら。ジャック。」

昔の会社の同僚。早期退職プランをとって、早々に仕事を辞めていた。
両親ともにベトナム人の彼女の快活な笑顔を思い出す。幼い時にフランスに来ているとはいえ、小柄で小麦色の肌はアジア系。それなのに、「私はフランス人よ。」と言い切って、私を驚かせていた。フランスではアジア系は年齢不詳と言われており、確かにジャックリーヌの年齢は誰もが知らなかったし、想像もつかなかった。彼女は若く、若者と一緒に仕事をしていても全く違和感を感じなかった。だから、彼女が早期退職プランをとると知って、皆が驚いた。一体、ジャックリーヌって、何歳なの?

退職してからも、彼女の気さくな、そして大胆な性格のお蔭で、数年は会社へのアクセスは警備員への笑顔でフリーパスだった。自由な時間を使って、ベトナムに何度も行き、ボランティア活動に精を出していた。

それにしても、夕食か。いつもはランチを一緒にすることが多いのに、今回は改まってどうしたのだろう。

そう思い出すと、違和感がぐっともたげた。ジャックリーヌが自分をジャックって呼ぶだろうか。
ひょっとしたら、ジャックリーヌではないのでは。

男性のジャック!
そう考えると、思い当たらないでもなかった。一年以上も前に、知り合いに夕食に誘われ、レストランに行ってい見ると、彼の会社の同僚も同席。適当に会話を合わせてはいたが、知り合いが席をはずした途端に、言い寄って来た。確か、あの時は、いい加減に巻こうとするが、駐車場が怪しげなところで、ボディガード代わりについてきてもらい、コンコルド広場の、車が激しく行き交う大変な場所で降ろした覚えがある。もしかして、あの時のジャックだろうか。

そうなると、もらったメッセージは、読み替えねばなるまい。
「随分久しぶりだね。良かったら今度夕食を誘いたいのだけれど、どうかな。ジャック」

大きなため息が出る。
ジャックリーヌと思い込んで、早々に返事を出さなくて良かったとの思いが先ず支配する。
どうにも思い出せないジャックの面影に、手を合わせて頭を下げる。
ごめんね。

人は一人では生きていけない。
ジャックも人恋しく思って声を掛けてきたのだろう。
こちらにその気のない時は、無視に限る。下手に返事をしようものなら、お互いにとって面倒くさいことになることは、既に経験済み。

何の下心なく、普通に会う分には問題ないのだが、そうそう、この年で友情もないだろう。
それでも、友情の方が貴重だってこと、そろそろ分かってもいい年頃ではないか。

ジャック、久しぶり。
お誘いありがとう。元気そうで何より。ぜひ、また、何かの機会で。

送信しないメッセージの内容をつぶやく。
遠くに花火の音が聞こえる。






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2014年9月18日木曜日

ティファニー



SMS着信音。
発送者を確認すると、子供たちの父親。

メッセージを見ると決まり文句の挨拶があって「ティファニーが死んだ」とある。
ティファニー?

あらゆる脳細胞を活性化させ、思い巡らしてもベルが鳴らない。いったい誰だろう。彼のパートナーの家族の一人か。確か男兄弟ばかり。そうなると、その子供たちか。それとも、昔の知り合いの誰かの子供か。彼の親戚家族の誰かか。必死になって考えてもわからない。

それでも、さすがに「誰?」とは聞けないものが、「死」という言葉にはあった。

家族や親近者とも、知り合いとも取れるような、ニュートラルなお悔やみの言葉の後に、「何ができるかしら。」と聞いてみた。

忘れたころに返事が届く。
「誰にも、何もできない。。。」

何この返事?いったいティファニーって誰よ。私が知っているティファニーは世界中でもオードリーヘプバーンが演じるティファニーのみ。即、電話で相手を呼び出すと、画面に大きく相手の名前が掲示される。それを見て慌てて呼出しを取り消す。

その名前は子供の父親ではなかった。
イニシャルこそ同じだが、もう一年も会っていない昔の同僚。
うっかりと、名前をイニシャルで確認して、いつも連絡がある子供の父親と思い込んでしまったのだ。

思い込みの激しい、おっちょこちょいを、またやってしまったか。
慌てて改めてすべての脳細胞を動かし、昔の同僚達を思い浮かべる。その家族を考えてみる。それでも、どう頑張ってもティファニーという名前は引っかかってこない。
別の知り合いに連絡をしようか、とも思うが止める。

ティファニー。
ご冥福をお祈りします。



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2014年9月15日月曜日

未だ明けきれぬ朝





気が付くと町は未だ闇の中。
オレンジ色の街路灯が消える時間が徐々に遅くなってきてはいたが、秋は驚くほどしっかりと忍び寄っている。

ヘッドライトが行き交う中、丘の上のバス停に佇むシルエットが一瞬明るみに出る。
真っ白のエナメルのハイヒールのサンダルに真っ白のパンツ。
確かに日中は暑くなるのだろうが、どうやったら肌寒い夜明けの気配も感じられない中で、夏満喫スタイルに身を包むことができるのだろう。

猫バスのサーチライトよろしくヘッドライトを光らせてバスが近づき、乗客を飲み込む。
目を瞑れば、簡単に蒲団の温もりと体温を取り戻せてしまう。
日の出前のなせる業か。

駅に近づく頃には、ゆっくりと空も明るく晴れあがってくる。
ふと目をやれば、白いパンツ姿の女性。
全く違和感なく、季節の装いとして申し分なく見える。
太陽の光のなせる業か。

