2012年3月28日水曜日

春の口づけ



書類を見続け充血した眼には
ビロードのチューリップの花弁を

いつだって寄せられる眉間には
小さな星の様なヒヤシンスの花を

すっと通った鼻筋には
水仙の花を

ゆたかな耳には
天に伸びる木蓮の花を

そうして、

一文字に結ばれた口元に
そっと、
そう、
そっと
春の口づけを。。。



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2012年3月26日月曜日

モノトーンの世界が一瞬にして春に



本気になって心配し、
ありとあらゆる方法を使って解決しようと努力し、
それでも、笛吹けど踊らず、ではないが、
仲間がついてこない焦りに週末は苦しむ。

それでも、夜中まで仲間を鼓舞し、連絡しあい、
されど、鍵を握る七人のサムライの長からは音沙汰一つない。

やるせない思いをし、
仕方ない、約束の期限通りにことが進まないこともある、
所詮、素人集団の悲しさよ、と、
眠れぬ夜を過ごした翌朝。

サムライの長からメールが入る。

「パニックの必要なし」
そして、
延々と論理建てた遅延の背景を説明され、
時間をじっくり掛けることも時には重要であると諭され、
挙句の果てには、
勝手に動き回るな、と戒めの言葉で締めくくられている。

そこまで言われた日には、火山が噴火。

「約束を守らないなぞ、サムライとして有るまじき行為。
サムライなぞではない。」

7人全員に送りつけてやる。

憤懣やるかたない。
一体、何様だと思っているのか。
こちらは、先方から土日にかけ自宅にまで電話をもらっている。
その度に、申し訳ないです、今、取り掛かっています、と返事をしている。
別に、こそこそと先方に勝手に連絡したわけではない。
それなのに、週末に勝手に連絡するな?
連絡するにしても、「長」がすべきである?
だから、毎回連絡があるたびに電話を入れたのだろうが。

余りに怒り心頭に達し、
何度も意味が分からない、釈然としない、と
ガンガンとメールを書いてしまう。

そうして、
ふと、頭を持ち上げる。

ちょっと、席を立って、歩いてみる。

一体、何をそんなに怒っているのか。
こんなことで仲違いしても仕方がないであろう。
彼の話も一理ある。
先方から連絡を受けた時点で、「長」に直接連絡して欲しいと告げれば良かったのか。

そうして、
「悪かった、
先方から先週の水曜から毎日電話攻勢に合い、対応に困り果てていた、
一言も優しい言葉もなく、割に合わないと思ってしまっただけ。
感情的になって申し訳ない。」
そう、メールを書き送る。

暫くたって、返事が来る。

「週末は忙しく、確かに、現状報告ができていなくて悪かった。
先方から君に電話が数度あったことは見落としていた。すまない。
君をなじるように言ってしまったね。悪かった。」

そうして、kissでサインオフ。

モノトーンの世界が一瞬にして春になる。
 


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2012年3月25日日曜日

一人遊び~ソリチュード(孤独)




今にして思えば、
あんなこと聞かなければ良かったのだと思う。
知らなくて良いこと、知っても、どうしようもないこと、というものは、
この世の中、実は少なくない。

次の土曜の夜は、末娘バッタのダンスの発表会の日。
パパとの週末となるが、どう時間調整するかと末娘バッタがパパに電話。
留守電だったので、その後、長女バッタの携帯にパパから電話が入る。

長女バッタが、自分も発表会は見たいと声高に主張しているところを見ると、
どうやら末娘だけ、その週末はここに残ることをパパが提案したらしい。

長女バッタのダンスの発表会は、
嫌がる私などお構いもせず、毎年パリからやってきては、家族の一員のようにバッタ達の隣に座っていたのに。

今年は長女バッタがダンスを止めているので、彼女は発表会には出ない。
なんて分かりやすい人なのだろう。

まあ、それはそれで仕方がない。
そうして、イレギュラーながら、今週末にバッタ達が連続でパパのところに行くことになる。土曜日は、彼の誕生日でもあり、アイディア的には悪くはなかった。

