2012年2月3日金曜日

シャンドラーの日に「いただきますっ!」



夜の帳が未だ開けていない早朝の空気は
ピリリとしていて
せっかく蕾が膨らんでいた黄色のクロッカスに目を向ける。

暗がりの中でも
膨らみをつんと上に向けていて、
流石の零下10度を超える寒さに
瞬時冷凍となったのか、
冴えた黄色に健気さを覚える。

太陽の光が差そうにも、
氷点下の世界に変わりはなく、
その花の生命の行く末を考える。

あたたかくなれば、
ゆっくりと水分が命の雫のように凍った花弁に行き渡り
歌を歌いながら蕾が開くのかもしれない。

急速に例年以上の寒さが大地を覆い、
大陸の冷気が地面から這いよってくる。

こんな日は
早く帰って熱々のフライパンでダンピンでも作ろう。

そう思うといても立ってもいられなくなる。
むっとした熱気と車の排気ガス、喧騒と共に、熱々の香ばしさが思い出される。

妹の住んでいる臺灣は、
バカンス中に行くことも手伝ってか
バッタ達も大好きな場所。

大好きないとこ達もいるし、いつでも夏だし、そして何より、
そう、何より、
おいしい食べ物が揃っている。

挙げたらきりがない大好きな食べ物リストの中でも、
トップ5に入るであろうダンピン(蛋餅)。

ニワトリの鳴き声が賑やかに聞こえ始めるのは朝4時。
とにかく臺灣の朝は早い。

7時には学校に行ってしまう子供達。
6時半頃に、慌てて通りに出る。

大通りは、
通勤の車、バイクで既に賑やか。
流れをしっかりと見極めて通りを渡ると、
朝の時間だけ開いているというダンピン屋さんがある。

一卵性双生児の運命か、
(であれば、大いに感謝しなければならないが)
ここでもお店のおじさんは、
にこにこと歓迎してくれる。

フランスにいる姉だと分かると、
笑顔が一層輝き、
ぞろぞろとついて来ているバッタ達3匹、
妹の子供達3人を見て、
さあ、いくつ焼こうか、と言ってくる。

3外国語として中国語を始めた長女バッタに任せる。

妹の子供達はにこにこ、様子を見守ってくれている。

そうして、
おじさんが手際よく大きなドラム缶の様な台の上に
ダンピンの皮を一枚乗せ、
片手でちゃっと卵を割り、
さっさか、さっさか焼き上げる様子に見惚れる。

その間にも、
おじさんは、日本の家族を気遣う言葉をかけてくれる。

震災後、今、どうしている、と。

私が台湾語はおろか、北京語が全くできないと分かると、
英語で話しかけてくれる。

驚くほど滑らかな発音に、
思わず聞き惚れる程の美しいイントネーション。

せっかくなので、思い切って英語で聞いてみる。

おじさんのダンピン、大ファンなのよ。
フランスで、見よう見まねで作ってみたけど、
ちょと何かが違うのよね。米粉に、あと、何を入れるの?

おじさんは、手をちょっと止めて、驚いた顔をする。

米粉?違うよ。小麦粉だよ。
水と小麦粉。それだけ。

そして、慌てて、特別な機械で攪拌しなきゃいけないけどね、と付け加える。
人の良さそうな笑顔に、
ふふふ、と思わず笑みが漏れる。

おじさんったら。
本当はそんな必要がないこと、見え見えであった。

近所に住む妹が、
翌日から家の前でダンピンを焼いて商売を始めたら困ってしまうと思ったに違いない。

そんなことが本当にできそうな何かを臺灣は持っている。

そうか、小麦粉なんだ。
じゃあ、クレープと同じだわ。

そう思っている間にも、頼んだ10個のダンピンは焼き上がり、
大きな菜切包丁でバンバンと6つぐらいに切られ、
一つずつ小さなビニール袋に入れられ
(臺灣では、このビニール袋と輪ゴムが至る所で利用され重宝されている)
シャッシャーと特別製のお醤油ダレが掛けられる。

熱々の出来立ての味は最高。
つるりとした食感と卵とお醤油のコンビネーションが、
朝のヤル気を奮い立ててくれる。

以来、
どうしても試してみたかった。

夕方のミーティングもそこそこに、
車を飛ばして、
超特急で着替えをし、
手を洗い、
台所に立つ。

フライパンを熱していると
「ママ、今日はシャンドラーだよ。」
と長女バッタ。

神の啓示を受けたかの様に、
タイミングの良さに電撃を受けてしまう。

シャンドラー、聖燭祭。
キリストの生誕(1225日)から40日経て、神殿で聖マリアが出産のお清めをし、キリストをお披露目した日と言われている。

フランスでは、
その日はクレープを焼いて食する風習がある。

丸く、輝く黄金色のクレープにキリストを見立てた、
との説が主流のようだが、
今や、歴史的背景よりも、風習の方が勝って大衆に受け入れられている。

この晴れの日に、
臺灣名物、ダンピンを焼く我が家の国際性といおうか、
ハチャメチャさといおうか、
なんでもありといおうか、
柔軟性といおうか、
とにかく、感慨深いこと、この上ない。

小麦粉と水を11の割合で、実に適当に混ぜ、
そこに、ちょっとズルをして、
丸い、乾燥した米粉の生春巻きの皮を入れ、
丁寧に皮が壊れないように、
されど、しっかりと水分を吸収するように裏返し、
ぱっと、
しっかりと熱したフライパンに放つ。

裏返して、
卵をぱんっと割り入れる。

くるくるっと巻いて、
ぽんっとお皿に載せる。

そこに、しゃっとナンプラーを振る。

香ばしさに釣られて、
バッタ達がキッチンに揃う。

細かいことにウルサイ息子バッタが、
ハーブ入りオイルがない、とか、特製お醤油ダレがない、
と騒ぐが、
一番に席に座り、先ずは一口。

おいしいっ!

慌てて、食前の一言を超早口で告げる。

お父さん、お母さん、ありがとうございます。
おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとうございます。
いただきます!


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2 件のコメント:

  1. あかうな4/2/12 15:32

    ごぶさたしています。あかうなです。すんごく面白くて一気に読みました。クロッカスの神々しさから大衆っぽいダンピンに来たと思ったらキリスト様のお祝いに昇華させてしまい最後は日本のお食事の感謝のご挨拶でしめくくる、すばらしい腕です。だんぴんのお味もすばらしかったのでしょうね。^_^

    返信削除
  2. わお!あかうなさん。香ばしいダンピンのにおいが、そちらにも伝わりましたでしょうか。お立ち寄り頂き嬉しい限りです。そして、コメントありがとうございます。

    バッタ達のリクエストに応え、今晩はクレープを焼きました。皆でそれぞれ好きなものを入れて作って食べたのですが、私は欲張って二人分のクレープの生地で作ってみました。全然、お勧めできないで~す。やっぱり、クレープは薄さが命、と身をもって知りましたです。

    またぜひ、お立ち寄りくださいね。

    返信削除