リズムをつけてバスを降り朝日に向かう。




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2014年9月9日火曜日

天空の輝き



一日の疲れた身体をドアに預け、ごとごとと揺られる儘にぼんやり。

車両の見開きドアの半分以上はガラスだが、質が良くないのか、
或いは日々の疲れた人々の汗と脂がそうさせるのか、薄っすらと膜が張られたかのよう。

それでも、もう八時近くなる夕日は朱色に輝いて目を刺す。
青空にたなびく雲も刷毛で色付けられたように輝いている。

と、ぼんやりと空の一部が虹色に染め上げられている。
思わずはっとして、見知らぬ隣の乗客に声を掛けてしまうところで、留まる。
そうして、ゆっくりと車内を見渡すと、誰もが下を向き本に夢中か、携帯を使っている。
だあれも空の虹色のまばゆい輝きに気が付いていない。

遠い昔、未だ高校生だった頃、双子の彼女と一緒に登校の途中、空に数体の未確認飛行物体を認める。変な光線を出してジグザグ飛ぶもの、同じ場所にとどまっているもの、ひゅんひゅん飛ぶもの、兎に角、一目で通常の飛行物体ではないことが見て取れた。「あっ、UFO!」大声で叫んでも、不思議なことに、誰も立ち止まらない。登校時だったので、登校する生徒達で道はにぎわっていた。知り合いに声を掛けても、反応がない。あんまり二人でぼうっと立って眺めていても、空の状態に変わりはなく、時間ばかりが経過し、学校に遅れることも心配になって、諦めて歩き出したことを覚えている。どうして、誰も不思議がらないのか、不思議だよね、と二人で話し合いながら。

そうやって、気が付かないうちに自然は刻々と姿を変えているのだろう。
そう思うと、この天空の虹色の輝きに出会えたことがとても貴重に思えてくる。

駅に近づいたのか電車はゆっくりと速度をゆるめる。




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2014年9月8日月曜日

ラピスラズリと満月



なくしちゃいけいなからと、そっと置いておいたブレスレット。
旅から戻っても、息つく暇のない余裕なし状態だったので、そのままにしてしまっていた。
今朝、吸い寄せられるように手が伸びて、左手につけていた。

相変わらず飛ぶように時間は流れ、気が付くともう外は暗い。
それでも、なんだか体の底からエネルギーが湧き出て、テラスで食事をしている人々の間をスキップして通り抜ける。
ぼんやりと電車に揺られながら何かの予感がする。

電車を降りてバス停に向かうと、どうやら最終のバスに間に合ったよう。
バスが来るであろう方向を眺めて、はっとする。
夜空に大きな満月。

そうか。
この幸せ感はラピスラズリのブレスレットのお蔭なのかな。
贈り主を思って胸が熱くなる。
彼女も、彼の地で同じように大きな満月を見て幸せ感に浸っているのかな。

いつもありがとう。





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2014年9月7日日曜日

伝わらないメッセージ



これまで何度、登っている梯子を下から外されたか。
大打撃を受けても、人を愛することは止められないし、人を信じることも止められない。
一人で生きていくことなど、まして考えられない。

それでも、今回の梯子外しは堪えた。
友情と言う固い絆を信じていたし、応援してくれる人々の声援は切実で熱がこもっていた。

いつから歯車がおかしくなったのだろう。
歯車がおかしくなっていても、誰もが通常通りの顔を装い、いつも通りの挨拶を交わしていた。一日に数度ある電話やSMS、メールの数も減ることはなく、私の方から歯車の調子を懸念して距離を置こうとしても、むしろ相手の態度は熱を増すほどだった。

それなのに。
全く何の知らせもなく、突然にして梯子が外されたことを他から知らされる。

歯車の調子が悪いと感じていたことで、ゆるゆると高みから降りていたとは言え、はっきりと梯子が外されたことを知った時は、真っ逆さまに落っこちた。
それでも、平然を装い毅然と対応。
その姿に安心したのか、梯子を外した張本人から電話がくる。
梯子を外す決断をしたのは、他でもない、その人。
いかにも、他の人々が外したかのように話をし、そして、それが何でもないことのように語り、しまいに夕食に誘われる。バーベキューでもしようじゃないか。昔のように。

まあそのうちに、と適当にかわし、這う這うの体で電話を切る。

二日後、もう連絡はくるまいと思っていた矢先に、我が家の目の前で出くわしてしまう。
その時も、動揺を隠すに隠せず、明らかに嘘と分かる風邪と偽り、挨拶を避ける。
それで察して欲しかった。ほっといて欲しい、と。

ところが、どうやら自分が悪者になることを良しとしないのか、今度は奥方からメッセージが入る。夕食のお誘い。そうくるとは全く思っていなかったし、彼女との関係までを云々するつもりは全くなかったので、それでも二日ばかり経ってから返事をする。忙しかった、と。
それで察して欲しかった。ほっといて欲しい、と。
それでも、改めてSMSが入る。ぜひ夕食を一緒にしたいので、都合の良い日を知らせて欲しい、と。
今度は返事をしないことにした。

それからひと月。

昨日、留守電メッセージに本人からメッセージが入る。
元気だろうか。いつも君のことを気にしている。ぜひ近いうちに会えたらと思う。

察して欲しい。ほっといて欲しい、と。

彼は私から何が聞きたいのか。私は元気だし、梯子外されても大丈夫だよ、仕方がなかったものね、とでも言って欲しいのか。慰めて欲しいのか。昔のように、仲間として腕を組んで笑い合おうとでも思っているのか。今の状況の愚痴を聞いて欲しいのか。

