2013年3月31日日曜日

辛夷を思って



「ハロー。
そこにいるの?」

チャットがポップアップ。
久しぶりの南国からのメッセージ。

「ハロー。元気?」

「やあ、久しぶりだね。
元気にしているかい?仕事はどうした?
今日は暇にしているの?」

こちらが返事を返す時間もなく、矢継ぎ早に質問がくる。

暇。「free」、この言葉をこちらも使わせてもらう。
「Are u free ?」

「Yes.」

彼には、私の謂わんとすることが、果たしてどこまで分かっているのか。
もどかしい。

「ロバもいないの?」

そう問うと、笑いが返ってくる。
彼は、警備の人々や、周囲のうんざりする連中を、
親愛の情と一種の揶揄を込めてロバと呼んでいる。

「なんだって此の頃、ちっとも捕まらないんだい?」

「週末は忙しいのよ。」

そう返事をしながら、実は週末でも頻繁にメールをチェックしているし、
タイミングさえ合えば、
連絡をとれないこともないだろうと思われた。
彼こそ、忙しい身であるに違いない。

自分で自分の雇用を作ることになるかもしれない、と告げると、
いいね、俺がパートナーになるよ、
と言うので、
インタビューをさせてもらわなくっちゃ、と答える。
取り敢えずは、アシスタント、ということで。

「その必要はないだろう?
俺のことは、何でも知っているじゃないか。」

そんなことない。
「貴方のことで、全く知らない分野も、あると思うな。」
かなり含みを持たせて答える。

「じゃあ、歌でも歌わせてもらうよ。」

ほらね。
貴方だって、私のこと、知っているようで、知らないのよ、
そう思いつつ、返事を送る。

「例えば女性と一対一になった時、
どんな態度に出るのか、
テストしなくちゃ。」

「ゆっくりとお見せするよ。
楽しみにしていて。」

漸く、私の謂わんとするところが分かったらしい。

と、弾みがついたのか、、
4月の最初の週にシンガポールに講演をしに行く予定だと告げる。
君は、日本にその頃、行かないのかい、と。

4月。。。
4月4日は、どうしても抜けられない行事が入っている。

「ごめんね。4月4日は大切なカクテルの日なの。
シンガポールには行けない。」

返事がない。

頭をフル回転させる。

「名案があるわ!」

「なんだい、その名案って?」

「貴方が、フランスにくれば良いのよ。
私がチケットを買う。そして、それを送るわ。
そうすれば、貴方の上司や、国家に知られることはない。
貴方は、シンガポールに入り、最初のオープニングセレモニーだけ出て、
急いでパリ行きの飛行機に乗るの。
それから、4日後に、またシンガポールに戻り、
閉会式に出ればいいわ。」

「可愛いことを言うね。ありがとう。」

ロンドンにカンファレンスで来る予定はないの?
パリには?
シンガポールのカンファレンスは、いつも3月末?
この間は6月末じゃなかったっけ?

今度は、こちらが矢継ぎ早に尋ねる。

「絶対にいつか会いに行く、君の家のドアを叩くって言っているよね」
と返事が返ってくる。

そうして、
「また後ほど戻ってくるよ。今、大統領が基地に来ていて、会いに行かなきゃならないんだ。」

え?
大統領?

そうか。彼はやはり、私の知っているだけの彼ではない。

OK。元気で、またね。

百万乗のキスが返ってくる。

そんな遣り取りが三週間前。
明日はもう4月。
彼はシンガポールの地に行くのか。今年こそ、参加することができたのだろうか。

明朝にもSMSを送ろう。。。
冷たいながら春の空にすくっと立つ辛夷を思って。



どうぞご参照下さい(関連記事):


初恋の相手との再会
マンゴ カルナンデ
Life is busy and going on and on
ログアウト
逡巡
思わぬ展開



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2013年3月29日金曜日

応援団参上!


