2012年2月28日火曜日

午後のカフェテリア


ぼんやりとカフェテリアの列の後ろで
午後のカフェオレを求めて並ぶ。

お昼休みの喧騒は鎮まっていて
ちょっと前まではカフェを飲み合う同僚達で賑わっていただろう丸テーブルは
パン屑や砂糖の粉を散らしたまま、
あちこちで佇んでいる。

マグレブ系の若者が、
どこからからふらふらっとやってきて
濡れ雑巾ですらーすらーっと
丸テーブルの上をかすり始める。

幼い頃、
テーブルを拭く時に、
ゴミを片隅に集めるようにして、取りながら拭くようにと、
厳しく母に言われたことを思い出す。

今、同じことをバッタ達に言っている。

消しゴムのかすも、
ビスケットの粉も、
ご飯粒でさえ、
一緒くたに雑巾でぐいっと拭いてしまう息子バッタ。
気がつくとテーブルの下にぽろぽろと落としている末娘バッタ。

幼い時の教育の大切さ、
そんなことを考えながら青年の拭く姿を見つめていたのであろう。

青年がこちらに気がついた様子で
幾つものテーブルを回りながら、
それでも、やっぱり
パン屑も砂糖の粉も、なにもかも一緒に、すらーすらーっと
表面だけをなでる動作を変わりなく続け、
こちらをちらちら見ている。

評価されたいのであろう。
人間誰でも褒めれば育つ。

そう思った時、
青年がふいにやって来て、私の真後ろで列を横切る。

一瞬、
お尻をすらーっと撫でられたかのような錯覚に陥る。

そうして、
何もなかったかの様に、いや、実に何もなかったわけではあるが、
青年はやはり同じように、
向こう側のテーブルを
すらーすらーっと
なで始める。




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2012年2月27日月曜日

別れの時



親の背を見て子は育つ、とは本当かもしれない。

両親が接客業だからか、
或いは、もともとの彼らの性格からくるのか、
お客様をお見送りする時は、お車が見えなくなるまで手を振ったり、
お辞儀をする。
友達とて同じこと。

このことはしっかりとDNAで受け継がれているのかもしれない。

我が家にくる方々は、
玄関から庭を通って門を出るまで、
或いは、その姿が通りから見えなくなるまで、
バッタ達や私から見送られることになる。

あと一週間、冬のバカンスが残っているバッタ達。
今週はパパの住むパリ。

このところお役所関連で縁付いているが、
末娘バッタの日本のパスポートがこの夏に期限がくるので、再発行の申請をすることに。
バカンス中でもあるし、パリにいるので、朝のラッシュが収まった頃に彼女をピックアップすることに。

初めの数回こそ、
彼が住むパリのアパートに行くことは勿論、
そこにバッタ達を連れて行くことは、胸が引き裂かれんばかりの至難の業であった。

いや、今でも、大して変わりはない。

約束の10時半ぴったりにアパートの前に車をつける。
予め聞いておいた門のコードを押し、扉を開け中に入る。
と、末娘バッタが飛んでくる。
きっと、窓から、今か、今か、と覗いていたに違いない。
息を弾ませている。
5階から階段を駆け下りたのか。

ちょっと風邪声。
二日しか会っていないのに、久しぶりに会ったように思われる。

いつもは、お姉ちゃんやらお兄ちゃんに助手席を奪われてしまうが、今日は一人。
それでも、遠慮がちに、前に座って良いか、と聞いてくる。
長女バッタからお願いされていた彼女のノートやら、
息子バッタの忘れ物の袋を手渡して、
車を出すと、
アパートの上の窓から、しきりに誰かが手を振っている。

5つになるドミフレール。

幼稚園生の彼は、いつもはベビーシッターさんと一人のところ、
今回はバッタ達がいるので大喜びとか。
長女バッタは英語の講習会に、
息子バッタはバドミントンの練習に朝から出てしまっていたので、
どうやら末娘バッタが、彼のお相手をしていたらしい。