ところが、
土曜の夕方まで末娘バッタはダンスの発表会の予行練習となってしまう。

土曜日は、彼の誕生日。

翌日の日曜は、試験を控えている長女バッタを朝一に迎えに行くことになっていたので、
連日パリに行くことになるが、仕方がない。ダンスの練習が終わった土曜の夕方、末娘バッタをパリに連れて行こうと思っていた。

ところが、彼の反応は全く違ったもの。
それでは大変だろうから、翌日の朝、私が長女バッタを迎えに行った時、末娘バッタを連れてくればいい、とのこと。
誕生日のお祝いを一緒にしなくて良いのだろうか。

なんだか、そう言われると、ちょっと切なく思ってしまう。
末娘バッタは、パパのところで楽しんでいるのだろうか。
十分愛されているのだろうか。

馬鹿なことに、息子バッタに、ふっと振ってみる。
末娘バッタは、パリでいつも何している?

意外な答えが返ってきた。

「いつも一人だよ。一人で、ソリチュード(孤独)ってトランプの遊びをしているよ。」

え?
えっ?

長女バッタは何しているのか?
「かわいそうなぐらい、いつも宿題や勉強をさせられているよ。」

で、お前さんは?
「うん、まあ。遊んでいる。」

気まぐれな子供の言う言葉。
あまり真剣に受け止めないことにしている。
事実には違いあるまいが、事実の一部しか反映していない一言に、
どれだけ振り回されたか。

そうして、土曜の夕方ダンスに末娘バッタを迎えに行ってから、次の日の朝まで一緒に過ごし、車でパパのところに送っていく。帰りの助手席には長女バッタ。

掃除や洗濯をし、長女バッタの勉強をちょっと見てやり、と一日はあっと言う間に経ち、
気がつくと、末娘バッタが泣きそうな顔をして腕に飛び込んでくる。
疲れた顔をして、息子バッタが続く。
「パパは?」
長女バッタが訝しげに聞く。
末娘バッタがトイレに行っていなくなると、息子バッタが報告を始める。
どうやら、末娘バッタは午後一杯、一言もパパと口を利かなかったらしい。
それに腹を立てたパパは、バッタ達を家の前で降ろし、勢い良く帰って行ってしまったという。

心がとんがっているのか、
些細なことで、長女バッタといがみ合いを始める末娘バッタ。

声を掛けて抱きしめてあげると、泣き始める。

どうしたの?嫌なことがあったの?
首を横に振る。
そうして、声を絞り出して、「ママといたかったの。」と言う。

背中をさすりながら諭す。
ゆっくりと、
ゆっくりと。

分かっているよ。ママも同じよ。ママもみんなと一緒にいたい。
でもね、ママと一緒じゃないからって、つまらない顔をしていれば、他のみんなもつまらない思いになるでしょ。

人間はね、鏡なのよ。
つまらない顔をした人の周りには、つまらない人が集まって、
意地悪な顔をした人の周りには、意地悪な顔をした人が集まるの。
うれしそうな、楽しい顔をした人の周りには、うれしそうな、楽しい顔をした人が集まって、みんな楽しく過ごすのよ。