春は名のみの風の冷たさの中で
ひょんなことから応援団で太鼓を叩き、笛を吹くことに。

これまで指導くださった方が、
日本に帰ってしまい、
子供達13人を引き連れての応援団。

東北から学校に訪れてくれた21人のお友達に、エールを送る。

最後の練習。
一人、一人に声を掛けたい。
その子の良いところを十分に発揮出来るようにさせてあげたい。
ベストで臨んで欲しい。

同時に、
こちらも初めての舞台。
太鼓による導入があるだけに、緊張してしまう。

来賓のスピーチが始まると、
こっそりと外で応援団は配置につく。

ところが、
このスピーチが長い。
外は寒い。震えが身体中を襲う。
緊張も相まって、溜息が漏れると、
団員の一人として参加している末娘バッタから声がかかる。

漸く合図。
さあ、始めるわよ。皆、笑顔で、元気良く!

団長の二人がしっかりとリードし、
先発団員の大声が薄暗くなる空に響き渡ると、
東北のお友達はビックリして目を見開き、別の団員の明るいトーンに華やぎ、
次の団員のしっかりとした落ち着いた大声で引き締まり、
女子団員の優しい思いやりのこもった歌うような声が周りを包み、
男子団員の元気な一声で熱きエネルギーが飛び散り、
インフルエンザで寝込んで、漸く回復した男子団員が高らかに応援を叫ぶと、
呼応するように二人の小さな女子団員が飛び跳ねて、
ぱっとチューリップが咲く。
大衆から『かわいい』コールが巻き起こり、
そこに男子団員が逞しい頼もしい声で世界中の応援を告げ、全員が応援を叫ぶ。
更にひときわ大きな声で男子団員が思いを伝え、
女子団員が、これまで以上の優しさと大声で呼びかける。
団長の二人が、一緒に腹の底から湧きあがる声でエールを伝える。

一拍子、二拍子、三々七拍子、
皆、掛け声も大きく、元気に勇気を、一つ一つのきびきびとした動作で表し、
団長のふれーーーー、ふれーーーーコール。
ここで、場は最高に高まり、観衆も、一緒に手拍子をし、会場は一つになる。
皆で東北のお友達、日本にエールを送る。

最後の男子団長の締めの言葉、「これからもエールを送り続ける」、
そして、女子団長の、「ありがとうございました」、
ともに、心からの言葉として大きく皆の胸を打ち、
一緒になって呼応する団員の声も寒空に高らかに響く。

応援団退場の掛け声で、
雄叫びを上げて、活力に満ち溢れて応援団は退場。

会場は割れんばかりの拍手、
涙を拭く子、
あまりの衝撃に口をぽかんと開けている人、
良かったね、と声を掛け合う人。


力不足ながら、
この大役を引き受け、
子供達の真っ直ぐな思いを、胸にずしんと受け止めることが出来、
無事終了により、ほっとすると同時に、
温かなものが胸を静かに満たしている。



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2013年3月25日月曜日

春の日差し



未だ寝ている街を
未だ寝ている頭を抱えながら
走り抜ける。

静かに明けゆく空は
晴れ上がるのか、はっきりしない。

一仕事終えても
ぼんやりしている頭で
SMS受信を確認する。

久しぶりのランチのお誘い。

セーヌの輝きも
水仙の黄色とクリーム色の花畑も
視界の端に流れるだけ。

時間通りにオフィスの前に着き、
到着を連絡しようと携帯を手に取ると、
SMS受信。

近くのブラッスリーの名前が目に飛び込む。
現地集合とのことらしい。

慌てて車を発進させる。
待たされずに、
しかも、事前に場所指定なんて珍しい。

なんだか、
絶対会いたい、とのメッセージに思え、
一人微笑む。

春の日差しにやわらかに包まれる。



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2013年3月23日土曜日

春を先取り




早朝7時からの特別訓練を終え、
長女バッタを皮膚科に連れて行き、
さて、コーヒーでもと思う間もなく、
彼女の友人の誕生カードに使う写真印刷を頼まれ、
真っ赤なアネモネのブーケを玄関に忘れないようにと用意しておく。

