2011年10月7日金曜日

本当の自由人とは


「上手くいったわよ。」

嬉しそうに報告してくれる。彼女とのランチは日本食レストランと決まっている。中国人の経営だし、私にしてみれば、それはスシであって寿司ではないのだが、オフィス近辺では一番スシ飯がまともであり、刺身も新鮮。それに、最後にサービスでつく熱々の手拭いとピーナツのヌガーが嬉しいので、二人が食事をする時には、いつもそこと決まっていた。

ここ数日であっという間に気温が10度近く下がってしまい、冷たい風が容赦なく頬を叩きつける。一昨日まではノースリーブのサマードレスを着ていた彼女も、今日はセーター姿。

これでは醤油の味しかしないだろう、と思われるほどたっぷりと醤油をかけ、器用そうに箸を使ってマグロを口に運びながら彼女の話は続く。

レバノン人の彼女は、やっぱりレバノン人の旦那と子供2人の4人家族。アメリカのグリーンカードを取得すべく、昨年から必要書類を揃え申請手続きをし、先日、大使館で最終面接を終えてきたばかりだった。

フランスのパスポートも持っているが、来年高校を卒業する長男がアメリカの大学に行けるようにと考えて着々と準備してきていた。グリーンカードを保持するか否かで、アメリカでは大学の入学金、授業料が大幅に違う。

健康診断の費用も含め、家族4人の申請の為、既に3000ユーロは支払っていた。未だ中学生の次男を思えば、グリーンカードを取得しても、すぐには渡米しないという。長男が一人で乗り込むことになる。しかし、毎年訪米しなければ、権利は消滅してしまう。となれば、ある意味で維持費(旅費、滞在費)は馬鹿になるまい。

それでも、子供の将来を思い、アメリカのグリーンカードを夢見る友人。

ハシバミ色の瞳をキラキラと輝かせ、この万聖節のバカンスには長男と一緒にニューヨークに行くという。誕生祝いとか。

彼女にとって、アメリカは遠い国ではない。レバノンの大学を終え、アメリカで経済を学んでいたし、彼女のきょうだいが既にアメリカに住んでいた。

旦那とはアラビア語で話すという彼女。でも子供達は理解しても話せないという。

子供達は、フランスで生まれ、これまでフランスで育っている。彼らは自分達のアイデンティティについてどう思っているのだろうか。

長男は、レバノン人であることを誇りとしている、と嬉しそうに語る友人。先日も、彼と一緒にレバノン人の監督による映画を観てきたという。ところが、次男は、自分はフランス人であると主張するらしい。30年以上も前に渡米した旦那の弟は、アメリカ人と結婚し子供もいるが、一回もレバノンに帰っていないという。子供達は自分の父親がレバノン人であることを知らないらしい。フランス語を話す父親を、むしろフランス人と考えているとか。

友人一家はアメリカの国籍を最終的に得ることになれば、各人が3つの国籍保有者となる。

一国籍主義の日本人には考えられないこと。

18歳になったら国籍の選択を強いられるバッタ達を思う。

EUのパスポートを保有することでの利点を思えば、フランスのパスポートを選ぶことになるのであろうか。日本のパスポートを手放しても『魂』は手放すなよ、なんて思ってしまう私は、やっぱり、骨の髄まで日本人なのであろう。

幾つものパスポートを自在に利用し、必要とあれば、新たに入手しようと試みる友人は自由人。国という枠に囚われず、それでいて、母国を愛しいと思う気持ちも人一倍。

ダイエット中だからと、食後のヌガーを二つばかり口にして満足そうに微笑む友人。今度はレバノン料理を一緒に食べに行こう。ゆっくりと時間をとって。


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