2013年4月29日月曜日

フィオッコ、ア、レ、グ、ロ!!!




携帯が鳴る前に、
朝の光で目覚める。

昨日の会場準備で既に足腰に疲れが残っており、
慌ててケーキをオーブンから取り出した時に火傷をした指先に痛みを感じるが、
長い一日の始まりに深呼吸。

初めて挑戦したレモンタルトをアルミフォイルに包み、
これまた初めて試みたマンゴシフォンケーキをラップで包み、
末娘バッタが一人で挑戦して、最後は半泣きで焼いた星型のガトーオショコラ、
その後、息子バッタが音頭をとって、二人で一緒に笑い合って焼き上げた円型のガトーオショコラをアルミに包む。

大きなポップコーンのケース2つも忘れないようにと玄関に出しておく。

300個のプラスチックコップ、
300枚のプラスチック皿、
300枚の紙ナプキン、
20mのオレンジの紙ロール、
3個のキッチンロール。

135人の生徒達の名札、
30人の先生達の名札、
10人の案内係りの名札。

最後のコンサートの時のために、
白いワイシャツ、ブラウス、黒いスカートを用意する。

バッタ達を起こして、
最後の確認。

バッタ達がバイオリンをトランクに積み始める。
今回、初めての試みというプチオーケストラのアトリエに声がかかっており、
アルトと譜面台も用意する。

いざ出陣。

去年は学校の行事で参加できなかった二人のバッタ達はいるが、
学校の語学研修で中国に行っている長女バッタの姿はない。

息子バッタが手際良く、
前日に準備した受付のテーブルで
名札をアルファベット順に並べ替える。

参加者へのプレゼントとして、
ト音記号とヘ音記号の丸いバッチがルチエから差し入れされる。
丸い鶉の卵のチョコと、
大会のロゴが入ったボールペンは、
大会からのプレゼント。

プログラムを印刷してくれるプロの設計士ジュディスが未だ来ていない。
朝は弱い彼女。
確か、去年も遅れての到着だったか。

ぞろぞろと参加者がバイオリン、チェロを抱えてやってくる。
手ぶらの子はピアニスト。

カフェのコーナーでは、オシドリ夫婦の幼稚園の園長と小学校の教員のフィリップ達が、やっぱりオシドリ夫婦のフィリップの両親と一緒に準備に入っている。
彼らの名札!
大急ぎで手書きする。ルチエの二人の名札も作成。

ブロンドの長髪をなびかせてジュディスがプログラムを抱えて走りこむ。
末娘バッタが既に受付を済ませた子や先生達にプログラムを手渡しに飛ぶ。

家の子はバイオリンなのに、何故コントラバスの先生が担当なの?
10時からのオレンジのクラスはどこ?
ピアニストの会場は?
この荷物はどこに置いていいのかしら?

様々な質問を捌く。
気がつくと、もう10時。
慌ててバッタ達を受付のお手伝いから解放する。

チェリスト達の特徴なのだろうか。
遅れての到着組みが多い。
しかも、受付の手前で、急ぐでもなく、親たちがぺちゃぺちゃとおしゃべりに花を咲かせる。

さあ、もう授業が始まっていますよ!
お名前は?受付をしてください!名札がありますよ。

大声で伝える。

「家の子がどの教室にいるのか、知りたいのですが。」
今、どの曲を練習しているのか聞いてみる。
「バッハの二つのバイオリンのための協奏曲です!」
誇らしげに伝える相手に、2階の12番教室であることを告げる。

ちらりと、末娘バッタのことを思う。

「フィヨッコが覚えられなくてね。何せ、ラフォリア、ビバルディ、ヘンデルと盛り沢山で、全てを暗譜するキャパがなくなっているんだよ。グループも言わずに行ってしまったから、どの教室かも分からない。」
どこかしら誇らしげに語る相手には、グループはアジュールで、2階の11番教室で練習していることを伝える。