時間がないと大騒ぎをしている癖に、
今朝方、心優しき友人が届けてくれていた桜餅に心奪われ、
二人で、ついつい手に取ってしまう。

ピンク色のお餅を優しく包んだ桜の葉に、
桜の蕾がしっとりと載っていて、
口に入れたとたん、懐かしい春の香りと味に
目を見開く。

満開の桜を見上げている錯覚に陥り、
爪先から頭の天辺、指先から毛先まで
春に包まれる。

春の香りに酔いしれながら、
お茶を煎れる余裕もなく
ゆっくりと最後の花びらが散ってしまうまで味わう。

我が家の庭の桜も、
蕾がようやく膨らみ始めた頃。
春を先取りする。



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2013年3月22日金曜日

ある晩の書簡のやり取り




落ち着いて、冷静になれよ。
音楽のことを考えるんだ。
シューベルトなんか、どう?
マリアジョアン ピレシュの最新版、聴いていないのか。
彼女、とっても、女性的に弾いているよ。




負のスパイラルから這い出そうともがいているのよ。
だって、聞いてよ。
父親はバッタ達を日曜のコンサートに連れて行かないというの。彼らのコンサートなのによ。
買収会社が日本向けサービスを止めることにしたのに、マネジメントは私に一言もない。
死刑執行日は毎日のように日延べされている。
何の仕事もないのに、毎日出社しなきゃならないの。
某アソシエーションと福島についての不毛なやり取りがあったわ。
応援団でややこしいことになっている。
カクテルについては、とにかく様々な意見が出過ぎてまとまらないの。
チョコレートシフォンケーキを作ろうと思ったら、もう板チョコがなかった。

ポジティブ思考、ね。

だけど、ホワイトチョコで作って、今、部屋中が甘くて美味しそうな香りで満たされてきている。
カクテルの企画メンバーは皆明るくて、大成功になること間違いなし。
応援団は立派なパフォーマンスを見せてくれると確信している。
アソシエーションについては、考えないでおく。彼らが、いかにも偽善者ぶって、福島について語るのって嫌気がするの。福島の子供達を傷つけないように、東北の子と言いましょう、なんて言うのよ。福島出身であることを誇りに思っているに違いないわよ。私のように。
会社は、遅かれ早かれ、いつかは終わりが来る。
買収会社については、考えないでおく。
バッタの父親は自分の人生に欠けているものがあるかなんて決して理解しないわ。
音楽を知らない人生なんて。

そうして、明日にも、息子バッタにはフィオッコを弾いてもらい、
末娘バッタにはバッハを、長女バッタにはヴィヴァルディを弾いてもらうことにする。

マリア ジョアン ピレシュ?
聴いたことないわ。
貴方の密かな憧れの人?
検索してみるね。

ありがとう。
なんだか、スパイラルから脱せそう。




返事を送ると、すぐに、マリアジョアン ピレシュのシューベルトのCDを購入手続きする。

それでも、何故か涙が溢れてきて、
嗚咽まであげ、止まらなくなる。

早くマリアジョアンに触れたかった。
彼女の音の世界に包まれたかった。
いや、
マリアジョアンを通して、、、、、、




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2013年3月16日土曜日

細い三日月




あれ、これ、落ちていたよ。

そう言って手渡されたコイン。
先日、末娘バッタと一緒に、必死になって探した筈のコイン。
車の中で、うっかり彼女に手渡すタイミングがずれて、
彼女の手に届く前に暗闇に落ち、
慌てて探しても見つからず、
その後、ルームライトを点けて、真剣に探しても、
手を椅子の下に何度も入れても見つからなかったコイン。

うっかり落としたコインが拾い上げられたことに安らかな思いになり、
探していたコインを見つけてくれた相手に運命的な思いを抱き、
コインにキスして、
サングラスが置いてある、いつもの場所に放り入れる。