惨めになるだけだから、会いたくないし、話もしたくないってこと、分かってもらえないのだろうか。お願いだから、ほっといて欲しい。

元気であること、人生楽しく過ごしていることと、この梯子を外された思いとは全く別次元の話。まだまだ癒えていない。だから、放っておいて欲しい。お願いだから。

青空はあくまで透明で緑の風は穏やか。







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2014年9月6日土曜日

切り絵のような半月



照明を落とした大きな会場を人ごみを縫って進み、
知った顔を見つけて嬉しそうに挨拶を交わす人々を横目で確かめ、
途中で逸れてしまった一緒に入った仲間の姿を遠くに見つけ、
そうこうしながらも人ごみに押され揉まれ、BGMの和太鼓の生演奏が響く中、
なんとか、それらしき会場の中心に入り込む。

あまりの人ごみで、そこが別空間として他を圧倒しているようには見受けられず、
汗を流しふーふーしている隣の背広の紳士と二言三言、言葉を交わす。
どうやら、その会場の企画運営に携わった功労者のようで、
熱狂する人々から距離をとって眺めていたらしく、ぼんやりとしていた傍観者の我が身とは全く立場が違うながら、出会いの妙。

その業界のスターがいるらしく、彼を取り巻いて幾つもの輪ができている。
取り敢えずは数名と名刺を交換し、カプチーノのクリームの上澄みのような会話を交わし、仲間の一人に促されて、会場の奥に進む。
二階に上がるエスカレーターは白煙で謎めいている。

ふと携帯をのぞくと、数件の電話メッセージ、SMSが入っている。
発信源を確かめる間もなく、大慌てで仲間を探し、一人に急用ができて出なければならない旨伝える。こちらの慌てようが伝わったのか、人混みの中で帰り道を一緒に探してくれる。

それからは、階段を駆け下り、まっしぐらに出口に向かう。先程の喧騒が嘘のように入り口は閑散としていて、警備員だけが手持ぶたさにしている。数名の招待客が連れが来ないのか、携帯をひっきりなしに耳に当てている。その中を駆け抜け表に出る。

タクシーか。
通りはびっしりとタクシーで埋め尽くされているが、赤ランプ。つまり予約済み。恐らく会場の客が帰りの足を既に確保しているということだろう。となると、メトロか。

息せき切って電話をし、遅れてしまうことを詫びる。
祈るような思いでメトロがゆらゆらと走る中、少しでも早く駐車場に着くよう目を閉じる。会場に残した仲間数人に挨拶もせずに出てしまったことを詫びるSMSを送る。
こんなことなら、会場近くの駐車場に朝から入れていれば良かったのに、と悔やまれる。焦っても電車の走行速度は変わるまい。それでも焦らずにはいられない。

こんな時に限って、地下四階に駐車しており、エレベーターへの警備は厳しく、何重もの扉をカードで開け続ける。

それでもやっと外に出て暗闇迫る車道を走り出す。
空には貼り絵のような黄色い半月がぺっとり張り付いている。

絡まる脚で飛び込むようにドアを開けて入ると、窓際にひっそりと姿が見える。
間に合った。背筋を伸ばしてテーブルに向かう。




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2014年8月19日火曜日

記憶





最近の建物にはどこでもコードが必要。もちろん、不審者除けなのだろうが、利用者にとって覚えやすい数字の羅列であることも、重要。従って、大抵、横続き、縦続き、或は縦と横の組み合わせなど工夫されている。

先日、オフィスのコードを電話で問われて、思わず同僚に助けを求めた私に対し、ボスが大慌て。今までコードを教えていなかったのだろうかと申し訳なく思ったらしい。が、すぐに、一体毎日、どうやってオフィスに入るのかと不審がられてしまう。何のことはない。指が覚えているのである。意味のない数字の羅列よりも、手の動き、指の流れが正しいコードをはじき、ドアを開けてくれる。

これは、ヴィオラを弾く時にも当てはまる。いや、ヴィオラを弾くようになったから、とも言えようか。先ずは、子供たちがヴァイオリンを弾くことで、曲を音符で覚えたが、そのうちに、同じ曲をヴィオラで弾くようになると、曲こそ同じでも音階が変わってしまう。それで、頭の中がぐちゃぐちゃしてしまったが、それよりも指が音を弾き出すことに気が付き、指を頼りにするようになってしまっていた。

その話をすると、つまり、指が覚えているから無意味な数字の羅列は記憶していないことを伝えると、ボスは呆れてしまった。

その呆れように、こちらが慌ててしまう。いや確かに、人間とは、覚えようとする気持ちがないと、ちっとも頭に入らないことに、自分自身も呆れてしまう。

そうして今朝。5時に起きて小一時間の散策を楽しみ、宿舎に戻る。コードは指が覚えているはず。が、なんと、覚えていたと思っていた動きをしても、ドアはピクリともしない。同行していた妹も同じように慌てている。おかしい。指の動きと、紙に書いてあった数字の記憶を蘇らせるが、何度やっても上手くいかない。6時半になるが、誰も起きてくる様子はない。しっとりと汗ばんでいた身体は、今ではすっかり冷え切ってしまっている。宿舎を一回りするが、鍵が閉まっていないドアは一つもない。流石にドアを叩き、大声を挙げ、誰かに助けを呼ぶことは避けたい時間帯。

そこで、大きなキャンパスの端にある守衛所まで逆戻り。挨拶をし、コードの話をすると、すぐに教えてくれる。その数字を見て違和感を覚える。「1」がない。おかしい。確実にあると思っていた数字が入っていない。これまで、自分の記憶に頼っていたことが、どんなに危ういことで、バカバカしいことか身を持って知らされる。情けなさでぐったりとしてしまう。

