2012年6月29日金曜日

偶然の必然



末娘バッタの話を聞きながら、
スーパーの駐車場の階段を昇りつつ、ふと、
そう、ふと、ポケットの携帯の画面を見る。

これは本当に癖になってしまっていて、
ネットワークがない地下や、
震動が感じにくい運転の後など、
ついつい、着信がないか確認してしまう。

と、どうやら、思わぬ誤作動により、
よりによって、名簿の一番、アントワーヌを呼び出してしまっているらしいことに気がつく。
アントワーヌは、我々、七人のサムライの長。

すぐに切る。

が、発信記録には残ってしまう。
つまり、相手の着信記録には、残ることとになろう。
相手の番号が分かることは便利ながら、こんな時は、色々厄介だな、と、
何も分からなかった昔を偲ぶ。

その間も、末娘バッタのおしゃべりは止まず、
いつの間にか、そんなことも忘れてしまう。

そうして、夜もベッドに入り込み、
さて、そろそろ今宵にも別れを告げようか、と思う頃、携帯が震える。

ちょっと訝しげにクリックすると、
アントワーヌ。

土曜までヘルシンキ。急用の時はメールを。

おお!
彼は、こんなSMSの効果を、一体、どれだけ知っているのだろうか。
数学博士。
エンジニア。

マルセイユの彼の血がそう書かせるのであろう、「kisses」のサインオフ。

それにしても、どうしていつも英語なのだろう。
いや、
これ以上深入りはすまい。

簡単に、間違ってさっきはコールしてしまったこと。急用はないこと。そして、ムーミンの世界を満喫し、時間があれば、と、前回訪れた素朴ながらもロマンチックなレストランの名前を記す。

そして、こちとらも、オジーのカントリーキッドだい、いや、クッカバラだい、と、「kisses」でサインオフ。
いや、オジーならば、さしずめ「lots of love」、か。

それから暫くしても、
携帯はひっそり閑としている。。。

心の湖がざわざわしないうちに、寝てしまうことにする。

仕事熱心なアントワーヌ、おやすみ。



関連記事: 意外性は新たな始まり
七人のサムライ達~傾向と対策~


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2012年6月22日金曜日

大輪の向日葵


会いたい。
そう思ったら、どうしても会いたくなってしまう。
今週も忙しいと聞いていた。
それでも、金曜のお昼の誘いをしてみる。

誘いを待つ、
それが人間関係を長続きさせる基本なのか、知らないが、
「待つ」ことよりも、
会いたい気持ちが膨らんでしまう。

忙しいときに誘っても、
煩がれ、煙たがれ、むしろ逆効果であることは経験上知っている。

それでも、
と思う。

夕方になっても、まだ真昼のような輝きの中にある真紅の薔薇を見つめ、
丈の高くなった雑草に足を踏み入れたりなどすると、
会いたい思いは弾みがついてしまい、
もう私の手には負えない。

携帯は真夏のゼラニウムの赤の様にひっそりとしており、
微動だにしない。

こんな時、
相手を喜ばせる言葉を書くなんてしないことは分かっているが、
少しぐらい、反応してくれてもよかろうのに、と思ってしまう。

そうして、
頭を切り替え、別の世界に没頭し、会話をし、
着信メッセージがあることさえにも気がつかずに過ごしてしまう。

慌ててみてみると、
果たして、非常に機械的な文字の連なり。

朝から期末の社内会議があるが、13時ならなんとかなるかもしれない。

メッセージはシンプル。
分かりやすいこと、この上ない。
でも、思いが湧き上がってこない。立ち込めてこない。
一体、相手は、会いたいのか、会いたくないのか。
「そうだね、久しぶりにランチできると嬉しいな」
なんて、書けないものか。

「無理そうね。仕事頑張ってね」
とでも書き送ろうか、と思ってしまう。

まあ、まあ。

そうして、太陽が頭上の真上にくるころ、
携帯が震える。新緑の葉裏が風でまぶしくきらめくように。

「今、終わったよ。いつでもOK

車のキーを手に、
階段を駆け下りる。

結局は待たされて、
13時のちょっと手前。

どうする?
クスクス?カレー?