見上げると、
群青色の寒空に細い三日月。



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2013年3月13日水曜日

雪と梅


面白いように空から灰色の羽がどんどん舞い降りる。
これぐらいで驚いちゃうなんて。
そう思いつつも、みるみる外は真っ白に。

お昼の約束に遅れないようにと、
たっぷりと時間を見て出発。
目的地には早目に着くが、
駐車場を探して、そこから歩く間にしっかりと雪の洗礼を受ける。

久々に会う友人は、激務といいながらも優雅さと相手を包み込む笑顔で迎えてくれる。
社内の一部の人間のみの利用が許されるサロンに招かれる。
数年前までは同じオフィスの同僚。
話をすると、どうやら入社の年まで一緒。
多分、あれが最初で最後となるか、偶然の重なりでファーストクラスで出張した時に、一緒であった相手が彼女。
彼女と乾杯したNuits-Saint-Georgesは、
憧れのワインとなり、それ以来、特別なことがあると、
手にしてしまうボトルとなる。

相談に親身に乗ってくれ、
アイディアも出してくれ、
激務でなかなか友人たちと会う機会さえないと嘆き、
遠い中、この雪の中、会いに来てくれてありがとう、と感謝までされてしまう。

その間も、窓の外は、静かに、しかし絶えることなく雪が舞い降りている。

以前、馬鹿な質問をして、ろくな返事ももらえずに、先ずは彼女の書いたリサーチを読んで頂戴と言われたことが何回かある。
ちょっと恐い存在だった当時が懐かしい。

いつでも連絡してね、
返事は遅くなるかもしれないけれど。
優しくウィンク。

温かな励ましの言葉と、思いもかけずの、彼女の会社の新製品のプレゼントを抱えて、
雪がしきりに舞い降りてくる別世界に出る。

無事に帰り着くかな。
いや、道路はまだシャービック状態。
これなら大丈夫。

しかし、もう春だと思って芽を出していたチューリップや水仙たちは、
雪の中に埋もれても大丈夫なのか。

雪化粧されたいつもと同じ道は、
車の数も少なく、
道路側溝に積もる雪の白さが
新雪を強調している。

と、枝に見事に雪が舞い降りて、
まるで花満開の見事さ。

いや、
あれは。。。

改めて目を凝らす。
梅の花。
白い梅の花。

雪の降り頻る中も咲き誇る梅。

鮮やかな白さで、
今も心の中で咲き続けている。。。


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2013年3月10日日曜日

崩壊寸前の城にて




バカンスだからなのか、
車の波はおだやかで、
いつもより早目に地下駐車場に車を入れる。

バカンスだからなのか、
がらんとした駐車場に、
同僚の車一つ見当たらない。

会社がなくなる時が近づいていることが
否応無く感じられる。

ちょっと前は、今の時間だったら、新聞一部見つからない。
早々と到着する同僚達がコーヒー片手に読み漁っている。
ところが、今では、新聞を配る人影さえ見あたらない。

早朝のミーティングも、
ちょっと前なら、活気溢れ、質問が飛び交い、
発表者も準備に余念がなかった。

ところが、
一人去り、二人去り、
崩壊寸前の会社に忠義を立てる必要はない、と
のんびり出社組が現れ、
今ではおざなりだけのミーティングさえ、
なくなってしまっている。