風邪声ながらも、鼻にかかった甘え声で、色々とおしゃべりをしている末娘バッタ。

幸運なことに、大使館の前の路上駐車場が、我々を待っていたかのようにぽっかりと空いており、日本大使館の手際の良さと、お互いの信頼感が感じられる心地よさとを同時に味わいつつ、申請はあっという間に済んでしまう。

先週、フランスのパスポート申請に小一時間かかったこともあり、
これには末娘バッタも驚く。

ね、日本は、日本人としてパスポートを申請する人々を信頼しているから、必要書類も少ないし、こんなに早いのよ。

うれしそうに末娘バッタが頷く。

そうして、ひと時の彼女とのデートの時間はあっけなく終わりに近づく。

快適に車を走らせ、
またもとのアパートの前に車を停める。

手を握って、大きな瞳をぱちぱちとさせ、ふっと顔を寄せてビズをする。

おいおい、まるで恋人同士じゃない。

観念して外に出てからも、
汚いであろう助手席の窓ガラスに口を寄せ、ビズ。
そして、小さな細い手をぴったりとくっつけて、離さない。

これでは、車も出せない。

ふっと手を離した隙に、
車をスッと出し、手を振る。

末娘バッタは、その場から離れない。

ほら、早くアパートに入りなさい。
ほら、
ほら!

そう思いつつ、車をゆっくりと前進させ、バックミラーで末娘バッタの姿がどんどん小さくなっていくのを確認する。

それでも、彼女は動かない。

慌てて窓を開け、左手を大きく上げる。

彼女の手も上がり、やがて見えなくなる。
車は、もう別の道を走り始める。



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2012年2月25日土曜日

息子バッタの夢


 
気がつくとすっかり彼のペースで、
パリの区役所のパスポート申請窓口に
バッタ達と彼と一緒に佇んでいた。

前夜、パパが迎えに来ても起き上がれなかった長女バッタ。
突然の腹痛に呻き苦しむ彼女の姿に、
強引な彼も長女バッタを残し、息子バッタと末娘バッタをだけを連れて行く。
とにかく、翌日の区役所での約束の時間には連れて来て欲しいと念を押して。

その晩、どんな時間を私と長女バッタが過ごしたかは、
ここでは割愛しよう。

翌朝、6時半に家を出る時、
漸く落ち着いた長女バッタ。
少し眠ると言うので、一人残し出社する。

バッタ達のフランスのパスポートの更新の時期。
どうやら必要書類は日本のパスポート申請よりも多く、
離婚家庭が多いからだろうか、
いたって複雑になっている。

パパは子供達のパスポートにパリの住所を使いたがっていた。
しかし、実際問題、子供達は大半は私と一緒に住んでいる。
裁判の判決だって、そうなっている。
が、
彼の思考回路はちょっと普通とは違うのだろう。

自分(達)にとって都合の良いように、
法的にも問題なければ、
あらゆる手段を使ってでも、
既成事実をひん曲げてでも、
やってしまおう、やってしまえる、
と考えるタイプ。

そして、事実、
真っ青で苦しむ長女バッタを車で連れて行くや、
私にも同行を依頼する。

最初は、
あまりに具合の悪い長女バッタを思ってのことかと考えていた。
が、
駐車場から区役所に行くまでの数メートルで、
もしも何か聞かれたら、
隔週で子供達が両親のもとを行き来していること、
私が子供達がパリに住んでいることを了解していること、
パパとの関係が良好なこと、
などなど、うまく言って欲しいと言われる。

そうか。
そう来たか。

しかし、
どうして彼はこういう人なのだろう。

バッタ達の前で、
彼らのパスポート申請という重要な行為に対し、
一体、それを支援しない親がいようか。

その日は珍しく晴れていて、
漸く回復しつつある長女バッタ、
気がつくと私の背に追いついてきた息子バッタ、
ぴったりと手をつないで隣を離れない末娘バッタ、
そして、嬉しそうに、誇らしげにしている父親、
なんとも、うまくムードに乗せられてしまっている自分を感じつつも、
まあ、仕方ないな、と思い始めてもいた。