そこの中華にしようよ。
早いし。

ふうん、急いでいるんだ。クスクス、そんなに遅くないよ。
クスクスにしちゃおうかな。

漸く笑顔がのぞく。

大輪の向日葵。。。


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2012年6月21日木曜日

予期せぬ誘い


お昼の時間を待ったかのように、携帯が震える。
ランチの誘い。
と、同時に、PCの画面にメールメッセージが入る。
同僚からのランチの誘い。

迷わずに携帯を手に、SMSでの返事を続ける。

待ち合わせはメトロで一駅先のところ。
この分なら、歩いて行こう。

このところ、夜中から明け方にかけての集中豪雨が続く。
暗闇に一閃。稲妻と雷鳴の轟き。天窓を叩く雨粒、いや、雹だろうか。
眠りの淵で、ぼんやりと思う。
ミラベルやクエッチの小さな青い実は、振り落とされてしまっただろうか。
そんな日は、流れる雲の中に朝の輝きを感じ取りつつ、外に出ると、
土の香り、濃い緑の香りに混じり、薔薇や卯の花が薫たち、一瞬眩暈さえ覚えるほど。

太陽を真上に仰ぎ、川面をきらめかせたセーヌ河は、毎夜の雨によってか、たっぷりとしており、
カヌーがすーっと槍のように走っていく。

数年前の夏、カヤックに挑戦し、
ちっとも上手く前に進まずに、いらいらし、
余計バランスが崩れて、もう少しで転覆しかけたことを思い出す。

冷静沈着でないと、楽しめないスポーツ。
リラックスしたバカンスならではのスポーツであろう。

19の夏に、自動車運転免許を取ろうと、教習所に通い、
最初の運転者性格適任テストで、満点を獲得したことを思い出す。
あれ程分かりやすいテストはなかったな、と。
設問者の意図がバレバレ、
何が正解か、が明白。
だから、決して私の性格が運転に向いているのではなく、
どんな性格が安全運転に向いているのか、を把握していたというだけのこと。

冷静沈着、など、
どう逆立ちしても、私の性格ではないであろう。

そんなことに思いを馳せ、
新調したストッキングの伸びを楽しみつつ、
シンプルながらも足元をすっきりと見せるヒールを履いてきて良かったな、とにんまりする。
ジャケットの中には、
明るい細縞のプレーンなシャツ。

早々とランチを楽しむ人々で賑わう通りを歩きながら、
携帯が振るえ、
どうしたものかと受けてみれば、
学校関係の連絡。

と、向こうから、
しっかりと目的を持った者のみが持つ軽やかな足取りで、
近づいてくる相手に気づく。

さっと目が合うと、
ぱっと笑顔がほころぶ。

さあ、お昼にしよう。
ママがご馳走するわよ。

パリのパパの家から通って一週間の企業研修をしている長女バッタ。
まぶしく思われるのは、昼間の太陽の光を浴びているからだけではあるまい。
頬を寄せ、ビズをする。


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2012年6月18日月曜日

羽のように軽いバナナシフォンケーキ



卵の殻を手際よくボールの端で割り、
割った殻を使って、それぞれのボールに白身と黄身を分け、
殻を捨てて、また別の卵を手にする。

そんな作業を、夕方の疲れはどこにいったかと思うほどの軽快さでこなす。

明日の学校の準備をしていた末娘バッタが真っ青な顔をして飛んできたのは、
夕食が終わって、後片付けをしていた時。

明日、学校にケーキを持っていくことになっているという。
夏休み前の恒例のお楽しみ会だろうか。

よく聞くと、クラスで好きな課題をテーマとした班を作って活動しているらしい。
彼女は、学級図書の整理班。
学校の図書管理をお手伝いしてくださる保護者の方にもお礼の手紙を書くことになっているらしい。
他にも、宿題班、何もしない班などあって、
明日は、イベント班による漢字マラソン達成を祝っての会。
先週、クラスで誰がケーキを持ってくるか、となり、皆がシーンとした中で、
誰に似たやら、末娘バッタが手を挙げたらしい。