ワンフロアを使ったオフィスの中央から入ると、
フロアの半分は未だ照明さえ点いていない。

大いにはぐらかされた思いがするも、
崩壊寸前の城とは、こんなものなのだろう。

デスクのPCにログインし、三つの画面を作動させ、
持ってきたラップトップをプラグイン。

と、携帯にSMS着信のサイン。
朝7時。

久しぶりの名前が目に飛び込む。

『ハロー、どうしている?元気だよね、ベイビー、身体に気をつけて、頑張って、昨夜夢を見たよ。』

相変わらず、単語羅列式のメッセージに笑みがこぼれる。
それにしても、夢って。

即返事をする。
『私たちの?』

きっとこれでは、返事は来るまい。

そこで、暫くしてから、
元気なこと、会社の崩壊が秒読み段階であること、未だ次の職場が見つかっていないこと、を簡単に伝えるメッセージを送る。

返事が来る。
『大丈夫だよ。すぐに見つかるさ。間もなく世界で最高に素晴らしいことが僕たちに起こるよ。』

どきん、とする。
彼らしいな、と優しい気持ちで一杯になる。
彼が言うと、僕たちとは、世界中の人々全てにも思えてくる。

その後で、もう一度読み直して、
『us』ではなく、『u』であったことに気がつき、
今度は、彼の優しさが、一抹の淋しさを伴って、心に染み入る。

『間もなく世界で最高に素晴らしいことが君に起こるよ。』

ありがとう。。。




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2013年3月5日火曜日

セルビアならぬセビリアを想って





こちらはずっと雨だよ。
外套を持って来て正解。

長女バッタからSMSが届く。
息子バッタも末娘バッタも携帯を欲しがっていることは十分知っているが、
「必要ないわよ」、
の一言で済ませている。

末娘バッタは言う。
長女バッタばかりずるい、と。
ママといつだって好きなときに連絡が取れる、と。

彼女の置手紙を思い出す。
どこかに出掛ける時は、いつだって、手紙を残していく。
携帯なんか渡したら、
手紙を残すなんてことしなくなるだろうな、と思う。
当分の間は、携帯は持たせられないな、
溜息混じりに思う。

この一週間はパパとのバカンス。
さて、どこに行くって言っていたか。
ここ数日もらっている長女バッタのメッセージを幾つか見直す。

確か、スペインのアンダルシア地方ではなかったか。

Sévilleとの単語が目に入る。
フランス語表記に違いない。
セビーユ、、、セビリア、か。

ここで、途方も無く、郷愁の念に駆られる。
ただ、その切ない思いに、太陽の国スペインの地としての違和感を覚え、
改めてカタカナ表記で考えてみる。

セルビア。
そう、哀愁に帯びた響きは、バルカン半島の旧ユーゴスラビアが崩壊することで誕生した共和国の名前。いや、民族の名称であり、言語の一つでもある。

またやってしまったか。

カタカナ表記での記憶は落とし穴に陥りやすい。
いや、そんなことをするのは、私だけか。
流石に、キリル文字では覚えられないが、ラテン文字で表記すれば、
例えば英語ならSerbia、仏語ならSerbie。
これに対して、セビリアは、英語ならSeville、仏語ならSéville、そしてスペイン語ならSevilla。

そもそも「b」と「v」という決定的な違いがある。

こんな馬鹿な誤解をしたことを伝えても、
ラテン文字が記憶の半分以上をも占めるバッタ達には、
ママの苦悩はわかるまい。

それにしても、セビリアときたら、ロッシーニの理髪師ではないか。
確か、カルメンも、スペインが舞台。
オペラ鑑賞に、、、行くわけはないか。

そういえば、あちらのお菓子といったら、どんなものがあるのか。
と、そこまで思考がいって、
急に馬鹿馬鹿しくなる。

彼らだけの冒険なら、
疑似体験ではないが、一緒になって、その地で訪れたい場所、
味わいたい食べ物、
天気予報、
など、研究するところだが、
パパの家族と一緒の旅行となると、
考える気にもならない。