そう言いながらも、鼻の奥がツーンとする。

せっかくの春の晴れた日曜日。
あなたの自慢の鼻で、せいいっぱい美味しい香りを吸い込んで、
大いに楽しんで欲しかったな。

ママはね、
あなたが楽しんでいるってことが、一番嬉しいのよ。
さあ、一緒に、外に出て、春の香りを吸い込もう。

チューリップの蕾が赤みを射し始めている。




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2012年3月20日火曜日

早起き鳥の囀りを聞きながら帰宅の巻



友人に言わせると不思議な国のアリスの如く、
兎を追いかけて穴に入ってしまい時間を失った感覚。

でも、アリスは目を覚ませば、
時間を取り戻せている。

じゃ、ひょっとしたら、
貴女のそのでっぷりと膨らんだ肩掛け鞄に
失った2時間が転がっているかもしれないわよ。
探してみてよ。

そんな冗談を言われるほど、
時間に追いかけられる生活が続いている。

それでも、貴重な友人たちからの飲み会のお誘いには、
二つ返事で応じ、
シャンペン、自家製の庭のミラベル酒を持って行くことにしていた。

ところが、
土曜の夜、片足の筈が今では首までどっぷり浸かっている某委員会が急遽、しかも、我が家で召集されることに。

金曜の夜、
お仲間のうちの一人にSMS
急遽委員会となり、すぐには行けないこと。
終わったらすぐに駆けつける旨メッセージ。

通常、この手の委員会は夜中までかかると分かってはいたが、
委員会で大変な私を労おうとしてくれていると知っていただけに、
ドタキャンはできなかった。

その日は夕方から1時間半、
えも言えぬ緊張感を強いられる面談があり、
色々あって、
9時に夕食を終えると、最早使い物にならず、
早々に寝ることにしていた。

寝ていると携帯の震える音が。
見ると、友人からの返事。
「明日じゃなくって、今日よ。何しているのよ。」

え?
跳ね起きる。
慌てて電話を掛けると、皆で待っているとのこと。
もうパジャマで寝ていたと言うと、
じゃあ、その格好で出てきてよ、と。

会場は同じ通りの5軒先のお隣さん。

一人、キッチンで友達の誕生ケーキを焼いていた長女バッタが、
むっくりと起きてきた私にびっくりする。
「ママ、疲れて寝ていたんでしょ。どうしても行かなきゃいけないの?」

まさか、飲み会とも言えず、
もごもごと、ミラベル酒だけ用意し、
とにかく、これを届けに行って来るからと家を出る。

そうして、
4人の女性が集まり、姦しいこと、この上ない。

シャンペン、
フランスとイタリアの赤ワイン、
ミラベル酒。

イカとマッシュルームの煮込み
キャベツとささみのヨーグルト和え
冷奴
枝豆
トナカイのソーセージ(唯一の私の差し入れ)
ワサビ味のマカデミアナッツ

素敵なキッチンに移り
立ち話をしつつ、
ふと壁時計に目をやると5時。

えっ?
まさか。
えっ?5時?

慌てて、皆でお暇する。

外は既に白々としており
早起き鳥たちが賑やかに囀っている。

10時から朝5時まで、
ぶっ通しのお喋り。

一体これほど何を話したのか、
大笑いをして、大はしゃぎをして、
そして、、、美味しく食べて、飲んで。

学生時代にも、ここまではしなかったかな。
ま、いっか。
自分に呆れつつも、爽快感に満たされる。
友よ、ありがとう。




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2012年3月19日月曜日

3回衣替えしたソファーセット



久しぶりにミシンを踏む。
末娘バッタの学校の今年のカーニバルのテーマは「フランス」。
子供達は、テーマに沿って好き勝手に仮装し、お祭り騒ぎとなる。

ジャンヌダルクとなるには、鎧が必要、
サッカーの選手にはなりたくない、
マリーアントワネットもちょっと違う。

悩みに悩んだ末、
末娘バッタが選んだフランスの象徴とは。。。
ちょっとこちらも、吹っ飛ぶキャラ。

そのテーマは何れご紹介。

「ママ。衣装、よろしくね。」
と可愛らしく頼まれ、
このところ、全く忙しくて何もしてあげられないこともあり、
お、おお、いいとも、
と答えてしまっていた。

青と白のシーツを縫い合わせれば、何とかなると思い、
ミシンを出しながら、
母を思う。

サロンに存在感たっぷりにある大きめのソファーセット。
この衣替えを3回してくれたのは母。

一回目は、
長女バッタがお腹にいた夏。

友達が事務所の引越しでいらなくなったから、
取りに来てくれるならタダであげるわ、
と言われ手に入れた事務所用の大き目なソファーセット。

小さなアパートのサロンを大きく支配していたが、
ベージュ色のコーデュロイ系の生地が、
赤ちゃんの誕生に相応しいとも言えず、
明るく楽しい雰囲気に、と、
夏遊びに来てくれた母がカバーを作ってくれた。