そして、ちらりと息子バッタのことを思う。

と、冴えない顔で、もっと冴えない顔の息子エルウィンを連れてイザベルがやってくる。
「待っていたのよ!
さあ、この名札をつけて。教室は2階の9番教室。もう始まっているわ。」

笑顔で送り出す。どうやら、嫌々だったらしく、イザベルがお昼には帰ると言い始める。
せっかく来たのだから、最後のコンサートに出ないと、と説得。

ランチボックスの箱を抱えてベアトリスがやってくる。
話し込んでいたイザベルと一緒に仕分けを始める。
袋に入っているとは言え、食べ物を床に置くことに抵抗を感じ、
それでも新たに机を運び出す気力もなく、
テーブルクロスを床に敷くことで、対応することに。

大人と子供、ノーマルとベジテリアン。
4種類のセットを準備。
床は沢山の袋がきっちりと並び、さながら花壇のよう。

恥ずかしそうにしか姿を見せない太陽の下、
仲間達と寒さに震えながらもお昼を食べるバッタ達の姿を確認し、
ソフィーやジュディスの背中を見つけ、彼女たちの脇に座り込む。
高校の社会の教師というソフィー。
真ん丸の茶色い瞳をくりくりとさせながら、
今度こそは、企画段階での落ち度をしっかりと列挙し、
問題提議をすると声を張り上げている。

「ちょっと待ってよ。
反省や、来年のことはさておいて、今、ここに横たわる現実の問題に目を向けてよ。
午後のオヤツ休憩は外にする?体育館にする?受付ホールにする?それによって、机を運ばなくっちゃ。で、誰が、いつ手伝える?」

皆、一斉に空を仰ぐ。

どんよりとした雲が覆っているが、
急に銀の粒が降ってくるとも思えない。

大騒ぎするであろう子供達、
あちこちに散らばるであろうケーキの屑、
こぼれるであろうジュースや水。

「雨が降っても、絶対、外よ!」
ソフィーが断言する。

午後はチェリストのカルロスとのオーケストラのアトリエが待っている。
できるなら、早目に準備をしてしまいたい。
ランチの終わりとチェリストの演奏が始まることを告げるゴングを鳴らす。
チベットからのゴングは、いつもなら優しく、心の湖まで震動が伝わるが、
こんなときの効果はいかほどか。

チェリストのいる家族はもう準備にコンサートホールに向かっている。
バイオリニストの家族の腰が重い。
ピアニストの家族は、観衆が少ない時の思いを知っているからか、動きが早い。

と、カフェのコーナーでのんびり食後のカフェを楽しむ親たち。
その周りではしゃぎ回る子供たち。

時々イギリス人、時々フランス人になる企画のシェフ、フランソワがウィンクを投げてくる。
いいんだよ。フランスなんだから、と。

それなら、と、
さっさとテーブルを運び出し始める。
驚いたことに、外に出したテーブルに早速腰をかけて話し込む女性たち。

午後のお茶会のテーブルの準備なんですよ、
と言っても、ちっとも気にせず、ましてや、手伝おうと動くこともない。

まあ、いいか。
仲間の助っ人たちが一緒に運び出してくれる。
あっという間に準備はオーケー。
遅くなったけど、チェロのコンサートを覗きに行こう。

すぐに息子バッタの笑顔に出会う。
隣りには末娘バッタの姿。
「ママ、僕、眠いよ。」
「寒くて、凍えているの。」
そういう末娘バッタに、
着ていたジャケットをそっと音を立てずに脱いで渡す。
ちょっとだけ、和みの時間。

髭面のカルロスが目に映る。
ユネスコのコンサートで、音楽性を巡って、指揮者と大いにぶつかり合った頑固親父の印象が抜けず、これから、彼の指導の下、プチオーケストラをするのかと、ちょっぴり緊張が走る。