同じように項垂れていた妹が鬼の首をとったような嬌声を挙げる。最初は何を騒いでいるのやら、分からなかったが、どうやら最初に教えてもらったコードの数字自体が間違っていたことが判明。我々の記憶違いではないことが分かる。

そうか。
怒りよりも、何よりも、自分の記憶がまだまだ大丈夫であることに正直安堵してしまう。

いや、自己過信はやめよう。これからは、メモしておくか、無意味な数字の羅列に意味を持たせて覚える努力を怠るまい。因みに、今回の数字は二個(25)焼く(89)。渡された紙に書いてあった数字は2581。

しかし、これだけのことがあれば宿舎にいる一週間、絶対に忘れることはあるまい。

本日もイギリスは快晴。





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2014年8月14日木曜日

異国情緒


パリでの8月一杯無料の路上駐車場を探し、界隈を車で探索。結果、オフィスにそう遠くない場所に、一方通行ながら両脇が駐車スペースとなっている場所を発見。とにかくも、試しにそこに停めておく。

近いと言っても、ナヴィでたどり着いたこともあり、通りの名を確かめ確かめ、オフィスに向かう。

早朝だからか閑散とした大通りを渡るとき、ふと見上げると、大通りの先に美しい建造物。北駅か。見とれつつ、ちょっと心配になる。北駅周辺はそんなに治安が良いとは聞いていない。それでも、そこ以外にどこに駐車スペースがあろうか。

あまりに早い時間であると車の往来こそスムーズだが、普通の社会人ならまだベッドのぬくもりを名残惜しんでいるか、朝食を楽しんでいるころ。バカンス中ともあれば、なおさら車を動かす時間も、通常よりはもっと遅くなろう。だから住宅街は適していない。そうなると、繁華街となってしまう。夜はにぎわっても、明け方には新しい一日が始まり、昨夜の名残はすっかり消えてしまっている場所。


果たせるかな、夕方、通りはベビーカーを伴った若い母親たち、若者たち、カップルであふれかえっている。そして、朝は気が付かなかったが、通り両側ともにここ狭しとヘアドレッサーが軒を連ねている。

ガラス張りのこじんまりとしたサロンはとにかく混み合っており、女性だけでなく、男性客もいる。どこも子ども達であふれている。皆子連れなのか。だからの混雑なのだろう。そして、店の扉の脇には大抵数人の若者がたむろしている。美しくなって出てくる恋人を待っているのか、出てくる女性たちを値踏みするのか。

通りを大きく支配して日暮れのビールを楽しむ連中でカフェはにぎわっており、行き交う人々と声を交わす姿も少なくなく、立ち止まって話に興じる者、車のボンネットに寝転がって歌う者、通りの両側から声が掛かり会話をする若者たち。

この通りの夕方の顔。ここで交わされる会話はコロコロと鈴の音のような響きを持ち、夏だからなのか、人々は皆サンダル、トングをつっかけている。褐色の肌と漆黒の髪。


朝こそ駐車している車が少なかった通りも、今ではすっかり車で埋め尽くされている。そこに大人しく待ってていてくれたシルヴァーペンギンを見つけ、ほっとする。

ちょこちょこと前後左右に車を動かせ、通りに出したところで、バックミラーにて真後ろに停まっていた車も通りに出ていくところであり、私の動きを待っていてくれたことに気が付く。優先順位は我にあり、がパリの運転事情と思っていただけに、軽い衝撃を受ける。ひょっとして、仲間として受け入れてもらえたのかしら。急に喧騒が温かな調べを持って優しく押し寄せてくるように感じる。


明日もここに停めようか。笑みをもってゆったりとアクセルを踏む。




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2014年8月9日土曜日

ひとり




車一台通らない交差点で赤信号。
見上げると青い空だけ。
ラジオからはエンリオモリコーネ。

青になり、
シャトーに続く一直線のプラタナスの並木道を
銀の矢となって走り抜ける。







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2014年8月8日金曜日

雨雫


外に出てみると思った以上の土砂降り。慌てて傘を手にする。

先日、前輪のタイヤの溝が減ってきているから、そろそろ交換時期だと言われたことを思い出す。さりげない気遣いは素直に嬉しい。しかも、車のタイヤなど滅多に気にしないドライバーとしてはありがたいこと。以前、助手席に乗っていた同僚がガソリンスタンドに寄ろうというので、訝しげに思いつつも車を乗り入れると、タイヤの空気圧を点検してくれ、やっぱりとつぶやきつつ、調整してくれた時も、驚くやら感謝するやら。純粋に車好きとのことだったが、彼に対するポイントが急上昇したことは言うまでもない。

今回も、くだんの友人に対して大いにポイントは上がるが、タイヤはまだ交換していない。そして、この雨。

雨脚はどんどん激しくなり、国道に入ったところで滝の中に入ったようにワイパーは全く役に立たなくなる。真っ白なフロントガラスの向こうに辛うじて先行車のテールランプが赤くぼやけて見える。
いつもなら時速100kmは軽く出す場所で50kmに抑えて走行。こういう時は無理せずにスピードを落とし徐行すべきであることは頭で分かっているし、いざとなれば路肩に停車すべきことも分かっている。が、実際のところどうなのだろう。後続車のことを思うと、視界が良くない上、前の車が突然停止したことに気が付かずに、慌ててブレーキともなれば、それこそ、事故の原因になりはしまいか。