母は思い立つと、あっという間に実行に移してしまうタイプ。
夜中に考えつき、寸法を取り、図面を引き、型紙を切り、
翌日は私を説得し、生地を一緒に買いに走り、
その日のうちに友人から借りていたミシンを踏んでいた。

が、友人のミシンはどうも調子が悪い。

そこで、お達しが出る。

ミシンぐらい買いなさい、と。

7ヶ月目のお腹を揺すりながら、
アパートからそう遠くないお店にミシンを買いに行き、
汗を掻き掻き、ふうふう言いながら、歩いて持って帰ってきたことを
今でも思い出せる。

そうして、黄色の地のオレンジの花が咲く
明るいソファーセットを作り上げ、
母は日本に帰って行った。

二年後に、
今度は息子バッタがお腹にいる時、
やはり日本から母はやって来て、
いつの間にか汚れてしまったソファーを触り眺めつ、
図面と型紙を取り出させ、
新たな決心をし、明日、生地を買いに行こう、と宣言する。

ミシンを踏むのは母。
纏り縫いをするのは私の役目。

ちょっとしんどかったな、との思いが過ぎるが、
「新たに生まれてくる赤ちゃんに作ってあげたいわ。」
の一言に押される。

そして、今度は、青い波の地で、黄色の錨が模様となる、
やっぱり明るく楽しい柄のソファーセットが出来上がる。

その度に、
クッションも同じ生地に模様替え。

そうして、暫くは、そのソファーセットで落ち着いていた。

2年後に、また新たに末娘バッタがお腹に。
でも、4歳と2歳になる長女バッタと息子バッタとの相手で
恐らく手一杯だったのだろうか。
ソファーセットは、青い波の地で、黄色の錨の模様のままであった。

そうして、
末娘バッタが3歳の夏、
一人がらんと家に残され、現実を突きつけられ呆然としていた時、
日本の母からの電話。

黙っていようと思っていた。
というよりも、誰に何かを言える状態ではなかった。

すぐにばれた。

何故だろう。
何も言わなかったのに。

何故だろう。
私でさえ、彼に恋人がいるなんて、知らなかったのに。

あれだけ仕事で忙しいのに、
すぐに母は飛んできてくれた。

そして、
ソファーカバーを作ろうと、
いつもと同じように提案し、
2度の引越しを経ながらも大切に仕舞っておいた図面と型紙を出させ、
生地を買いに走る。

今度は、白地に金の刺繍模様。
明るく落ち着いた中にも華やかさがある。

滞在期間の丸3日間、ミシンを踏んで、
3人掛けの大きめな長いソファーに、
一人掛けの大きめなソファー2つ分を作り上げてしまう。

そうして、
日本に帰った行った母。

幼かった子供達はあまり良く覚えていない。
漠然と、自分達の誕生の度に、
日本のマミーがやってきて、
新しいソファーカバーを作ってくれたと思っている。

ミシンを踏んでいると、
バッタ達がパパのところから戻ってくる。

嬉しそうに覗きながら、
4人目の赤ちゃんはいないだろうから、
今度は子犬でも飼えば、
マミーは新しいソファーカバーを作ってくれるかな、
なんて相談し合っている。

さあ、この衣装が出来上がったら、
先ずは日本の母に連絡しようか。



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2012年3月15日木曜日

七人のサムライ達~傾向と対策~



メール送信後の反応

A氏: 問題あれば返事あり。返事のない場合は合意。
F氏: 問題あるとき返事なし。
D氏: 問題あってもなくても返事なし。仕事で多忙であるとの顕示。
E氏: 分かっていれば返事あり。分からないこと、面倒なことには返事なし。
Sさん: とことん返信。納得するまで返信。反応ない時、要注意。
Yさん: ほぼ返事なし。アクセス率少なく、メールを見ていない。
そして、
私: 即答。時間がない時、すぐに対応できない時でも、受信の知らせを取り敢えず送信。