「ママ、教室に連れて行ってよ。」
甘える末娘バッタに、ママもこれからアトリエなのよ、と告げる。

ゴセックのガボット。
幼いバイオリニストとチェリストに混じって、
第2バイオリンにジュディスの姿。

楽譜を見て弾くよりも、
耳で聴いて弾く子たちが多く、
ワンテンポ遅れて入るバスや第2バイオリンも
何回かの練習で形になる。

ちょっと一人だけ浮いているな、と思ったら、
弦を一本間違って弾いていて、慌てる。

リラックスさせようと、
冗談を交えて何度も繰り返し指導するカルロス。

彼の魅力に皆が引き込まれ、
はちゃめちゃだったプチオーケストラが
急に活き活きと踊り出す。

指導力に目を見張り、
弾きこなしてしまう子供達に目を見張る。
そして、
この一瞬を共有できたことに感謝する。

さあ、ピアニストのコンサートの時間。
これが終われば、午後のお茶会の時間。
皆が持ち寄ってくれた沢山のケーキ、山盛りのビスケット、抱えきれないボンボン、幾つものドリンクを外のテーブルに運ぶ。
いつの間にか仲間が集まり、一緒に準備をしてくれる。
今年は出だしこそ鈍かったが、参加者は135人。家族も含めると300人はくだらない。
それに対し、お菓子の提供がちょっと控え目なことが気になる。
ケーキはできるだけ、子供達がとりやすいように、小さ目に切ってね、
と、メッセージを伝える。

コンサート会場からは割れんばかりの拍手。
それがお茶会開始の合図。
老若男女、皆、にぎやかに集まって、壮観。

にこにことフィズが、何を取って来ようか、と言ってくれる。

いいのよ、いいの。
こうして、皆がこんなに喜んでくれていることを見ることの方が、
すっごく嬉しいのよ。
でもね、最後のバイオリンのコンサートだけは、最初から最後まで観たいわ。
だから、後片付けは、その後にね。

フィズはもっとにこにこして、
君はゆっくりと観るといいよ、後は僕に任せて、
と言ってくれる。

どうしても、先ほどのプチオーケストラの成果を皆に披露したいジュディスの声を、
カルロス、そして、全てを運営している我々のシェフ、マリに伝える。
マリは喜んでコンサートで演奏しようと言ってくれる。

カルロスとマリが話し込む。

チェリスト達はもう出番が終わったと気持ちの上でも思っているだろう。
時間だって、押せ押せだし、と思っていると、
カルロスがやってくる。

貴方の指導の下なら、
なんでもやりますモードの私に、
今回は演奏を辞退したと伝える。

真っ直ぐと目を見て伝えるカルロス。
分かっていると思うけど、さっきは、少しずつ積み上げて、皆の気持ちが一緒になって、上手くいったんだよ。
あの時の魔法の瞬間を皆には覚えていて欲しい。
ピアノのコンサートがあって、休憩が挟んでしまい、
あの時の魔法が働かないかもしれない。
そうしたらどうだろう。
だから、今回は、プチオーケストラは、あれで解散。
でもね、皆には、あの時に味わった魔法の瞬間を求めて続けて欲しい。
それぞれに、ね。

心の湖が震える。

カルロスと同じだけの効果はないだろうが、
できるだけ同じように、ジュディスに告げる。

そうかもしれないわね、
宙を見つめ、ジュディスが応じる。

オッケー。さあ、バイオリンを取ってこよう。
もう、コンサートが始まるわ。

そういうジュディスに、今回は演奏する側ではなく、聴衆者として鑑賞したいと伝える。
フィヨッコが聴きたかった。
エレンの音にも触れたかった。

久しぶりに観客側に陣取っていると、
あら、今日は弾かないの?と声が掛かる。
演奏するってことは、実はそう簡単なことじゃない。
仕事だ、準備だ、と全く練習をしてきていない私には、
実は皆の中で弾く資格さえない。
慌てて、気もそぞらで、弦を間違ってしまう失態をやらかしたくはない。
そう、今日はゆっくりと、味わいたい。

幼い子たちがずらりと前に勢揃い。
彼らが賑やかに集まって、何とか列を作ろうとしている間、
後ろでは、真剣に大きな子達が様々に指の練習。
先生の姿も見える。
なんだか微笑ましい。
そう、先生だって、最後の瞬間まで練習している。

と、一瞬にしてキラキラ星が響き始まる。
それが開始の合図。
そうして、ビオラ体験グループがビオラの音階で一曲奏でると、
エレンが出てきて、アジュールのクラスのみが残り、皆、座り込む。

フィオッコ。
ア、レ、グ、ロ!!!