いや、
そんな僻み根性は情けないのか。

ふとセビリアの今週の天気予報を見てみると、
なんと、毎日、雨、雨、雨。
帰ってくる日曜まで、雨、雨、雨。

ちょっと可哀想になってくる。

長女バッタには、
「アルカサルのポストカードを買ってきてね。
セビリア名物のお菓子のお土産も忘れずに。」

そう、書き送る。

弱い日差しながら太陽の出ているパリのお天気を一緒に。






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2013年3月3日日曜日

春来にけり




雪が白く降り積もった日、
庭を見やると鮮やかな色が目に飛び込む。
小鳥達が啄むだろうと誰かが思って投げたのだろうか。
皮を剥いた半分の蜜柑。

バッタ達に聞いても、
名乗りを挙げるものはいない。

忘れた頃に目をやると、
丁度、石の上に転がっており、
まだ色は鮮やかで、鳥の喉を潤した形跡はない。

土の上ではないと、バクテリアによる分解が始まりにくいのではないか。
そんな思いを読んだように、タイミング良く長女バッタが口を出す。

「ママ、あの蜜柑、そのままにしておいてね。
今、観察中なんだから。」

近くで見ても、ちっとも乾燥した様子が無く、
ふっくらと柔らかな実は、
口に入れると甘酸っぱい汁が飛び出してきそう。

そして、今日。
外の空気は冷たく、
骨の髄まで凍り付いてしまいそうな日。

それでも、空に遮るものは無く、太陽のみが輝いている。

庭に駆け出すと、
蜜柑の形跡がなくなっている。

そして、
そこには、真っ白な花。

見上げると、
庭は一面に花の絨毯。

春来にけり。。。




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2013年3月2日土曜日

笑顔にほころぶ





寒いと思っていたら、
霙が降り出してきていた。

ワイパーでシャーベットの塊を撥ね飛ばしつつ、
傘は持っているのだろうか、と、ふと思う。
最近、騙し騙し運転していた車を遂に廃車にしたと聞いていた。

運転しながらの携帯利用は罰金と2ポイント。

それでも、
迎えに行こうか、どうしている?
とSMSを書き送る。

取引先に出向いているのか、
或いは、オフィスにいるのか、
仕事がもう終わりそうなのか、
ちっとも分からない。

それでも、
風のある冷たい霙の中を歩く姿が思い浮かぶ。

こんなに早い時間なら、
きっと仕事は終わっておらず、
返事も来ないだろうと思っていたら、
案の定、我が家に帰って夕食の準備をしているキッチンで、
返事が来る。

予想通りの返事。
でも、いつもより、ちょっと優しさが感じられるトーンで。
「ありがとう、大丈夫だよ。」と。

そんなことが、確か数日前。
それから、お昼を誘っても、
ドタキャンされたり、
都合がつかなかったりと、
なかなか会う機会なかったが、
「今、近くに来ているよ。」
と連絡が入る。

慌てて近くの待ち合わせ場所に行って、
「ここにいるよ。」
と連絡。

「なんだ、もう会社を出たの。知らなかったよ。」
と返事が来る。

なんだ。
急いで仕事を終えて出てきたのに、
ちょっとはぐらかされた気分。

なんとなく、疲れが襲う。
聞いて欲しいこと、
話したいこと、
沢山あったはずなのに、
急に萎んでしまう。

暫くして、
にこにこと、嬉しそうにやってくる姿。
いつもなら、
その笑顔に、こちらも反応し、
いや、こちらも最初から笑顔で迎えるのに、
その時は、寒さと疲れが勝ってしまった。

すると、笑顔を引っ込めた相手は
「どう?なんだか、大変そうだね。」
と話しかける。

優しい笑顔に包まれたかったのに、
冷たくなった顔はほころばなかった。
おざなりな話をし始めるが、
それでも、やっぱり、聞いて欲しい話となり、
気がつくと、夢中になって話をしている。

暫くして、
「この間はありがとう。あの日、本当は助けて欲しかったよ。実は30分もバスを待ったなきゃならなかったんだよ。」
すぐには分からなかった。
漸く、あの霙の降った日だと気がつく。
「えっ?電話してくれれば良かったのに。」
でも、もう遅い時間だったんだよ、と。

ゆるやかに時が流れる。

今、どうしても聞いてもらいたかった話を終え、
多くのアドバイスをもらうと、
こうして、大変な時に、応援してもらえて嬉しいこと、
今日は、時間を作ってくれてありがとう、と伝える。

あてにしてくれよ。
いつだって、応援しているんだから。

笑顔が返ってくる。
今度は、温かくなった頬が笑顔にほころぶ。





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