かなり神経を擦り減らし、目的の駐車場に慎重に車を乗り入れる。通りを渡るだけのために使った、助手席でぐっしょりとしている大きな真っ黒な傘を取り出し、電車に駆け込む。朝の早い時間だからか閑散としているが、車両の中も濡れていて、雨雫を垂らした傘を持った利用者が少なくないことを物語っていた。

しばらく揺れてからメトロを降り、薄暗い地下道を歩いて階段を上りかけ、地面が乾いていることに気が付く。まさか、パリは晴れていたのか。

地下鉄を抜けると、そこは晴れていた、か。

なんだか笑いがこみあげてくる。

びっしょりと濡れた真っ黒な蝙蝠傘を広げて差す。晴れ上がったパリの朝の空気はまぶしく、からりと乾いた地面は拍子抜けするほど明るい。

命からがらでの滝の雨の中のドライブは、一体何だったのだろう。

スキップを踏みながら傘から雨雫を飛び散らす。







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2014年8月3日日曜日

薫り高く、ちょっぴり苦くて深みある、ぷるるん珈琲ゼリー



未だお会いしたこともないけれど、もうすっかり親しく感じてしまっている『塩の華』さんのブログは魅力的。お料理に、その方の人生に対する姿勢がピンと入っていて、材料一つとっても、こだわり持って選んでいらっしゃる。ストーリーがある。そして演出が何より素晴らしい。ラロシェルのお宅を夢見ながら、鴎の鳴き声さえ聞こえてきそうになる。

そうして、この週末も、塩の華さんのレシピで『コーヒーゼリー』に挑戦。バッタ達が日本から母から私へのお土産として託された珈琲を薫り高く煎れ、後は板ゼリーを溶かし込むだけ。スプーンでぷるるん、舌の上でつるるん。想像しただけで早く味見がしたくなる。




早速、真向いのマダムに、日曜の午後のひと時に差し入れする。
ちょっとクリームを入れ過ぎてしまったろうか。

二つ目は、クリームを控えめに。
慣れない経理の質問を専門家の友人に訪ねる時に、写真で差し入れ。日本の母や台湾の妹にも写真で休憩タイムにどうぞ、と差し入れる。
夏の海を満喫中の長女バッタの携帯にも写真を送る。

「ママ、おいしそう。」
そんな返事をすぐに返してくれた長女バッタ。


それなのに、フランスでは日曜のお昼は家族との食事の例にならってか、バッタ達がパパの携帯を使って連絡をくれた時、彼等にちょっと辛く当たってしまう。

「ママ、元気?」
これって、フランス語の直訳だって分かっているけど、日本語じゃあ言わない表現。そりゃあ、手紙で改まって「お元気にしていらっしゃいますか。」なんて書くことはあっても、電話口で突然、元気?もないだろう。しかも子が親に対して。

了見が狭いことぐらい重々承知。でも、パパの携帯から電話を掛けてこなくたっていいじゃない。しかも、日曜の午後に当てつけたように。いかにも、パパから言いつけられたよう。

せっかく良い点だと喜んでいる長女バッタのToeflの点数にケチをつけてしまう。来年の進路が定まっていないことに小言を言う。

海で楽しく遊んでいるなら、それでいい。そちらの雰囲気を何も運んでこなくてもいい。
そう思ってしまう。
だって、ママは、やっぱり、一人じゃつまんない。元気じゃないよ。言葉にしたら、胸がきゅんとなってしまい、今にも涙がこぼれそう。

バッタ達も、ママに電話をしなきゃよかったな、と思っているだろうな。そう思うと、余計に胸が押し潰されてしまいそう。






さあ、気を取り直して。
一人、贅沢に、ぷるるんと、苦くて深みのあるコーヒーゼリーを舌の上でとろけさせよう。甘いシロップの味とクリームの優しさが、一層おいしさを引き立ててくれるに違いない。












バッタ達が帰ってくる日には、もう何度も作った塩の華さんのブログにあった苺ヴァバロアケーキを作ってあげようか。
まだまだ、先のことだけど。





アオゲラ君のけたたましい鳴き声が上がる。




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2014年8月1日金曜日

8月のパリ



そうか、8月、パリの路上駐車は無料になる。
うっかり思いが及ばずに、既に一ヶ月分のカートナヴィーゴを買ってしまっていた。夏の期間に工事はつきもの。現在、パリに行くための電車が工事の為不通。この機会に、パリに入る手前の駅の近くに駐車場でも借りようかと調べていたところ。それなのに、慌てて一月分の定期券を買ってしまったのだから、最近やはり疲れが溜まっているのだろう。

路上駐車は無料なるも、どうやら100%ではないらしい。8割は無料。そりゃあ、シャンゼリゼ大通りともなれば、いつでも、路上駐車は無料とはいくまい。

かくして、8月1日の本日、車でパリに繰り出す。閑散としているとはいえ、早目に場所を確保せねばなるまい。7時前には家を出る。スムーズながら、バカンスのがらんとした状態とも言えず、北駅近くにもなると、そこそこに混んでいる。いや、余りに早くて、ゴミ収集車や路上清掃車がのんびりと回っていることも、思うように進まない要因か。

疑心暗鬼ながら、取り敢えず路上駐車のスペースを見つけ駐車。

そうして、ランチタイムに様子を見に行くと、一枚の紙切れがワイパーに挟まっている。ラッキーなことに、無料とはならない2割の駐車場に停めてしまったのか。紙切れを手に取ってみると、どうやら、後日罰金の通知が郵送されるらしい。やれやれ。一瞬、他の場所を捜そうかと思うも、既に罰金を科さるわけだし、ここで一日お世話になろうと腹が据わる。まさか、午後に二枚目の切符が切られまいか、との思いが過るも、まあ、その時は、その時、とばかりに、今一度紙切れをワイパーの下に挟める。