分かっちゃいるけど、やってられないときもある。

対策としては、
とにかく、冷静に、慎重に、我慢強く、己が方針や価値観を押し付けず、
緊喫の課題なんて早々ないと思い、
焦らず、空回りせず、
皆のペースに合わせるしかあるまい。

七人のサムライ達、、、

それでも春は来ぬ。




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春に生きる


 

窓を開けると
大根の薄い半月切りのような月

チューリップはすっかりと葉を出し
ヒヤシンスは紫、白、ピンクの花を飾り
水仙は蕾が色づきたっぷりと重みを持ち始め
薔薇の枝には赤い芽がぷっつりと出ている。

フロントガラスのシャーベットを削りながら
夜のお伽噺に耳を傾け
ベッドのぬくもりを
早起き鳥達に預け

白々と明けゆく中
アクセルを踏む





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2012年3月12日月曜日

車窓には白い梅



身も心もすっかりと疲れ果てた木曜日の夕方。

コペンハーゲンの空港にて、
オシャレなカウンターで飛行機発着を眺めながら、
キャビアやイクラ、サーモン、握り鮨をつまみ、
シャンペンや白ワインを楽しむ場所も素通り。

お決まりのスタバで、
チャイラテとビスケット。

が、豊かさが心に広がらない。
仕事完了の達成感や充実感が湧き上がらない。

シャルルドゴールに近づいても、
いつもなら心に何かの動きをもたらすオレンジの光も
鉛と化した体を揺すらない。

ぼんやりとスーツケースを待ちながら、
こんな時だから、と
メッセージを打つ。

「ひょっとして空港近くで仕事じゃない?」

空港の近くは流通関係の企業が多く、
時々、仕事でこの辺に来ていると耳にしていた。
それでも、まさか会えるとは思ってはいない。
軽い挨拶のつもり。
それ以上でも、それ以下でもない。

タクシーに乗った時に携帯が震える。

「パリの中心にいるよ」

それだけ。
そっちは空港なの?とか、
残念、また今度だね、とか、
元気だった、とか、
一切書いていない。

挨拶程度のメッセージ、なんて大嘘で、
全てを受け入れ、期待はしない、なんてことも大嘘。

そんなことより、
やっぱり、こんな程度の返事だったか、と。

そうか、
そうか、
そうか。

タクシーの後部座席にどっぷりと浸かりながら、
パリのどんよりとした空を眺めつつ、
疲労感が怒涛のように押し寄せ、
危うく涙が出そうになる。

と、
慌てたかの様に携帯がまた震える。

「だけど、君の心の奥深い中心にいるよ。」

大きく息を吸って、
また、深々と座席に埋まる。

車窓には白い梅。



 
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2012年3月6日火曜日

自分を解放できるのは、自分だけ

「まさか、いかにも業界が接待に使って、これでもかって感じの超高級なところじゃないでしょうね。」

一体、この青年、いや、もう30歳だからいっぱしの大人だろうが、何を考えているのか。お客様とはいえ、あんまりなので、ピシリと言ってやる。

「うちのオフィスの人間が、フィンランドの伝統的な雰囲気で、伝統的なお料理を楽しめる場所として、心を込めて推薦してくれた場所です。どうして、そう人の行為を素直に受け止めることができないのでしょう。そんな嫌味ばかり言っているなら、もう、ここで失礼しますよ。」