なんだか、にやにやしてくる。

これまで、年度末はどれだけ泣かされたか。
バッタ達がそれぞれに、お楽しみ会、学年末さよなら会があり、
一晩で3つもケーキを焼いたことも少なくない。
週に合計6つ焼いた年もあった。
これに、手まり寿司、ちらし寿司などが加わる。

最近になって、
どうやらバッタ達が自分からケーキ担当を買って出ていたことが発覚。
こちらは、こちらで、毎回ケーキの担当と言われ、
何も考えずに、黙々と焼いていたものだから、ちょっと笑ってしまった。

ただ、それも長女バッタが自分で焼き始め、
息子バッタが、クラスの女子生徒たちが手作りを持ってき始めると
リクエストは少なくなってきた。
しかも、末娘バッタの分も、
長女バッタが楽しんで担当してくれるようになってからは、
夜中にオーブンを使うこともなくなってきていた。

普通なら、
どうして日曜の夜に言い出すのか、と呆れ、嘆くところなのに、
簡単なガトーショコラにしようと思っても、
肝心の板チョコが半分しか残っていないと気づいても、
ちっとも気にならない。

久々のちょっとしたチャレンジに
嬉々となっている自分に気がつく。

サッカーの試合が終わって、
テレビを消してキッチンに入ってきた息子バッタが、
チョコを探して棚中を覗き込む私を見て、
「ママ、バナナがあるじゃない。」
と言ってくる。

そうか、ガトーショコラじゃなくてもいいわけだよね。

バナナシフォンケーキ。

卵を7つも使うが、幸い冷蔵庫にはそれ以上の卵が眠っている。
バナナも、確かに熟れて甘い香りを放つものが数本転がっている。

悪くない。

そうして、卵を割る手付きも軽やかに、
鼻歌さえ出そうな陽気さで
卵白を攪拌する。

ボールを逆さにしても落ちてこないほど、固くしっかりとメレンゲが出来上がると、
今度は黄身をぽってりと白くなるまで攪拌。

そうした中で
さっき目にしたメールを
もう何十回目になるだろうか、
頭の中で反芻していた。

土曜の朝に、
金曜の事件についての言及もなく、
全く別の件について議論し合う二人の仲間のメールを読み、
完全に堪忍袋の緒が切れてしまい、
そのうちの一人に、
裏切られた哀しい気持ちを伝えるメールを書き送ってしまう。

二人の仲間に対する嫉妬?
そんな思いが頭を過ぎらずもなかったが、
報告、連絡、相談というホウレン草の大切さを説いていた仲間の一人への信頼感が
いっぺんに崩れ去る悲しさの方が強かった。

期待はしない、
そう人生でことあるごとに学んできたではないか。
そう自分に言い聞かせてみるも
脱力感に襲われた。

そうして、
余りに余裕を持って見られていないのであろう自分を反省し、
そう躍起にならずに、
この週末はメールも見ないで、
頭を冷やそうと思っていた。

いや、実の所、
私のメールへの返事がない可能性を思っての、防御。

うるさい私を煙たく思っているのだろうと想像してもいた。

そうして、
土曜、日曜、と
いろいろと相変わらず忙しくしていたこともあり、
メールを一度も確認せずに、
かなり一方的で、冷たいメールを送ったきりとなっていた。

それが先ほど、どうしても別件の確認事項が出てきて、アクセス。

すると、
土曜の朝に私が送ってから、すぐに、返事が入っていた。
拍子抜けするほどの明るさで。

私の冷たい、突き放すメールに対して、
優しく包むような温かさを持っての返事。

やあ、
一体どうしたっていうんだい?何のこと?