支払うべき駐車料金を払わずに申し訳ないとの思いより、なんだって損をしてしまったとの思いが強いから、たちが悪い。

夜になって、まさか二枚目の切符はあるまいな、と危ぶみ近寄ると、なんのことはない、お昼に見た通知も見当たらない。

さてさて。通行人のいたずらか。

それでも、罰金の通知がなくなった車を運転する心は軽く、いやはや、何と単純な、と我ながら笑ってしまう。

はてさて、来週はどうしよう。
せっかく購入したナヴィーゴで電車を使うことにしようか。。。




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2014年7月30日水曜日

空白のメッセージ



メッセージが送られてきたわけではないが、
相手の今の状況が一瞬にして分かる。

元気にしていると確認するだけに留める。
相手は手を差し出しているが、その手を握り返す気持ちはない。
こちらにとっては、挨拶の握手のつもりが、全く違った解釈をし兼ねられない。
そんなリスクは敢えてとる必要はない。

お互いに元気であることが確認されただけで満足な関係というのもある。

それにしても、スコットランドの街で、演奏活動をしているとは。ジャズバーでピアノ演奏だろうか。結婚式やパーティーに借り出されているのか。

元気でね。
呟いて、目を閉じる。




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2014年7月26日土曜日

我が家にご招待







けたたましいアオゲラの鳴き声。もしや、と思って庭に出てみると、案の定、熟したレインクロードが幾つも転がっている。味見の跡がはっきりと分かるものもある。一つの実を最後まで食べるなんてことをせず、あちこち味見をする贅沢さ。でも、けちけちする必要もない程、実はたわわになっている。ミラベルも黄緑色から徐々に濃さを増している。クエッチは未だか。それでも、幾つか紫色に色付いている。

そうだ、みんなを果物狩りにご招待しよう。
その前に、この好き放題に伸びてしまった芝生なのだか、雑草なのだかを、何とかしないと。玄関前の庭の芝生を刈ろうとすると、奥の庭から芝刈り機を持ってこないといけない。既に四代目となる我が家の芝刈り機は、石だって、松ぼっくりだって、なんだって、刈ることになっても、兎に角頑丈でないとならない、と、かなり大き目なものになっていた。だから、細くなった家の脇の道を通る時、階段などの障害物がある時は、厄介。これは奥の庭専用にして、前の庭には、もうちょっと手頃なものを買うべきだろう。

思い立ったら、車に飛び乗り、土曜の朝、専門店に駆けつけていた。まさか朝八時から開店しているとは知らなかったが、さっさと作業に取り掛かろうと思う人々で店は意外に賑やか。余り悩まずに、今年一番売れているらしい商品を手にしてレジに向かう。伸び放題の雑草を刈り取る時の型、脇や角で刈り取りにくい場所向けの型、通常の刈り取り型、と、どうやら三つの型が備わっていて自由自在に選べるとか。先ずは伸び放題の雑草を刈り取らねばと思っていた頭には、これこそ願ってもいない品との思いがあった。

商品を組み立てていると、隣のムッシューが声を掛けてくる。「うちの庭ならともかく、お宅の庭は大きいので、そんなのではなく、本格的な芝刈り機が必要なのでは。」

いや、だから。。。

と説明しながらも、ちょっと不安に。そう言えば、刈り取った雑草を集めるようには作られていない。しかも、刃に至っては、どやら、ナイロンの線で刈り取るらしい。

はて。

薔薇の木の下を刈り取ってみて、その便利さと軽量さに感心したが、やはり、大きな面積の刈り取りには向いていないことを身をもって知る。

已む無し。
奥の庭の離れから、えいやこらと芝刈り機を持ってくる。買ったばかりの商品に比べて、効率よく、がんがんと刈り取ってくれる。よっしゃの勢いで、裏庭にもまわる。ミラベルの木がある場所は、特に放置されていて、雑草は腰の丈。ここは、うるさい隣人の家と接しているため、どうしても足が遠のいてしまい、芝刈り機も久々に乗り入れる。案の定、音を聞きつけて、隣人がやってくる。

「ムッシュー、ムッシュー。ねえ。あら、マダムじゃあないの。ご苦労様ね。お一人で芝刈りなんて、女の手じゃ無理よ。それに、お宅のお庭、個人で管理なんて無理ですよ。ちっとも手入れできていないし、うちとの境界線にある立木なんて、もう何メートルになったかご存知ですか。あれから三年目ですよね。」

二年目です、と訂正しながらも、ちゃんと専門の会社に連絡をして、庭師が来ることになっていると、出まかせを言ってしまう。そして、良い週末を、と、早々に会話を切り上げてしまう。

何故かいつでも、実験用の白衣を着ているマダムにしてみたら、自分のところの庭は手入れをしているのに、隣人が放置していて、景観を乱されることが我慢にならないのだろう。

今回は根気よく、裏庭も全て刈り込む。9時から開始して、途中、二回洗濯物を干し、一回、息子バッタの英語のテストの結果発表の日であったことを思い出し、確認のため中座しただけで、14時まで、ぶっ通し。刈り取った後は庭が広く見えるから不思議。