最後は、ちょっと冗談っぽいトーンにする。

驚いたことに、相手はさっと態度を改め、そうでしたが、と素直に頷く。

通りの番号を確かめつつ、蝋燭の街路灯がぶらさがっているところまで足を進めると、そこがフィンランド料理のレストラン「Lappi」。
内装は木造で、アットホーム。

接待嫌いな割には、何故か出張の同行を私に依頼。
今回も3度目となってはいた。
確かに英語は得意でもなく、ロジスティックは全てお任せ。

孤独を愛するかと思えば、夕食も一緒。
それなら、せっかくなので、と、それこそ、ご本人の夢の一つであった、トナカイ料理のお店に今夜はお連れすることとなっていた。

先ほどの一言が効いたのか、
素晴らしい、素敵な雰囲気だ、と感嘆の声を連発。

アペリティフは?

「そんなん、どうだっていいんです。」

ああ。また始まったか。
まあ、いいや。

その割には食前酒に、トナカイの涙、がある、と嬉しそうな声を出す。

「せっかくなら、これ頼んでみてください。そして、どんな味だか、教えてください。」

ご一緒しませんか?

「いえ、僕はアルコールは飲まないことにしているのです。ここで飲むわけにはいきません。」

あれ?いつもとちょっと雰囲気が違う。確か、アルコールは苦手だったのでは。この言い方では、何かに願かけての禁酒なのか。

それなら、とスパークリングウォーター。
トナカイの涙なら、飲まなくても、感想が言えそうです。トナカイの気持ちになれましたとか。それよりも、お酒、飲めないのではなく、飲まないのですね。

「そうです。飲まないことにしているのです。」

その言い方が苦々しかったので、つい、続けてしまう。

ふうん。ひょっとして、お酒で大失敗した、とか?

「まあそんなところです。でも、僕じゃないですよ。」

ああ、お知り合いの方が、ですか。

「もう、面倒だから、言ってしまいます。
僕の両親、酒飲み運転の車に殺されました。」

「だから、僕は酒を飲んで楽しんでいる奴らが好きじゃないんです。すっごくむかつくんです。そして、僕も、酒は飲まない。」

「ひどいもんでしたよ。相手はおばちゃん。お互い、何を言ってもしょうがない。判決は執行猶予付きでした。淡々とお金で解決、って感じでした。慰謝料です。それからです。人を信じられなくなったのは。別に親の遺産がすごかったわけではないですが、その慰謝料目当てで色んな人が寄ってきました。僕には、色々なことがあり過ぎて、今は人を疑うことしかできません。」

まだ学生時代だったという。
それから、生きる意欲も、食欲も、性欲も、何もかもなくなった、と淡々と語る。

30歳にして、世の中の辛酸を嘗め尽くしたような話し方をすると思っていたが、そんな過去があったのか。

恐くて、自分を制御しているのだろうか。

細いおしゃれなボトルに入ったスパークリングウォーターがテーブルに置かれる。

話してしまって、むしろすっきりした感じの相手と
なんだか重いものを背負わされてしまった感じを抱きながら、
先ずは、小さな透明の粒が静かに上っている透明の液体で乾杯。

ああ、神様。
どうか、どうぞ、彼にもう一度、人と付き合うことの楽しさを思い出させてあげてください。
神様、どうぞ、彼をお守り下さい。
神様、彼をこの地にとどまらせてくださってありがとうございます。

トナカイの燻製、鮭のタルタル、鱒の卵、カタクチイワシの燻製、などが楽しそうに盛られた前菜がやってくる。

歓喜の声を挙げて迎える。

大丈夫。そう、少しずつ、少しずつ、ゆっくりと人生を楽しむことを自分にさせてあげて。自分を解放できるのは、自分だけ。

あ、これすっごく美味しい!生きていて良かったって程のお味ですよ。お勧めです!


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