彼らしい、
そうとしか、言いようがない。

区役所の入り口で、
彼が嬉しそうに言う。

知っているかい?君の息子は将来外交官になりたいらしいよ。
それがね、どうしてだか分かるかい?
外交官ナンバーの車を運転すれば、どこでも駐車できるし、
ある程度の違反は問題視されないからだってさ。

ぎょっとする。
私にはエンジニアになって、日本とパリを数分でつなぐ超スピード旅客機を作りたい、
と言っていたのに。

外交官という仕事に就きたいのであれば、
その志や天晴れ、と言いたいところだが、
なんたる動機。

しかも、それを嬉しそうに語っている父親。

呆れてものが言えない。

そうか。
息子よ。

朱に交われば赤くなる。

お前は、そうやって、父親と同じ道を歩むのか。

心が揺らぐが、とにかくも、区役所に来ている。
さっさと済ませてしまおう。

フランス人でもあるバッタ達のパスポート申請。
なんと、
私が異邦人として感じた非効率的さが感じられて、何やらほっとする。

そうして、母親の私のパスポート、そのコピーが必要なことが判明。
慌ててコピー機に走る。
もしも、と思い、バッタ達の身分証明書も持参していたが、
それも必要であることが判明。

要領の悪さは、実は異邦人向けの嫌がらせではなく、
フランスのアドミニストレーションの手際の悪さであると再確認。
こんなことを知ることも、悪くはない。

しかし、
私がいなかったら、どうしていたのだろう。
私がバッタ達の身分証明書を持ってこなかったら、今頃どうなっていたことやら。

ほっとした表情の彼。

小一時間後、解放され、
冬の太陽が明るく射す通りに出る。

調子の良い息子バッタには、
一度ガツンと言わねばなるまい。

でも、きっと彼だって、パパと楽しい時間を過ごしたいに違いない。

10ユーロもするカフェを飲みながら、
フーケで何故サルコジが今回再選されないかのレクチャーを受けたと言う。

末娘バッタは、ちっともつまらない会話で面白くもなかった、と
鼻を鳴らす。

パパの話は、やっぱり知的好奇心をそそられるものであろうよ。
息子バッタよ、
それが全てとは思ってくれるなよ。

そして、
末娘バッタよ。
パパの話にも、ちゃんと耳を傾けるんだよ。
パパの知識を上手く利用するぐらいになるんだよ。

親の悩みは尽きない。。。


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2012年2月21日火曜日

クスクスの魔法

湯気の立つ
金色の細やかな粒を
底のある大きな皿によそい、

ヒヨコマメやレーズンを
好きなだけ振りかけ、
真っ赤な唐辛子ソース、ハリサを溶かし入れた
熱々の野菜スープを
たっぷりと注ぐ。

小さな粒たちが
お腹の中で
ぷっくらと野菜スープを吸収し膨張するのか、
突然、満腹感に襲われ、
それ以上は一口も入らなくなる。

その頃には
話したい話も
聞いて欲しい話も
あることないこと
皆話し終えて、

聞きたい話も
ちゃんと聞き終えて、

充足感に満ち溢れる。

クスクスがもたらす至福の一時。




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仕方のないこと




ママ、うるさくて聞こえないよ。
バッタ達のクレームもなんのその。
彼らがDVDを見ているそばで、印刷機をフル回転。

あちらが全て整えてくれるものと思っていたが、
印刷ぐらいはして欲しいといわれ、
慌てて日本語版12枚、仏語版19枚を印刷。

正直、印刷なんて、スイッチポン。
こんな簡単な作業はないと軽く見ていただけに、あちらの態度に大慌て。

バッタ達の学校の保護者会の役員になったばかりに、
振ってくる、振ってくる、仕事の山。

お手伝いお願いしますと、
振ってくる、振ってくる、依頼の山。

今回の行事は、
別に学校の主催ではないが、学校の講堂を使うから、と
主催者側が生徒は勿論、学校関係者を招待するので、招待状を送って欲しいと、
保護者会に依頼がくる。