さあ、これで心置きなく、皆に声を掛けられる。
それでは、まずは、シャワーを浴びて、のんびりするか。
このところお気に入りの苺のババロワケーキを作って、おもてなしをしたくて、うずうずしているものの、足や腕、首、腰に、疲れを感じる。ご招待は来週となるか。いや、そうすると、先に仕入れてある苺、フランボワーズ、ミルティーユはどうしよう。

どうしようか、ね、アオゲラ君。






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2014年7月24日木曜日

紫の女王




春になればチューリップ、水仙、桜草、連翹。4月には桜。5月には鈴蘭、リラ。野薔薇、野苺。初夏にはウツギ、紫陽花。真夏は葵。そして、レインクロード、ミラベル、クエッチ。フランボワーズ。秋には胡桃、ヘーゼルナッツ。

こんなバラエティ溢れる、色彩豊かな庭は、前の家主の手によるもの。

以前、長女バッタが家庭菜園に目覚め、必死に土地を掘り起し、耕し、大根、那須、キュウリ、トマト、を植えたことがあったが、夏中家を空ける彼女には向いていなかったらしく、翌年は止めてしまい、今ではただの固い土地に戻ってしまっている。

唯一、私が手を加えたのは、この紫の香りを植えたこと。
表玄関の庭に四株、後ろの庭に二株。

一人で過ごす二年目の夏。
未だ当時新車だったシルヴァーペンギンを飛ばし、田舎の植木屋で購入。

未だ明けきれない朝の静謐な冷やかさの中に、甘ったるくなく、優雅ながらも爽やかに、気品高く、堂々とした香りに、すっかりとラヴェンダーの女王となり、ゆっくりと歩みを進める。







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2014年7月20日日曜日

バッタ達の置き土産



毎年のことながら、バッタ達がいなくなってしまう夏が今年もめぐってくる。夜遅く、もぬけの殻となった我が家に戻ると、あれだけ散らかっていたサロンがすっきりとしていて、洗濯物も片付いている。どうやら掃除機まで掛けて行ったらしい。

バッタ達の成長に目を見張る。

さて、とPCを立ち上げるとピンクのポストイット。
ネコのイラストにメッセージ。末娘バッタの手によるものと思われる。
『There is a mushroom there, on the corner of this door !→』
おいおい、『on the corner』じゃなくて、『at the corner』でしょ。
と思いながらも、ぎょっとする。何だって?きのこ?

慌ててドアの隅を見ると、確かに何やら黒い粉が撒き散らされている。その発信源と思われる白い細長い物体も発見。まさか。本当にキノコぉ???

タイミング良く長女バッタからSMS。あれはいったい何なの?と問いただせば、どうやら息子バッタが第一発見者。気持ち悪いよね、とコメントが来たので、長女バッタが置いて行った大切なドゥドゥでキノコ退治する旨伝える。冗談やめてよ、との返事。怖いよ、と。「怖いのはママも一緒。なんでママに始末させるのよ。」と書くと返事なし。

実際、キノコなんて怖くはない。家の中に細長い白いキノコがヒョロリと生え、そこから真っ黒な胞子を飛ばしてたなんて、気味悪いけど、そんなもん、つまんでポイ。でも、ママに始末させようなんて思って、残して置いていった根性が気に食わん、と思ってしまう。勿論、息子バッタにかかれば、現場検証の為に、手を付けずにそっとしておいた、なんて反論するんだろうけど。

大きくなったようで、まだまだ子供なのよね。

それでも、来年には巣立っていくであろう長女バッタのことを思い、胸がチクリとする。
煤が撒き散らされたように真っ黒になった床を拭き取って、エノキの様な細長いキノコを始末する。




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2014年7月19日土曜日

午睡







緑の風に揺られ
一枚の葉のように水の上を滑る。

緑の流れの中で
空が見えなくなるほど濃厚な深緑の世界に入り込む。

緑の大きな深呼吸をして
また揺られ続ける。








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2014年7月18日金曜日

猛暑の昼下がりのメトロで



若いカップルがメトロで楽しそうにお喋りしながら、サンドイッチをつまんでいる蒸し暑い日。お昼を食いっぱぐれた身としては、若さが眩しい。自転車の早朝練習や合宿の際、疲れ果ててコンビニで菓子パンやおにぎりを買って、道路にしゃがんで食べたことが懐かしい。流石に、今じゃできないな、と思っていると、なんだか親しげにこちらを見つめている。

「あのぉ、買い過ぎちゃったんです。この箱にアイスが12個入っていて、もう一口も食べられないんです。良かったら、食べて頂けませんか。」

良く見ると、彼らの膝には箱があり、小さなカップアイスを幾つか手にしている。

爽やかな誘いに思わず微笑む。それでも「どうもありがとう。でも遠慮しておくわ。」分別ある大人の返事が口をついてしまっていた。

バッタ達に思いを馳せる。彼らがこんな若者になってくれると嬉しいな、と。
素直な若者たちに幸多かれ!