そうか、金曜の事件と思っていたことは、
実は私の思い込みに過ぎなかったのか。
そんな大変なことがあれば、
仲間として、連絡があったか。

そうか。。。
なんと、
またやってしまったか。

ちょっと不思議な感じがするが、
なんだか、実際のところ、どうでも良い感じがしてきた。

重要なことは、
相手がちっとも私のメールに不快感なんて持たずに、
いや、少なくとも持っていないと思わせるに十分な思いやりで、
とげとげしていた私の心を
まろやかにしてくれたこと。

そう、
失うには、余りに大切で
貴重な存在になっていることを
自分自身で戸惑いながらも確認し、
そうして、
これからも、お互いに信頼関係を持って
尊敬し合って一緒に活動していけることが、
こうして新たに確認でき、
心は安堵し
感謝の気持ちで満たされていく。

そうして
羽のように軽く、
バナナの控え目な甘さが
口いっぱいに広がって幸せ感に満たされるバナナシフォンケーキが焼きあがる。

末娘バッタよ。
お友達と楽しんでね。
今回のケーキには、新たな材料が一つ加わっているよ。


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2012年6月14日木曜日

長女バッタによるリラックス法


ママ、息を深く吸い込んで。
ほら、ここに、そう、ちょうど胸の真ん中あたりに、ぽっかりと場所を作ってあげるように。
ね。そうすると、リラックするよ。

長女バッタの目をまじまじと見つめる。

かなり人間関係的にややこしい夜の会議に出かけようとしていた時のこと。

まだまだ子供だと思っていて、
どんなに年を重ねても、どんなことがあっても、
私の子供には変わらない長女バッタから、
リラックスをする方法を教えてもらう日が来るとは思いもしなかった。
いや、そんな日が、こう早くくるとは思いもよらなかった。

いらいらしているように見えたのか。
或いは、緊張が伝わったのか。

それより、いつ、誰に、この方法を教えてもらったのだろう。

彼女がしてみせてくれたように、
ゆっくりと深呼吸をして、
胸の間に、ぽっかりと空間を作る。
余裕、という空間を。

そうして、その晩は出掛けていった。

先週の金曜も、
陸上仲間に、そのリラックス法を披露していたから、
彼女達から仕入れたものではなさそう。

私の知らない世界で、大人になっていく長女バッタ。

先週末に、あんなことがあり、
様々な思いに耽りながら、雨戸を閉めようとバッタ達の乱雑な部屋に入ると、
いかにも、読んで頂戴、と自己主張している格好のノートが床に転がっている。

最近、末娘バッタと長女バッタが交換日記をしていると、
息子バッタが言っていたが、このことか。

開いてあったページには、一面に何かの木の枝のデッサンがされてあり、その隙間にびっちりと文字が埋まっている。
この枝は何でしょう、で始まり、続く文字を読み、驚きで目が飛び出る。
なんと、「ストレスを感じる」といったフランス語の文章が、何度も、何度も書き連ねられている。多分、日本語で書くとしたら、「ああ、いらいら。いらいら。」となるか。

土曜の英語のテストのこと?
それとも、バイオリンの教本5冊目終了試験のこと?
或いは、中学卒業資格試験のこと?
はたまた、初めての一週間の企業研修のこと?

