2013年12月16日月曜日

胡桃色の背広にシャンパンゴールド




一体全体、この時間帯でこの混雑は何なのだろう。赤いテールランプの行列を恨めしく思いながら溜息が漏れる。住所を確認し、目的地までの現在の推定所用時間を調べた時には30分程度だった筈が、エンジンを掛けてから早小一時間が過ぎていた。皆が皆、彼の就任式に行くのだろうかとさえ思えてしまう。


漸く延々と続く赤の波から脱し、自動車道を抜けると、今度は真っ暗な闇が待っていた。ナビに正確な住所を入れた時点で、既に撥ねられていたが、流石に現地に行けば看板や目印があろうから問題はあるまいと高を括っていたことが恨まれた。学究都市との名の通り、確かに幾つかの建物から、あちらこちらで蛍光灯の光が放たれていたが、目的の建物がどれに当たるのかなど見当もつかない。これが太陽の光の下であれば、一目瞭然といかずも、判断材料は目につくであろう。


どうしたものかと、広大なる敷地をイライラしながら、それでものろのろと徐行し、目印や看板など、手掛かりを探す。ホテルでもなく、大企業の研究所でもないことからか、門の守衛室には人影さえない。何の建物なのかを示す看板さえもライトアップされていない。いや、看板そのものが存在しない。広告する必要もないのか。そんなことに予算を回す必要性がないのか。改めて思う。


敷地の端に出てしまうと焦りつつ、最後の建物の入り口を凝視すると、数字の3が目につく。最初にナビに入れようとした数字ではないか。慌てて車を乗り入れようとすると、ゲートに阻まれる。ボタンを押すにも、何ら反応はない。仕方ない。暗闇の中でのバックは余り嬉しくはないが、そんなことを言っている場合ではなかろう。徐行していた通りに出て、路上駐車。鞄をひっつかみ運転席から転がり出る。


一体この建物のどこが会場なのか。と、右手の手袋が見つからない。コートのポケットを探ってもない。車から降りてまでの道を目でたどるが、暗闇があるだけ。泣きそうになる。それでも、走って車に戻り、ルームランプを点けて座席、その下を点検するが、見つからない。ないはずがない。自分に言い聞かせる。だから、今は兎に角も行かねば。


車で入れたらと恨めしく思いつつも、正面玄関と思われる場所まで走り、ゆるやかな勾配の幅の広い段を走り上っていると学生と思しき青年が数名、こちらを見て微笑んでいる。講義に遅れそうになって走った遠い昔を思い出す。行けば何とかなると思っていた通りに、受付があり、名札を渡される。会場は講堂になっています、と告げられるが、一体講堂はどこにあるのか。それでも、ひっそり閑としている廊下を突っ切るとホールにシャンパンの用意があって、すぐに講堂の入り口が分かる。シンプルな建物ながら、お金をかけるところには掛けているのであろう。重厚な扉の前で姿勢を正し、静かに開ける。


オレンジ色の柔らかな光が洩れ、劇場の様な非常にモダンな大講堂であることが分かる。大きなスクリーンにはエンジンの写真が映し出されており、既に講演が始まっている。ステージには講演者の他に三人がソファーに座っており、そのうちの一人がこちらを見ている。靴音を立てないように気をつけながら、細心の注意を払って階段を下りるが、永遠に続くかと思われる程の階段数。はにかんだ笑みを受け止めながら、高揚感に包まれる。



代表就任おめでとう。






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2 件のコメント:

  1. あかうな18/12/13 04:19

    就任式、ご出席されたのですね。よかった。
    それにしましても、胡桃色の背広、というのはいささか文語的ではありませんか。チャーコードグレイのコーデュロイとか、あ、これでは意匠が違いますか。。。なんだか我が家にいるキツネ君を想像してしまいました。あ、これも全くの的外れですね、はい。それにしても、すごいところですね。というか思わず吹き出してしまいました。くっかばらさんがバックで車を逆戻りさせ、徒歩で開場にたどり着くあたり。他の皆様はどうやって入場されたのでしょうか。ま、まさか、ヘリ???

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  2. あかうなさん、こんにちは。

    チャーコールグレイとは違って、本当にクルミ色で胡桃のごつごつ感がある立体的生地。なんと言えばいいのかしら。

    講義に遅れて入った学生が、ばれないように静かに階段を降りるにも、すぐに教授に見つかってしまったって感じでした。

    実は、それからの講演内容も書きたかったのですが、そうするとまた別の話になるので割愛。その後、また階段を上って入り口のところで、彼が出てくるまで待ったのですが、学長と談笑しながら出てきたの、笑顔で挨拶をして、その場を後にしました。次なる会場に向かわねば、と。

    すぐに携帯が鳴って、運転中なのでとれず、後でメッセージを聞いたら、とっても興奮した声で、ありがとう、来てくれたんだね、とっても嬉しかったよ、と。

    お祝いに駆けつけることができて良かったです。あかうなさんの応援メッセージのおかげです。ありがとうございます。

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