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2014年7月13日日曜日

草原からの贈り物







野放し卵を4つ。卵黄とカソナードをしっとりと十分にクリーミーに泡立て、さっくりと小麦粉を混ぜ、しっかりと泡立てたメレンゲを入れ込み生地を作る。180度のオーブンで20分程焼き上げると、うっすらと黄金色のふんわりとしたジェノワーズが優しい香りでキッチンを満たしてくれる。

ここ数日の雨がそうさせたのか、小粒ながら、ぱあんと丸く張った苺たち。甘い香りにうっとり。意外に酸味が強く、甘みは控えめ。レモンを絞って、苺のクーリーをジューサーで作成。

苺のクーリーにふやかしたゼラチン板を入れ、さっと熱を通す。一方で生クリームにカソナードを入れ、泡立ててシャンティに。ゆっくりとゼラチンが溶け込んだ苺のクーリーを混ぜ込むとピンク色のバヴァロア生地が出来上がる。

ケーキの型に沿ってジェノワーズを切り取り、型に入れ、その上からゆっくりとバヴァロアを流し込む。冷蔵庫に入れて固めること一時間強。その間にミロワーズを。こちらは苺クーリーにゼラチンを溶かし込むだけ。固まったバヴァロアにそっと流し込んで、改めて冷蔵庫でしっかりと固める。

底が外せる型が最適なんだろうけど、手元になく、思い切って、一切れずつお皿に出して、一つずつをデコレート。




先っぽが尖った愛らしいフランボワーズは沢山のちっちゃなビズ。
山麓の朝霧の香りがするミルティーユは愛を囁く口づけ。
苺バヴァロアは口にとろける甘やかな思い出。
苺ミロワーズは熱い情熱を映し出し、
爽やかで澄み切った香りのラヴェンダーは緑の風を届ける。



お誕生日おめでとう。







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2014年7月8日火曜日

雨の匂い



リズミカルな車輪の音と揺れに身体を預け、物思いに耽っていた明日香はいつの間にか寝ていたのだろうか。気が付くと、さっきまでの軽快な音も揺れもなく、車内はひっそりとしている。先程までは誰もいなかった相席には、男が一人、雨の匂いをまとって佇んでいた。慌てて窓の外を見やるが、夏休みになったばかりの空はあくまで青く、真っ白な入道雲がまばゆいばかり。もう一度男を見やると、確かに小ざっぱりと刈られた頭や、ワイシャツの肩も濡れてはいない。それでも明日香には、男から雨の匂いが感じられるとの感覚が確かにあった。電車が改めて揺れ始める。それと同時に、カサカサと車輪のリズムと一緒に音が重なる。男は花束を持っていて、電車が揺れる度に、車体に預けた男の身体と手にした花束を包んだラッピングペーパーとが音を醸し出していた。明日香は雨の匂いが、男からではなく、男が手にしていた花束からしていることに漸く気が付いた。そして、久しぶりに幼い時の夏の日を思い出していた。


明日香は庭で遊ぶことが大好きな女の子だった。そして花びらを集めて、色水を作って絵を描く遊びに夢中になった時があった。つつじ、朝顔、ホウセンカ、サルビア、つゆ草、なんでも目につく花は試してみた。そんな時、庭の片隅にひっそりとしている、明日香の肩ぐらいある低木に目がいくようになった。黄緑の葉がどんどん大きくなっていくのに、それにつれて形を見せてきた花の蕾は大きくなっても、ちっとも色付かない。一体、どんな色になるのか。そして早く色水を作って絵を描きたいと思って、毎日その低木の下にしゃがんでは夕暮れ時まで過ごすことが多くなった。

そんなある日、やはりいつものように、庭の片隅の低木の下にしゃがんで、青い空を睨むように、いくつもある蕾から沢山の花びらが舞うように咲き始めながらも、ちっとも色が付かない花の輪を恨めしく思っていると、庭に知らない男がいることに気が付いた。その男は明日香の方を見て、にっこりとしている。正確には、男は明日香ではなく、明日香がしゃがんでいる傍の低木を見ていた。その証拠に、ゆっくりと近づいてくると、その色付かない大きな花の輪に、顔をそっと寄せ、何か呟いている。そして、男は口づけをしていた。明日香はドキドキしてきて、どうしようもなかった。それでも、見つかった時の怖さよりも、男がいくつもある花の輪一つ一つに、ゆっくりと声を掛けていく様子にうっとりとしてしまっていた。丁寧に言葉をかけ、口づけをしていく。そうして、明日香のすぐ近くの花に男の唇が寄せられたと思った瞬間、男は明日香の頭上にも、優しく口づけをしていた。男は明日香を花の輪と思ったのだろうか。次々に声を掛けて、そうして花の輪すべてに口づけをした後で、男は姿を消していた。

どれだけそこにいただろう。明日香はあの時、花たちの幸せそうな語らいに一緒になって混ざっていたような気がする。夕飯に呼ばれて漸く立ち上がると、夕日を浴びて花たちが一段と輪を大きくしたように思われ、もう一度良く見ると今度は驚いて立ちすくんでしまった。あれだけ焦がれていた花の色が鮮やかに付きはじめていた。急に怖くなって、台所の母のところに飛んで行って泣きながら聞いてしまった。「ママっ!明日香、今、何色しているっ?」母はびっくりした様子もなく、しっかりと抱きしめてくれて、ゆっくりと、でもしっかりとした声で「明日香は、明日香色しているよ。」と教えてくれた。あの時の安堵感。母親の柔らかい胸の中で、愛されていることを強烈に感じ、信頼されている喜びを味わった一瞬だと思われる。考えてみれば、あれから何度自分を見失うことがあっても、あの時の母の言葉、「明日香は明日香色」を思い出し、勇気をもらって立ち直ってきたのだと思う。


雨の匂いで過去の思い出から現実に引き戻される。相席の男が立ち上がったのだ。男は次の駅で出ていくのだろうか。車輪の軽快な音がゆるやかになり、やがて止まる。扉に向かった男は持っていた花束を大きく明日香の膝の上に投げる。声を出す前に、外に出た男の後ろで扉は締まり、先程と同じようにゆっくりと車輪の音がなり始め、軽快にスピードを上げていく。明日香の膝には雨の匂いのする紅色の紫陽花。




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