保護者会の仕事、イコール、7人のサムライ、7人の役員の仕事。

ところが、この7人のサムライだって、息が合っているとは言いがたい。

取り敢えずは、今回の窓口は私が引き受け、捌くことにする。

日本語、仏語で文書をしたため、
まな板の鯉みたいに、主催者を始め、7人のサムライ仲間達から料理され、
素直に訂正し、
招待客のリストを作成し、メールをし、と
ひたすら作業をすれば、
学校の保護者から主催が保護者会と勘違いされており、
保護者会にとっては『漁夫の利』じゃないかと、主催者側から思わぬクレーム。
慌てて、謝り、保護者に改めて主催者を紹介したメールを書き、、、。

招待状には、主催者を十分紹介してあるではないか、などど言ってはいけない。

黙々と仰せに従い。。。

面倒なことは、主催者側とは大きな団体なので、
この下でボランティアで働いている方々がいらっしゃるということ。
そして、ややこしいことに、その方々は学校の保護者。

彼らが、手厳しい。

保護者全員に改めて、このボランティアの方々を紹介、
この企画を持ってきてくださった方を紹介。。。

そうして、
昨夜は吐く息も白く、
冷たく星が瞬く中を車を走らせ、
書類を手渡しに行く。

ひたすら不手際を謝り、
お願いして書類を渡す。

これで、一息つけるかな、
そう思ったのも束の間。

誤解が誤解を生んだ、若干糾弾のメールが入ってくる。

ちょっと、ちょっと、待って欲しい。

この私を信じて欲しい、
とまでは言えないが、
これってあり?

まあ、仕方のないことか。

人間関係の難しいことよ。

仕方のないこと、と言えども、誰かに聞いて欲しい、と
友人の一人に、愚痴でごめん、と題したメールを送る。

が、
全く見当違いの返事が返ってくる。
「頭がぐちゃぐちゃなんでしょ?意味不明だよ。」
とまで言われてしまう。

そうか。
いや、実に、愚痴っても仕方のないことではあったか。

愚痴ったのに、
分かってもらえなかったことで、
却って、本当に馬鹿らしくなって、笑えてさえくる。

まあ、仕方のないこと。

どの道、せねばならぬこと。

黒子に徹し、
関係者をひたすら立てつつ、
感謝をしつつ、
イベントの成功に向け
奉仕しよう。

そう思ったことで
ちょっと心に余裕が出てきたか。

外では冷たい紺碧の空が眩しく輝いている。



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2012年2月16日木曜日

異国の地に生きる


「グワッ!」
鋭い声を浴びせられる。
いきなりのことに呆然。

県庁の入り口でのこと。

アラブ系の青年。
そして、その後に数人の若者達が
どやどやと出てくる。

後ろの若い女性が
仲間のとった行為を笑っているから、
そう悪意はないのだろう。

県庁といっても、
ここは運転免許書や
外国人の滞在許可書発行センターであり、
いつ行っても酷く混んでいて、
何時間も待たねばならず、
機嫌の良い人を探すことのほうが困難。

それでも、
不意打ちをくらい、
若者のやるせない憤懣の思いを
一手に受け止めてしまったので、
それをどう浄化しようかと、
鉛の心を引き摺り
持て余してしまっていた。

案の定、
列は長く、
幼い子の泣き声が響いていた。

昨年の11月には申請していたので、
発行完了通知を待っていたのだが、
それを受け取る前に、
仮滞在許可書の期限が来てしまっていた。

ふと不安に陥る。
離婚をした外国人の滞在許可書の取り扱いを考えてみる。
フランス人の子供の母親であることで、
問題なく滞在許可書は更新になるのか。

周りの男女も、
何やら不安げな面持ち。

一体、
何故彼らは、自国を捨てて、フランスという異国の地に足を踏み入れたのだろう。
自分達を守ってくれる国を捨ててまで。

いや、
守ってくれない国もあろうか。
そんな国から逃げてきた人もいようか。

職を求めて。
生活の安定を求めて。
夢を求めて。

日本という国を出ることで、
憂鬱なる異邦人となり、
沢山の書類を揃え提出し、
滞在許可書を申請し、
途方もなく長い間待たされねばならない。

帰ろうか。

異国の地に留まることは、
その地に強烈なる思い入れがなくてはなるまい。

こうして、
数年に一度、
踏み絵のように、
更新を申請し、
数十年来の納税者であることなどお構いなしに、
初めてこの地に足を踏み入れた人々と恰も同じ扱いを受け、
長い間待たされねばならない。