確かに、彼女の生活は、充実している、といえば充実しているが、
忙しない、といえば忙しなく、
そして、
緊張を強いられ、成果を求められる生活、かもしれない。

そうか。

長女バッタが教えてくれたように、
深呼吸をしてみる。
胸の真ん中に、ぽっかりと空間を作ってあげる。

ちょっと、気持ちに余裕が生まれたかな。

今夜にも、長女バッタに伝えよう。
このリラックスの方法、悪くないね、と。


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2012年6月11日月曜日

マリアナ海溝に邂逅



。。。。。。
なんだって、まだ自分の人生を彼に左右させられているんだい。

去年、バッタの父親の件で落ち込んでいた私に、オーストラリアの父、ジョンが掛けた言葉。まったく、彼らしい、憎らしいけど真実を突いた言葉。

今でも懐かしく思い出す夜の静かな郵便局。
田舎の郵便サービスはあてにならない、と、私書箱を使っているので、日中の配達物はゼロ。市内の郵便局の私書箱まで、確認をしに行かねばならない。
木曜の買い物デーの日は、母のグローリアと郵便局に。
そして、長いバカンスから帰ってきた日には、便りが心待ち遠しい私の気持ちを思いやってか、父のジョンが遠回りをして、郵便局に寄ってくれた。
そして、毎回、そう、決まって毎回、何の手紙もない時は、
Nobody loves you .
と歌うように、言うのであった。

これには堪えた。
冗談だと分かっていても、からかいの言葉だと分かっていても、堪えた。
そう、真実が隠されているから。

ジョンの一言は、今度も堪えていて、時々、私の心を哀しくさせた。

言い訳なら、沢山浮かんできた。
私だって好きで彼のことで悩んでいるわけではない。無関心でいたい。
子供がいるから、子供のことで、彼が連絡するから、、、。

無関心。
何を言われても、受け入れ、スルーすること。
できるだけ、心がけてきた。
感情的にならずに、淡々と対応。

そうして、今度も、息子バッタのむせび泣く肩を抱きしめながら、
ジョンの言葉が頭を巡っていた。

いったい、なんだって、まだ彼にこれほども翻弄されるのか。

長女バッタが朝8時半から英語の試験に行っていた土曜日。
翌日の日曜の早朝から一週間の林間学校にでかける息子バッタは私と残る予定になっており、長女バッタと末娘バッタが久々にパリのパパの家に行くことになっていた。

試験は口頭試問が長引いており、どうやら6時半を過ぎるとの長女バッタの情報を彼に伝えるが、久しぶりだから、と、自分の息子と一緒に5時半には我が家に来ていた。

その間、慌てて息子バッタの準備の為に、サロンで洗濯物の山と格闘していたが、その様子を見せたくなかったのか、末娘バッタがサロンの扉を学校鞄で開けられなくしており、
パパから不快な小言を受けていた。

末娘にしたら、パパはもう我が家の人間ではないのだから、
プライベートな域に土足で入って欲しくないのだろう。
必死に、彼の息子とも外で相手をし、家に入れない工夫をしている様子が、胸に痛かった。

そうして、7時ごろ、長女バッタが疲労困憊の面持ちで帰宅。
お茶ぐらい、と思うが、1時間以上も待ちぼうけをした父親は、不満げ。

iPhoneを壊したこと、フランスの身分証明書をなくしたこと、
あらゆることに小言が始まる。

ちょっと待ってよ、ここは、バッタ達と私の家なのよ。

そんな思いが募る。
長女バッタを庇う言葉しかみつからない。

果ては、彼女の参考書をつまみあげ、
購入してから、手もつけていない、と声を荒げる。

ねえ、そんな言いよう、ないんじゃない?
彼女がヤル気になるような、もっと言い方あるじゃない。

と、やわらかく言う。
いや、言ったつもり。

それが、逆鱗に触れたのだろう。
「一体、どうして君はそうやって私の意見に反するんだ。事実は事実じゃないか。彼女は勉強をしていない。」
怒鳴る。

堪忍袋の緒が切れる。
そんなに怒鳴るなら、出て行ってくれ、と叫ぶ。
私の家で、バッタ達と私の家で、不満を言い募ることはやめて欲しい。

「それ以上、言うなら、医者を呼ぶぞ。君は気が狂っている。」

いや、もう、ここでは、これ以上は書くまい。

彼は泣き叫ぶ長女バッタ、末娘バッタを引き連れ、
もちろん、自分の息子も連れ、
車を急発進させ出て行く。
その車体に、素足で蹴りを入れてしまう。
入れてから、そちら側に、彼の幼い息子が乗っていたと思いあたり、
後悔の思いが沸く。