彼女が告げる。

予告どおりの軽快さと明朗さでメロディーが弾ける。

生徒達の中に、活き活きと楽しそうな息子バッタの笑顔を見つける。
あんなに嬉しそうに演奏会で弾く彼を見たのは、初めてかもしれない。
溢れんばかりの音の粒の輝き。
燦燦と煌く、その只中で、自信に満ち溢れ、はちきれんばかりの笑みで弾いている息子バッタ。

彼はつかんだんだ。
瞬間、悟る。

演奏することの楽しさを感じるまでに到達したんだ。

大きな波が体中に押し寄せ、
喜びが体内を駆け巡る。

ラモーのガボットが優しく流れ始める。

息子バッタの輝く笑顔は続いている。

続く、バッハの二つのバイオリンのための協奏曲。
ここで第2バイオリンとして末娘バッタのチームが加わる。
白目がちな大きな目を一層大きくして末娘バッタがリーダーを見つめている姿が印象的。
ここでも、息子バッタは晴れやかな笑顔。

なんだか泣きたくなってくる。
この日を迎えるために、彼はバイオリンを8年前に手に取ったのかとさえ
大袈裟ながら思えてしまう。

人数も増えてのビバルディ。
相変わらず、天からの啓示のように音が降り注がれる。

曲目が変わるたびに、子供達の数も増え、音の波が膨らむ。
我が子の晴れ舞台を見ようと、背伸びをする姿も増える。

アレグロで途中、一瞬の沈黙が訪れ、すぐに、それまで以上の音が流れ出す。
素晴らしい集中力。

締めくくりは、お決まりのキラキラ星。
会場は割れんばかりの喝采に揺れる。
マリが最後のスピーチをし始めると、
あちこちから、メルシーマリッ!と声が掛かる。

いくつか事務連絡をお願いしていたが、やっぱり忘れてしまっているマリに駆け寄り、
ざわつき始めた会場で大声を張り上げる。
「4つのお願いがあります!」
水を打ったように静まり返る。
一つ、今回は名札のプラスチックケースを回収してください。
二つ、パリに行く先生を乗せてくれる車を探しています。
三つ、椅子の脚に被せたペットボトルのキャップを外してください。
四つ、後片付けに、できるだけ多くの人手を必要としています。

張り裂けんばかりに叫んだ後、
仲間が肩を叩いて、称賛してくれる。
息子バッタが飛んでくる。
「ママ、あんなに大声で叫んだら、エコーで響き過ぎて、何も聞えないよ。」
にやにやしている。
素晴らしい演奏だったと褒めると、
にっこりと爽やかな笑顔が返ってくる。

それからは、また息つく暇なしの時間。

バッタの父親が迎えに来た時、
息子バッタが末娘バッタのバイオリンと私のアルトも一緒に、
車のトランクに入れてくれる。

一日の思いを語り合って共有する時間もなく、
動かないバイオリンの塊を廊下に残して去られ、
茫然自失で立ち尽くすことしか叶わず、
これまで、何度泣いたことか。

今回は何かが違った。

それでも、多くを考えることもせず、
仲間達と教室を全て元通りに戻し、
ゴミを出し、
最後の見回りをする。

反省兼打ち上げ会の日取りを皆が決める声を上の空で聞きながら、
そっと、シルバーペンギンに近寄る。

一人で帰んなきゃ。
すると、
さっきの演奏していた息子バッタの晴れやかな笑顔が甦る。
胸が温かい思いで一杯になる。
彼に、あんな笑顔をさせてくれた、この日と、マリと、仲間達に感謝の思いで泣きたくなる。

ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。







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