帰ろうか。

漸く順番が来る。

相手の女性は肌が濃く、
アフリカ系の出身らしい。
綺麗な真っ白な歯が印象的。
こちら側から、あちら側に移ったのだろう。

こちら側の痛みを知っているからか、
対応は笑顔が絶えず、
何より爽やか。

馬鹿馬鹿しい話ながら、
これだけ、そう、一時間も待たされて、
もらったのは、一枚の数字の入った紙切れ。

その数字が掲示板に表示されると、
漸く、正式に対応してくれる窓口に行く仕組みになっている。

今度はゆっくりとベンチに腰を掛ける。

水曜だから、
お昼にはバッタ達が帰ってくる。
早く終わったら、
近くのスーパーで買い物をして行こうか。

快適な外国人向け滞在許可書発行センターを思い描いてみる。
効率的で、機能的で、友好的な雰囲気の
明るさに満ち満ちていて、希望の感じられる場所。

しかし、
どの政府にしても、
簡単に外国人の滞在を許可はできまい。
現にテロリストの問題がある。

これは、仕方のないことなのであろう。
そんな風に思っていると、
掲示板が順番が来たことを告げる。

窓口の女性は、
生まれた時には既に、
あちら側にいた人。

非常に事務的に、
滞在許可書は現在作成中なので
今、顔写真さえ持っていれば、
新たに3ヶ月期限の仮滞在許可書を出すという。

たまたまお財布に入れていた、
身分証明書用の顔写真が役に立つ。
なんでこんな写真を入れていたのだろう。
とにかく、救われる。

不安な面持ちの人ごみを掻き分け、
外に出ると
どんよりとした曇り空。

スーパーには寄らずに、
真っ直ぐ家に行き、
圧力鍋でご飯を炊き、
長ネギ、人参、ひき肉入りの麻婆豆腐を作る。

1220分。
末娘バッタがそろそろ帰る時間か。

顔を見て会社に戻ろうか。
いや、タイムアップ。

鞄をつかんで、外に出る。
グイっとアクセルを踏んだ時、
サイドミラーに
末娘バッタの茶色いオーバーと
縄跳びを持った手が見える。

さあ、お帰り。
熱々のご飯が待っているよ。
ママは、一仕事してくるからね。
じゃ、夜にね。


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2012年2月14日火曜日

ハッピーバレンタイン!



先週さりげなく、
そう、ものすごくさりげなく、
今週の予定を聞いた時、
火曜ならお茶ができるかもしれないというので
びっくりした。

しかも、
いつも遠い、遠いといっている郊外に、
その日は仕事で行っているというので、
余計驚く。

分かっているのかな?

でも、
確かめるのも興ざめだし、
それよりも、
と慌てる。
そんな特別な日にお茶なら、
ちゃんと用意しなきゃ。

しつこくしないこと。
相手を追い詰めないこと。
そして、
期待しないこと。

その三原則の大切さを
十分知っていた。

それでも、
なかなか現実はそうはいかない。

ただ、最近は
何かと忙しくしていることもあって、
我知らずに、
三原則は守られ、
気がつくと当日に。

いや、
守られているとは真っ赤な嘘。
その証拠に、
朝の冷たい空気が
車のエンジンとヒーターで
温まっていく中で、
車内は、
甘いチョコレートの香りに満ち溢れてきていた。