家に戻れば、
息子バッタが嗚咽しむせび泣いている。
震える肩を抱けば、「恐かった。」と。

私よりも背が高くなった息子バッタを強く抱きしめながら、「ごめんね」しか浮かんでこなかった。

その日は、それから18歳の誕生日を迎えたバイオリン仲間のお祝い会があって、バイオリンを携えて行くことになっていた。

なんとか支度をし、出掛ける。

帰ってきてからも、パリに行った長女バッタからは携帯に何の連絡もない。

父親への怒りで、彼女に対しても辛い言い方をしたことを後悔していた。
そこまで、父親が心配しているのだから、ママの監督不行き届きを責められるのだから、父親のところに行きなさい、と。

問題は、最終学期の彼女の数学の成績にあった。良くない点を隠していたらしく、成績表はそこだけ落ち込んでいた。
成績を毎回確認してこなかった親が悪い、と彼は言う。
このことで、一度電話でやりとりをしている。

勉強をするのは本人なのだから、本人と話をしてくれといっても、彼は聞く耳を持たなかった。
そして、彼と私、それに長女バッタの三人で話し合いをすべきだ、と主張する。
待ってくれ。
なんだって、ここで二人仲良く、子供に説経とのスタイルになるのか。
一体、何を考えているのか。

彼女とは別途、数学のことでは、話し合っている。
それでいいと思っている。

不満なのは父親。

あの時も私は言っていた。
勉強をしないで、悪い成績なら、パリに行って、と。
長女バッタは泣いて主張した。
「どうして、私の数学の成績が悪いと、パリに行きなさいと言うの?関係ないじゃない。」
あの時も私は説明した。
パパから、ママが悪いと言われることが耐えられないの。

滅茶苦茶な話。

長女バッタは、どう受け止めているだろう。
末娘バッタは小さな心を震わせて、息子バッタのように泣いているんじゃなかろうか。

気になるのか、息子バッタが、長女バッタに電話しよう、と言い出す。
よし、と電話をかけるが、電源が切れていることを告げる機械音が響くだけ。

翌日、
ひょっとしたら帰ってこないのでは、と不安に思いながら靴下の山と格闘していると、
バッタ達が帰ってくる。

「ごめんね。」

腕に飛び込んでくる末娘バッタを抱きしめる。
「パパがいけないんだよ。試験で一日中大変だったのに、怒ってばかりいっているから。」
そう言って、きつく、きつく抱きしめ返す。

長女バッタとはハグするタイミングを失う。

宿題をしなきゃ、と、
ノートを持ってきて、それでもキッチンでお店を広げだすので、
話を聞きつつ、アドバイス。

何かのきっかけで前日の話になる。

ごめんね。時々しかいないパパから、あなた達のことを悪く言われると、庇いたくなって、そしてあんな風に言っちゃって。

「ねえ、ママ。あの時のママ、自分で、どうだったか覚えている?」

え?もちろん、覚えているけど。

「すっごく恐かったよ。あんなに怖いママ、初めて見た。」

え?

「パパはさぁ。パパは、いつも私たちと一緒じゃないから、子供達に影響が一番強いママにお願いしているんだよ。だから、私たちのこともママに言うんだよ。」

え?あなた達のことを庇うことなんて必要なかったのね。

「違う、違う。」

後の会話は覚えていない。

自分が当たり前のように正しいと思っていただけに、
長女バッタの一言は胸を突く。

パパが文句を言ったり、機嫌が悪いのは、日常茶飯時。
そう言う長女バッタ。

マリアナ海溝からの浮上は、
どうやら暫くはできそうにない。

私は気が狂っていて、医者が必要なのか。。。


 

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