お昼頃
珍しく
携帯が震動する。

:-*

顔文字?
くすり、とする。
ウインクかな。

ふうん、
やっぱり、今日が特別な日だって分かっていたんだ。
なんだか安心する。

そうして、
何やかにやと集中し、
気がつくと、何の連絡もなく、夕方に。

「やっほ。どうしてる?何時ごろに会えそう?」

返事がない。
普通なら、こんな時は放っておくのだが、
車に残している甘い香りを放つトリュフを思うと、
つい、立て続けにメッセージを送ってしまう。

「住所を教えて。そっちに向かうから。」
「届け物があるの。」

携帯はピクリともしない。

忙しいに違いない。
お客様と打ち合わせ中に違いない。
それでも、禁を犯してしまう。
呼び出し音が4回鳴ると、
留守番電話に切り替わる。

そうか。

何かを悟り、
即座に電話を切る。

そうか。

そうして、
緩慢な動作で車のエンジンを駆け、
ゆっくりと、
アクセルを踏む。

ゆっくりと、ゆっくりと
いつもの半分以下のスピードで
のろのろと走る。

それでも
携帯は動かない。

そうか。
そうか。

なんだか、
車内のチョコレートの香りが煩く感じる。

まあ、しょうがないよ。
仕事なんだもん。

夕暮れで灰色がかった空を見上げる。
何のメッセージも読み取れない。

無理してでも
どうしても会いたい関係。
無理せずに
会えるときに会う関係。

ぼんやりと考えてみる。

無理をすると、
その後でリバウンドがあるし、
長続きはしないものかもな、
なんて考えてみる。

こうして、
ゆっくりと車を運転できている
自分自身の変化にも驚く。

昔は、こうは行くまい。

そうして、
信号が変わる寸前で
携帯に変化が。

「ごめん。今、メッセージに気がついたよ!」

その手があったか。
そう思いつつも、
走行中の携帯使用は減点2ポイントながら、
「それで?」
と返事を送る。

さあ、
どう出るだろう。

今度は携帯が震動し続ける。
いかにも根を詰めて集中していた人の、押し潰したような声が聞こえる。
メッセージや電話の受信に全く気がつかなかったことを詫び、
ひどく立て込んでいて、とてもじゃないが仕事が片付いていないことを告げ、
今日は難しいと謝る。

住所を教えてもらえれば、届けに行くのに。

非常に車が混む場所だし、ラッシュの時間帯だし、
大変だから、そんなことはさせられない、と返事が返ってくる。

「じゃあ、このお届けもの、
いつ渡せる?」

「えっと。。。
明日、明日はどう?」

明日も、また別の郊外に行くと先週聞いていた。
まあ、それでもいいか。
明日、
悪くないよ。

「オーケー。
じゃあ、上手くいけば、明日だね。では、お仕事頑張ってね。」

そう言って、電話を切る。

こんなバレンタインがあってもいいや。

車内のチョコレートの香りが甘く感じられる。

我が家に帰れば、
末娘バッタが飛んできて、
クラスの男の子からもらった手作りのカードを見せてくれる。
沢山の小さな真っ赤なポンポンがびっちりとハート型に貼られていて
なかなかの出来具合い。
チョコレートも幾つかプレゼントについている。

ただ、どうやら、
彼からのものすごいアプローチを、
かなり迷惑に感じているらしい。

息子バッタは、
今年は誰からもカードをもらわなかったらしく、
そんなのなんだい、といった感じで、
一人で分厚いSFの本を読んでいる。

長女バッタときたら、
恐らく何人からもカードをもらったに違いないが、
何も言わず、すまして明日の試験勉強に勤しんでいる。

長女バッタに
目の前の家に一人で住むマダムに
トリュフを持って行ってもらう。

と、夕食後、
末娘バッタが、
ハートの形の手作りのメッセージカードを手渡してくれる。

ママ、
いつもいつもありがとう。
これからも、ずっとよろしくね。

背中からぎゅっと抱きしめてくる末娘バッタ。

ありがとう。

彼女を胸にしっかりと抱きとめる。

ハッピーバレンタイン!




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